サイエンティスト・トーク「iPS細胞からヒト臓器を作る」実施報告

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7月15日、三連休の最終日にサイエンティスト・トーク「iPS細胞からヒト臓器を作る」を行いました。講師は、横浜市立大学大学院医学研究科の谷口英樹先生です。谷口先生の研究成果は、7月4日にNatureのオンライン版から発表されたばかり。Natureでの検索件数も先生の論文が歴代2位とのこと(2013年7月15日現在)。世界的に注目を浴びているHOTな研究について生で聞ける貴重な機会となりました。

1時間以上も前から並んだ参加者もいらして、会場に入りきらず、外に立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。120名の方に聴いていただきました。

 

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【開場を待つ参加者】

先生のお話の前に、iPS細胞に関する基本的な知識として、科学コミュニケーターの石川が未来館で行っているサイエンスミニトーク「iPS細胞がもたらすこれからの再生医療」を行いました。

 

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【前座として10分間のミニトーク】

その後、1時間のイベントがスタート。まずは「iPS細胞、どう向き合う?」として、参加者にiPS細胞と私たちの生活の関連について考えながら、今回のイベントで聞いてみたいことのイメージを作ってもらいました。

 

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【iPS細胞のニュースについて所感を述べる谷口先生】

 

そして、いよいよ先生にバトンタッチです。先生は、そもそも臓器がどのようにできるのかというところからお話しを始められました。臓器ができる時には、体の中でさまざまな細胞がお互いに影響を与え合いながら変化して形を作っていきます。

 

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【臓器のできる仕組みについての解説】

 

これまでの人工的に臓器を作る試みでは、試験管の中に必要な細胞だけを入れる努力が行われてきたそうです。これに対して谷口先生は、不必要に思える細胞を排除するのではなく、さまざまな種類の細胞を入れて相互作用を促したそうです。私が感銘を受けたのは、先生のこの言葉。いろんな人が集まってコミュニティが機能するように、細胞もさまざまな種類の細胞が集まってお互いに役割を果たしているのです。人間の都合で必要に見える細胞だけを選ぶのは傲慢なのです。小さなものも、大きなものも、それを構成する仕組みには共通するところがあるのですね。

複数の細胞を同時に培養することでできた細胞の塊。

 

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【細胞の塊の写真に見入る聴衆】

 

働いている遺伝子を調べると胎児の肝臓に近い遺伝子の発現パターンを示していたそうです。これをマウスの頭部に移植して成長させ、それをさらに腹部に移植します。先生のご研究内容に関しては先日のブログをご覧下さい。

今回のサイエンティスト・トークでは、先生へのご質問がたくさん出ることを予想して、イベント終了後に番外編として、先生への質疑応答の時間を30分用意しました。その時のやりとりを紹介しましょう。

 

【先生のご研究内容について】

1. なぜ、多くの臓器の中で肝臓にフォーカスされたのですか?肝臓の研究がうまくいったら、次はどの臓器の研究をしたいと思いますか?

谷口先生:私は移植外科医で肝臓移植に携わってきました。提供される肝臓が足りないために亡くなられる患者さんをたくさん見てきました。肝臓を作って患者さんを助けたいというのが最初の気持ちです。科学的な面では、たとえば心臓などは構造をしっかり作らないとポンプとしての機能を発揮できない。でも、肝臓の場合、代謝機能、つまり、タンパク質を作るという機能が発揮できればいい。その場合、臓器の立体構造を100%作らなくてもある程度の機能を発揮できる。そういう意味でハードルが低い臓器として肝臓を選びました。

 

他の臓器としては、臓器ができる過程が肝臓に似ているのが膵臓です。膵臓は同じ方法でできるだろうと考えています。膵臓にかかわる病気として、糖尿病があります。膵臓のランゲルハンス島のβ細胞の機能が失われて糖尿病になる、というお子さんの病気があります。ランゲルハンス島を作ることができれば糖尿病の治療に近づける。あとは腎臓など血管と連動しながらできてくる臓器はいくつかあります。

 

2. 腎臓を作るのは構造上、難しいのでは?

腎臓は肝臓と比べて作るのが難しいです。膵臓にはバディング(budding)と言って芽(bud)が出るようにできてくるプロセスが2段階あります。膵臓という臓器ができて、ランゲルハンス島ができるという2段階です。腎臓はもっと難しいです。腎臓病の薬は心臓病や肝臓病の薬に比べて少ないうえにこれまでに腎臓を作る技術はほとんどないのですが、それを京都大学との共同研究で、だんだんできるようになっています。難しいけれど作れるようになるのではと考えています。

 

3. 肝臓の芽をなぜマウスのお腹ではなく頭に移植したのですか?

研究としてやっているので、構造がうまくできるかの観察をしやすい場所に移植しています。治療行為としてやる場合は、肝臓自体やお腹の中に移植をする、もっと安全性の高い場所に移植をすることになります。

 

4. 肝臓の芽をたくさん作るという試みで、シャーレの中に600個の芽がある写真がありました。人間には肝臓は1つ、腎臓も2つしかないので、完全なものが作れれば1つか、スペアも含めて2つあれば十分だと思うのですがなぜ600個も必要なのでしょうか。それから、最終的に実際に移植できるまでに最短でどれくらいの時間が目標ですか?

 

谷口先生:理論的には小さいものを作って肝臓を大きくしていくことは可能です。ただ、人間の体の中で胎児の時に肝臓の芽ができて出生するまでにも210日近くかかる。成人の肝臓になるまでには10数年かかる。それを再現するのは現実的ではない。出だしを多くして短期間で機能を発揮できる状態に持ち込みたいのでたくさん作らなければならないです。600個でも試算上では足りないです。3年以内に2万個を同時に移植できるようにするという目標を国に出しています。

(※石川が質問したところ、2万個の肝臓の芽が、移植する量としては1人分に相当するそうです)

移植をしてどれくらいの期間で治療効果が現れるかというと、2週間以上たったときに、移植した肝臓からヒト型のタンパク質が出ていることを確認できました。治療として考えると数ヶ月以内に肝臓が機能を発揮できないといけません。我々が今、ターゲットとしているある病気では、30日以内に機能を発揮できるようにしたいと考えています。そのためにはある程度の量を移植しなければならない。今は肝臓の芽ができた直後に移植していますが、試験管の中での培養方法が徐々に良くなってきているので、芽の状態から葉が出るところまで持ってくる、細胞の分化が進むところまで培養で育てておいて移植後に機能をより短期間で発揮できる状態することを研究しています。移植する量を増やすことと、あらかじめある程度まで育てておくことで、30日以内の機能発揮と救命を目標にしています。

 

5. 肝臓の芽を数万個、体の中に入れるという話でしたが、もしかして肝臓でないところに芽が行ってしまって、別々なところで肝臓を作ってしまう恐れはないのでしょうか?

 

そのリスクはほぼないというのが我々の認識です。細胞をばらばらにして移植をすると血管の壁をすり抜けて例えば肺の方に行ってしまうこともないわけではない。でも、我々は200㎛の細胞の塊を移植します。細胞は10㎛から15㎛ぐらいですので、その10倍以上の大きさのものが血管をすり抜けることはまずありません。ただこれくらいの数を移植するためには、場所が限られます。腹腔内はもっとも大量に移植できる場所です。今日、マウスで示したのは腹腔内での移植です。ただ拡散の可能性はゼロではないし、万が一、腫瘍が発生した場合の対処のことなどを考えると、移植する場所を限定しておいた方が良いと考えています。我々が第一候補と考えているのは、肝臓の中に移植することです。次の移植先の候補は、脾臓です。脾臓は肝臓に血管が流れていく上流にある臓器です。脾臓を肝臓化してしまうという研究は先行例があって、ある程度の効果があるという報告があります。その2カ所への移植を検証しています。

この後、まだまだ質問が続きます。次回のブログで引き続きご報告します。

 

■イベント概要

サイエンティスト・トーク

「iPS細胞からヒト臓器を作る」

イベントの概要はこちらのイベントアーカイブのページ

イベントYoutube動画も公開中です

開催日時:2013年7月15日(月)14:45~16:15

開催場所:日本科学未来館 3階 実験工房

参加者数:120名

Ustream中継視聴者数:80名

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