あなたはソメイヨシノ派?ヤマザクラ派?

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皆さんはどんな桜が好きですか?お花見の季節、じっとしておれず、東京都文京区にある東京大学の付属植物園、小石川植物園でお花見をしてきました。個性があって美しい!

左は王道(?)、染井吉野(ソメイヨシノ)、人の手によって生まれた栽培品種です。真ん中はカンザクラ、右はサトザクラ。

左からオオシマザクラ、マメザクラ、チョウジザクラ、ヤマザクラ。日本に古来から自生していた野生品種は全部で10種。上記の4種の他に、オオヤマザクラ、カスミザクラ、タカネザクラ、エドヒガン、ミヤマザクラ、カンヒザクラがあります。

先日、森林総合研究所多摩森林科学園の勝木俊雄先生の講演で桜の秘密をたくさん聞く機会がありました。染井吉野の均一な美しさの秘密と、野生品種の個性を見ていきましょう。

■  染井吉野はどうやって全国にひろがったの?

栽培品種の染井吉野の木々はみんなコピー。同じカオをしています。全く同じ遺伝情報をもったクローンです。江戸時代後期~明治時代に存在した一本の染井吉野から、うわーーーーーっ全国に広がったと考えられています。自然に広がったのでしょうか?いいえ、クローンである染井吉野どうしでは種はできません。多くの植物では、全く同じ遺伝情報をもったもののあいだでは受粉できないのです。それでも全国に染井吉野がひろがったのは、接ぎ木(他の木を台木としてそのうえに枝を接ぐ)や挿し木(枝を地面に挿す)によって人間が 増やしてきたから。染井吉野はその美しさで人々に愛され、人の手で育まれてきたのです。

■  一番最初の染井吉野はどうやって生まれたの?

もともとあった野生品種のかけあわせによって染井吉野が生まれた、と考えられています。では染井吉野の は誰昭和40年代に静岡県三島の国立遺伝学研究所にて野生品種のかけあわせ実験が行われた結果、エドヒガンとオオシマザクラが染井吉野の親だと推論されました。では、今もこのかけあわせを行えば、必ず染井吉野はできるのでしょうか? いえいえ、そうではありません。できるのは染井吉野と似てはいるけど一味違う、兄弟たち。人間でも兄弟で顔かたちが異なるように、かけあわせではいろいろな組み合わせの子どもザクラができます。染井吉野はその組み合わせのなかの特定のひとつ。染井吉野の兄弟たちのカオを見てみたい方は、ぜひ遺伝学研究所へ!毎年4月上旬に一般公開されています。今年は7日に開催。来年は私も見に行きたい!ちなみに兄弟たちには帝吉野、天城吉野、早生吉野などとそれぞれ名前がついています。

国立遺伝学研究所ホームページはこちら

■  日本で最も古い染井吉野はどこに?

現存する最も古い染井吉野は小石川植物園と弘前城跡にあり、1870-1880年代に植えられたと言われています。推定樹齢140年。(実際に小石川植物園に見に行ったのですが、残念ながらどの木が最古老かわかりませんでした。しかし多数ある染井吉野、どれもなかなか貫禄があります。ぜひ、ご自分の目で確認して下さい!)

よく染井吉野は栽培品種なので短命だ、といわれますが、実はこれは責任転嫁。100年以上生き続ける樹木には寿命として特定の値を考えにくく、決して短命とはいえないそうです。桜が生き抜くためには、根をしっかりとはり、水を吸い上げることが大切です。染井吉野が植えられている場所をよく観察してみると、ビルが林立して水が流れない場所だったり、土がコンクリートで固められていたりと、それぞれに枯れる原因があります。染井吉野が枯れるのは寿命ではなく、人間による環境の悪化で弱っていくケースが多いそうです。

■  染井吉野がピンチ!

最近、種子島など南方では、満開にならずにだらだらと咲き続けたり、花の形がおかしかったりと、染井吉野に異常が見られるそうです。想定されている原因は1月の寒さが穏やかになったこと。桜が冬を越えたことを認識し、満開まで花を咲かすためには、冬の気温が十分に低い必要があると考えられています。種子島では、1950年代-1980年代には1月の平均気温は10-12℃だったのが、最近では12℃前後と上昇しています。温暖化や都市のヒートアイランド現象といった、気温の上昇の影響が染井吉野にも影響を及ぼしているかもしれません。温暖化が進めば、満開の染井吉野が見られない地域が拡大する可能性も。

縦軸は温度(℃)、横軸は年。気象庁公開データより作成。

■  ひとつの桜?いろんな桜

一方、鹿児島の野生品種のヤマザクラの一種、ツクシヤマザクラは、元気に咲いているそう。染井吉野もいいけれど、野生品種の愛らしさにも目をむける機会かもしれません。勝木先生のコメントで強く心に残ったものがあります。「一つの種をたくさん植えるということには、危険性があります。一種類の植物が激増することで、そこをすみかとする生き物も増え、たとえば虫害をおこすかもしれません。人間にとっての利益をもとめて、特定の種類の植物を大量に栽培する。そのことで、つながっている生態系が大きく変化する。将来どんな影響を及ぼすかが想像できない以上、単一種を大量に植える前に立ち止まって考えてみてほしい

 

皆さんは、多様な世界と、一様な世界と、どちらを選びますか? ずっと好きな季節のままだったら、と思ったことがあるかもしれません。大好物をずっと食べ続けたいと思ったことも。3月11日から未来館にて開催されている企画展「世界の終わりのものがたり」では、ナポリタンを食べ続ける男性の映像が公開されています。宇宙の中でも黙々と食べ続けるその姿は必見!はたして皆さんは、この映像を見たあとで、ナポリタンをもとめて7階レストランへ赴くのでしょうか。それとも胸やけする? 多様な世界と一様な世界。思いを巡らせてみて下さい。

企画展詳細ページはこちら。

企画展「世界の終わりのものがたり~もはや逃れられない73の問い」

<おまけ>

サクラはバラ科サクラ亜科サクラ属の植物。サクラ亜科にはサクラ属のほかに、モモ属、ウメ属、スモモ属などがあります。ちなみに、サクラ属を示すPrunusという学名は、本来はスモモを意味します。以下、勝木先生のお言葉の引用。「モモもスモモもモモのうち、といいますが、実際には、サクラもモモもスモモのうち、が正しいのです」ほほぅ。

左から、サクラと同じバラ科のアンズとウメ(紅千鳥と白滝枝垂)。花の形が似ています。でも匂いはウメの圧勝!同じ科でも、個性は豊か。

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この記事への7件のフィードバック

とってもおもしろそうな話だと思って読み始めたんですが、途中でひっかっかってしまって。

すごく初歩的な質問なのですが教えてください。

クローン同士だと種が出来ないってありましたけど、種は花が咲けば雄しべの花粉が雌しべにつけば出来るのではないのですか?

高杉さま

素晴らしいご質問ありがとうございます!

まったくご指摘のとおり、不思議な現象なのです。

おっしゃるとおり、種はおしべの花粉がめしべにつくことでできます。

ところが、多くの植物は、花粉がめしべと全く同じ遺伝情報を持っている場合には、種ができないようなしくみを持っています。クローンはどの個体も同じ遺伝情報を持っているので、クローンの間では種はできません。これを自家不和合性と言います。

では、なぜ、自家不和合性というしくみを植物は身につけているのでしょう?

もし、このしくみを持っていなかったら何がおこるか考えてみます。

まずめしべに最も近いおしべを考えてみましょう。多くの場合、それは同じ花の中にあるおしべですよね。すると自分の花粉がめしべにくっついて、自分の遺伝子どうしがくみあわさった種ばかりができてしまいます。

自家不和合性を身につけた植物では、自分の遺伝子どうしがくみあわさることを防ぐことによって、他の個体の遺伝子と自分の遺伝子を混ぜ合わせて、ちょっと違う子どもを作る頻度が増します。ちょっと違う個体がいろいろ増えることによって、その種が生き残る可能性が増した、だから自家不和合性を獲得した生き物がたくさん現在生き残っていると考えられています。

(自家受粉する植物の例としてアサガオがあります。自家受粉は他家受粉と比べ、受粉成功率が高い一方、遺伝的多様性が乏しくなり、環境変化に対する適応度が低くなるデメリットも抱えています。)

”いろいろいて、にぎやか”な世界を積極的に作り出す、面白いしくみですよね!

ご丁寧なご回答ありがとうございました。小学校のころに、まさにアサガオの栽培とかでおしべやめしべを習った記憶があり、それが普通だと思っていたんですけど、実はアサガオは例外だったんですね!するとアサガオ一株だけで育てて出来た種は、実は全部クローンだったということになるんですね!びっくりです。どうもありがとうございました。

横からですみません。高杉様が少し誤解をされているようなので、補足させてください。

アサガオの種は、普通はクローンではありません。クローン生物が作る生殖細胞は、違う遺伝情報セットをもちます。

すごく簡単化してみます。

あるアサガオがAaとBbと言う二種の遺伝子を持っていたとしましょう。このアサガオ(AaBb)が生殖細胞を作るときには、Aaの対から一つ、Bbからも一つが使われます。

結果、AB、Ab、aB、abの四種類の生殖細胞が作られ、これらからできる子孫はAABB、AABb、AAbb、AaBB、AaBb、Aabb、aaBB、aaBb、aabbの九種類の多様性を持っていますので、クローンではありません。(ここでは単純に遺伝子対を二種としましたが、実際はもっともっとたくさんあるので、多様性は桁違いに増えます)

一般にクローン同士の子孫はほとんどクローンにはなりません。例えばアマガキはカキの枝変わり品と言われていて、すべてクローンですが、アマガキ同士を受精させるとカキ(いわゆるシブガキ)ができます。親が子と違う例ですね。

※アマガキを殖やすときは、シブガキに接ぎ木をします。キメラの状態ですが、土台はシブガキ、上はアマガキと言う木から、アマガキがとれるんです。ちなみに、アマガキの可食部は親の木の一部なので、基本的にクローンですが、種はアサガオの場合と同じで、非クローンです。

ちなみに遺伝子レベルでの自家不和合性は、受粉前の時間差不和合性(アサガオは花が開くときには、雌しべが未完成なため、自家受粉が少なくなりやすい)がほとんどで、植物では遺伝子レベルの不和合性は確立された現象では無いと聞いているのですが、最近は変わってきてるのですか?動物ではかなり有望なようですが。>松山様

高杉さま

回答をご覧頂き、ありがとうございます。

いろいろな戦略をとる植物がいるので、謎めいていますが、そこがまた、面白みでもありますよね!

行き違いでクリプトさまがすでにご説明していらっしゃいますが、アサガオの種はクローンではありません。

クローンというのは、「遺伝情報がすべて同じ個体」のことを示します。花粉からもらった遺伝情報とめしべからもらった遺伝情報の組み合わせ、すべてが全く同じという意味です。

一つのアサガオが作る花粉とめしべ、それぞれが持っている遺伝情報は、一つずつ異なります。花粉とめしべの遺伝情報は、そのアサガオが父親(花粉)から受け継いだ遺伝情報の一部と、母親(めしべ)から受け継いだ遺伝情報の一部を混ぜ合わせたものです。たいていの場合、父方からの遺伝情報と母方からの遺伝情報は異なります。そのため、どの部分を父から、どの部分を母から受け継いだかで、さまざまな遺伝情報をもったバリエーション豊かな花粉とめしべができあがるというわけです。一つの個体が作る花粉とめしべの組み合わせでも、できた種の遺伝情報は一つずつ異なるので、クローンとは言えません。

ただ、自家受精をずっと続けると、外から遺伝情報が入ってこないので、次第に花粉からの遺伝情報とめしべからの遺伝情報が似通ってきて、作られる花粉とめしべの遺伝情報のバリエーションも損なわれていきます。種がクローンに近づいていくということです。

アサガオも、自家受粉することはできますが、多様な環境を乗り越えるために、他のアサガオからの花粉が飛んでくるのを、今か今かと待ち望んでいるのかもしれませんね。

遺伝子レベルでの自家不和合性についてですが、自分の花粉か、他人の花粉かをみわけるために働く遺伝子があるということがわかりつつあります。

東北大学の渡辺正夫先生がたがご研究されていますので、ご参考までHPをご紹介致します。

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/concept1.html

品種改良に新しい手法が生まれるかもしれませんね。

松山様

なるほど、新しい遺伝分岐を持つ系統を中心に考えられているのですね。

昔からサツマイモの自家不和合性は聞いていましたが、アブラナ科の物はしりませんでした。不勉強でしたね。

同じヒルガオ科の中でもアサガオ類には自家不和合性がほとんど(程度が微妙ですが、自家受粉できる程度に)働かず、サツマイモ類には強く働くのも不思議な感じです。

多年生植物は他家受粉の確率が高くなりやすいために自家不和合性があると多様な環境下での生存が有利になったと言われていたのに、単年生が多いアブラナ科が自家不和合性を得ているのもふしぎですね。

アサガオは逆に多年生なのに自家受粉が多いのがふしぎです。どちらも一万世代後にどうなるのか、見て見たい物です。

世の中しらないことばかり。疑問も増え、勉強になりました。ありがとうございます。

松山様

クリプト様

ありがとうございます。

思いがけずさらにお返事が入っていてびっくりするとともに、本当にご親切にいろいろと解説していただいて感激いたしました。

 クリプトさまのAaBbのご説明をなんとか理解しようと初歩的なことも調べて、染色体には遺伝子が対になって収納されていることと、減数分裂という特殊な細胞分裂で生殖細胞がつくられる(ということでよろしいんですよね?)ということを勉強いたしました。

 だからアサガオのめしべは自分のおしべで種をつくれるけどクローンではないのですね。それからソメイヨシノのおしべはひとつひとつ違う遺伝子を持っているけど自分から出来たおしべなのかどうかを、めしべは見分ける術を持っているということなんですね! まだ誤解しているところがありそうで不安ですが、ご迷惑でなければまた質問させていただきたいと思います。

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