人は死んだら○○に還る

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いきなりですが、タイトル文の「○○」に漢字か平仮名で2文字入れるとしたら、皆さんは何にしますか?

Do not stand at my grave and weep,

(私のお墓の前で泣かないで)

I am not there, I do not sleep.

(私はそこにはいないのだから。私は眠ってはいないのだから。)

米国で起きた同時多発テロの追悼式で詠まれた詩の冒頭です。日本では「千の風になって」というタイトルで、2006年に秋川雅史さんがNHK紅白歌合戦で歌い、多くの人々の心に浸透しています。親しい人が突然目の前から姿を消した時に、その人はどうなるのか──個人の価値観でそれぞれ違う形を思い浮かべ、信じるものだと思います。

しかし! あえて考えてみると、人は死んだら何に還るといえるでしょうか? 未来館の科学コミュニケーション専門主任の池辺が、科学コミュニケーター全員にこの問いを投げました。突然の問いに、みんな困惑。様々な答えが出ます。死体、お墓、記憶、物体、大地、自然…。

池辺の提示した“正解”は「空気」。

どうですか? 腑に落ちました? 科学コミュニケーター達もなんとなくハテナ顔。

池辺が背景に持っていた文脈は「炭素循環」。私たちの体は有機物、つまり、炭素を骨格とする分子でできています。私たちの体を作る有機物は、科学コミュニケーター坂巻が大好きなウンコやおしっこや垢、汗や涙、鼻水になり体外へ排出されます。その後は? トイレやゴミ箱が隠しているために、目の前で実際の変化を見られないのが困りものですが、下水処理場で微生物に分解されたり、焼却炉で燃やされたりして、最終的には二酸化炭素となって空気中へ放出されます。空気中の二酸化炭素は植物に取り込まれ、光合成によって形を変え、植物の体の一部となります。植物を動物が食べることで、有機物は動物の体へと移動し、食物連鎖にのって次々と動物の体の中を渡り歩きます。そして最後は体外に排出され、微生物に分解されて二酸化炭素となり、また空気中へ。

炭素は地球上の生命と空気の間を、巡っています。これが炭素循環。

炭素循環

あれ? ちょっと待った! 循環しているのだったら、スタートもゴールもないのだから、「人は死んだら」の答えは「空気」でなくても良いのでは? 循環の中にある「自然」だって「大地(の中にすむ微生物)」だって、「あなた」とかでも正解なのでは?

池辺は首を振ります。そして差し出したのは、12月7 日から未来館のドームシアターで公開される「ちきゅうをみつめて」の監修者、舩岡正光先生の著書『緑のループ』。池辺いわく、「私は30回、この本を読み込みましたよ」。

自然界の物質は、原子のつながりが多くエネルギーをたくさん蓄えている状態から、バラバラでエネルギーの低い状態へと移っていきます。炭素循環の中でエネルギーが最も低い物質は二酸化炭素。炭素は1つだけで、もはや炭素どうしのつながりはなく、バラバラになった状態にあります。すべての有機物は、このゴールを目指してエネルギーを周りに与えながら流れていきます。

では、世の中に様々な有機物が存在するのはなぜ? それは植物が太陽のエネルギーを使って、二酸化炭素を集め、炭素がたくさんつながった有機化合物を作り出すから。

植物

植物が作った有機物は段階的に分解され、エネルギーを生み出し、生命はそのエネルギーを利用して新たな物質を作り、活動しているのです。そして、最終的に有機物は二酸化炭素というゴールに還ります。二酸化炭素は様々な有機物のゴールでもあり、スタートでもあるというわけ。

そら

I am in a thousand winds that blow,

(私は吹き渡る千の風の中にいるのです)

炭素は空気中の二酸化炭素から始まり、地球の生命の中を流れ、また空気に戻ってくる。「千の風になって」は真理をついていたのですね。アメリカ発祥詠み人知らず(一説にはアメリカ先住民作詞)、と言われるこの歌の原詞、いったい誰がどんな想いで紡いだのか、興味が湧いてきます。

炭素循環を親子で実感できるドーム映像「ちきゅうをみつめて」。

12月7日公開です。お楽しみに!

ちきゅうをみつめて

「ちきゅうをみつめて」特設ウェブサイトへ

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この記事への2件のフィードバック

物質しか捉えられないのは、科学の限界でしょうか。ヒトでなく人とした場合、その人の行動や発言の記憶は、残された人々の脳に情報として残り、形を変えて次へ伝えられます。人格の形成は、親や周囲の人から受けた情報(ミーム)と物質的環境シグナル(エピジェネティックな細胞システムも含む)およびDNAの協奏によるものではないですか?情報をDNAとしてだけでなく、体外に取り出して、ミームとして伝えることに成功した人の死としては、片手落ちではないでしょうか?
脳科学が発達し、経済活動さえ対象としている時代に、寂しい結論だと思いました。

炭素循環。「元素生活」という本を買った所だったので「そうそう!」とすごく良くわかるお話でした。

地球温暖化、などというと地球の成分が変わってしまったかような印象を受けますが、実は今まで地中にあった炭素成分が空気中にたくさん出されちゃったんだ、というだけのこと。地球の元素のトータルとしては変わっていないんだという・・・

「千の風の中にいるのです」も今までは精神的なイメージの言葉として聞いていましたが「そうかー炭素循環的にも風になっちゃうのか!」と頭の上に豆電球がぺカッ!と光るような気分でした。

私にはとても楽しいお話でした。ありがとうございました

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