永遠の生、おひとついかが?

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かぁっと照りつける太陽と青空にひろがる典型的な入道雲。日頃、建物の中でパソコン画面をにらみつけて過ごしている疲れがふっとびます。ここは和歌山県の白浜。京都大学のフィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所と白浜水族館があります。美しい砂浜が目の前に広がり、水平線がかなたに広がります。こんなところで暮らせたら、広い視点で物事を考えることができそう。

昨年8月にこの研究所を訪ねた目的は、永遠の命をほこる、ある意味「最強の」多細胞動物、ベニクラゲ。体長は最大で1 cm、透明な体の中にピンク色の卵と内臓が見えます。

■老いては若返る、ベニクラゲの生活環

潮の匂いの漂う研究所で出迎えて下さったのは久保田信先生。早速ベニクラゲを見せて頂きました。

机のまわりには飼育装置やピンセット・スポイトなどの実験器具、そして顕微鏡。

愛らしいベニクラゲ。まるで梅餡をくるんだ寒天菓子のよう。

ベニクラゲは複数の色々な細胞からなりたつ多細胞生物。多細胞生物のご先祖さまは、およそ10億年前、体をかたちづくる細胞たちを2つに役割分担しました。次の世代をつくるための生殖細胞(精子と卵)と、その個体を維持するための体細胞。こうして、他の個体の生殖細胞と自分の生殖細胞とを融合させることで、自分とはすこし変化した子どもをつくる、有性生殖という戦略を手に入れたのです。しかし、生殖細胞以外の体細胞は、一代限りでお役御免。有性生殖を行う生物は、自分と少し違った子どもをつくる能力と引き換えに、一代限りで死ぬという運命を受け入れました。

ところがベニクラゲは、オスとメスがいて、精子と卵をつくり、子どもを残すのに、両親も死なない。何度でもよみがえる!一般的なクラゲは寿命が一年で、最後は身体が溶けて死んでいきます。一方、ベニクラゲは寿命近くなると体全体がタネ状に丸まり、陸に近い浅瀬で海底に根をはります。そこから植物のように茎を生やし触手のような突起を伸ばし、暖かくなると多数の実をつけ、その実が小さな子クラゲとなり分離していきます。若返るとともに、多数のクローン個体を生み出すのです!理論的には数億年前のベニクラゲの若返り個体が現在も生きている可能性だってあります。不老不死ではありませんが、「老いては若返る」不思議な生き方を手にしているのです。

(A: 成長したベニクラゲ。D: 退化中のクラゲ。E: 肉団子状のベニクラゲから若返り開始。F, G: ポリプに幼いベニクラゲの芽ができ、幼いベニクラゲが泳ぎだす。A→D→E→F→Gを繰り返し続ける。B+C→H: 卵と精子が合体して次世代のプラヌラ幼生が誕生し、これが若いポリプへと変態する)

ベニクラゲの研究は世界中で行われていますが、飼育下で2回以上の若返りに成功させた方は1人しかいません。それが、久保田先生です。先生は研究室で10回の若返りの観察に成功しています。ベニクラゲが11回目の若返りに入る前に、久保田先生は入院を余儀なくされ、久保田先生の愛情下から離れたベニクラゲは死滅してしまったそうです。「海水のかけ流しという恵まれた瀬戸臨海実験所の水環境が若返りの観察を可能にしていたんですが…」と久保田先生は口惜しそう。

■若返るのはベニクラゲだけ!

次に、お手製という特殊な網を手にした久保田先生とともに、目の前の岸壁へ。海面を眺めること2分、先生の網の中をバケツの中にあけると大小さまざまなクラゲがぷかぷか、ふあふあ。ベニクラゲの姿も見えます。

瀬戸臨海実験所の前の海と、そこからすくいあげたクラゲたち。透明で見にくいですが…。

「日本周辺にすむいろんなクラゲで若返り実験を行ったのですが、若返りできるクラゲはベニクラゲ以外いないんです。なぜベニクラゲだけか?――まだ納得がいく説明ができないままです。」

進化の結果で得られた奇跡的な戦略。生物は戦略を考えて行動しているわけではなく、偶然の重なりで現在の形態や行動が生じているだけ。そんな久保田先生のメッセージが伝わってきました。

■目の前で起きている大きな変化

最後に私たちを送って下さる車の中で、先生はつぶやきました。

「白浜は熱帯生物が黒潮で到達できる北限です。以前からカラフルな南国の生き物たちの姿を楽しんでいたのですが、海水温の上昇に伴い生物種の構成がここ数年大幅に変化しています。例えば、これまで大量に見かけられていたムラサキイガイはほぼ見られなくなり、そのかわりミドリイガイがとってかわっています。海の中の生物種の交代を見るだけで、地球の温暖化をひしひしと感じます

自然の環境変化に強い、有性生殖。もし人の手によって環境変化がはやまった時、生き物たちに何が起こるのでしょう?生物の力強い性質変化が勝るのか、それとも劇的な環境変化を前に生き物たちが消えていくのか。教科書の上でおきている事柄ではなく、私の目の前の海の中で起きている変化なのだと、愕然としました。

久保田先生は続けます。

「この調子で世界が変化すると人間は進化しなければすぐ滅びます。自然を愛し、奇跡の存在である生物たちを中心に世界を見る心が地球人全員に育まれれば、パラダイスがうまれるはず。そのとき、ベニクラゲのように人間は不死になる資格を得るのでしょう

■永遠の生を手に入れることができるなら、ほしいですか?

3月10日から未来館でオープンした企画展「世界の終わりのものがたり」では、ベニクラゲが泳ぐ様子が動画で見られます。会場には生命にまつわる問いも林立しています。永遠の生の深い意義について会場で一緒に考えてみませんか?

(左下:ベニクラゲの動画。上にはベニクラゲの永遠の生活ループがモビールに。右上:毎年散りゆく桜。)

企画展詳細ページはこちら。

企画展「世界の終わりのものがたり~もはや逃れられない73の問い」

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