浅島誠先生に「幹細胞」について伺いました

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浅島誠先生のお話をご覧いただいた皆さん、お待たせしました。

4月4日(日)に行われたサイエンティスト・トーク「細胞、からだ、私。 ― 医療を選ぶ日までに聞いておきたい『細胞』のはなし」のご報告です(「浅島先生のお話って?」という方はこちらの記事をご覧ください)。

今回は、会場の皆さん、インターネット配信をご覧いただいた皆さんからの質問について浅島先生にお答えいただきます。


 

遅くなってしまい、本当に申し訳ございません...。 1か月も前のお話なので、まずは、浅島先生にご紹介いただいた3つの幹細胞を簡単におさらいしましょう。

体性幹細胞:骨髄や脂肪などに存在する幹細胞。それぞれ限られた種類の細胞になれる。

ES細胞:受精卵からつくる幹細胞。ほとんどの種類の細胞になれる。

iPS細胞:皮膚や血液の細胞に遺伝子を加えてつくった細胞。ほとんどの種類の細胞になれる。


 

準備ができたところで、質問を一つ一つ見ていきます。 浅島先生にお答えいただいたのは以下の質問です。

Q. プラナリアやトカゲのしっぽのように再生できる生き物はいるのに、ヒトではなぜ再生できないのですか?

Q. 細胞分裂の回数は何で決まるの?ES細胞のような幹細胞はなぜ何回も分裂できるの?

Q. iPS細胞など幹細胞の安全性についてのお考えを教えてください。

Q. iPS細胞を使う医療の費用に関して、今後どのようになると予想されますか?


 

(以下、緑色の文字が浅島先生からのお答え、黒字は志水が書いた補足です)


 

まずは身近な疑問から。


 

Q. プラナリアやトカゲのしっぽのように再生できる生き物はいるのに、ヒトではなぜ再生できないのですか?  

浅島先生:幹細胞の量と質が違います。プラナリアはからだじゅうに(いろいろな細胞になれる)未分化細胞がありますが、ヒトにはありません。ヒトの体にあるのは、各部位の中の未分化細胞。腸にある幹細胞は腸の細胞だけになれて、万能ではないです。

ヒトは、手など大きな部位を失うと生えてきません。陸上動物の場合、血が流れ続けると失血死します。そこで、血を止めるために周りの細胞が皮膚を覆うようにでてきて、固くなります。中から新たな細胞が伸びようとしても、突き破れません。これも再生できない一因と考えられています。

ちなみにトカゲは、自切(じせつ)といって(しっぽへの刺激を受けて、切れやすい部分から切り離すので)血も出ませんし、次のしっぽになる細胞が自切を行う前に用意されています。


 

つづいてこんな質問が。


 

Q. 細胞分裂の回数は何で決まるの?ES細胞のような幹細胞はなぜ何回も分裂できるの?

浅島先生:細胞周期を進めたり止めたりする遺伝子の働きで決まります。

「細胞周期」とは、1つの細胞が分裂の準備をし、2つに分かれるまでの一連の流れのことです。

浅島先生:受精卵など、どんどん分裂する細胞ではmycなど細胞周期を進める働きをもつ遺伝子が働いています。生き物の上手いところは、ある程度細胞が増えてしまうと、細胞周期を進める遺伝子を使わないようにするところ。働くべきときに働いて、いらなくなったときに抑える。うまい制御ができていますね。ES細胞やiPS細胞のような幹細胞でも同じような遺伝子が働いているので、何回も分裂できます。

ちなみに、このような細胞周期を進める遺伝子は(正常な細胞より早い速度で分裂することが知られる)がん細胞でも働いています。


 

読者の皆さんの中には、「細胞の分裂回数は『テロメア』で決まるんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。

テロメアとは、染色体の端にある領域のこと。DNAが複製されるたびに少しずつ短くなり、ある長さよりも短くなると、細胞はそれ以上、分裂をするのを止めてしまいます。皮膚のようなからだをつくる細胞では、分裂のたびにテロメアがだんだんと短くなってしまいますが、幹細胞や卵子のような生殖細胞ではテロメラーゼという酵素が働いて、テロメアの長さが短くならないようにします。体性幹細胞やES細胞でもテロメラーゼが働いていて、iPS細胞ではからだの細胞を初期化する際にテロメラーゼの働きが活発になることが知られています(詳しくは詫摩の記事をご覧ください)。


 

最後に再生医療への応用について。


 

Q.iPS細胞など幹細胞の安全性についてのお考えを教えてください

幹細胞の「安全性」という場合、「治療の過程の管理や手続きがずさんなために問題が起こる可能性」と「厳密な管理・手続きを踏んだ治療であっても、問題がおこる可能性」の2つの安全性があります。

前者では、たとえば管理が不十分な病院で自由診療の範囲内で「幹細胞治療」と称して細胞を体に注入した結果、効果がなかったり、副作用が出たりした例が多く報告されています。そのような事態を防ぐために、2014年11月に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行されました。幹細胞を用いた再生医療を行うには、一定の施設・人員要件を満たしたうえで、特定認定再生医療等委員会の意見を聴き、厚生労働大臣へ計画を提出することが必要となったのです。

浅島先生には、後者の安全性「適正に治療を進めても、問題が起こる可能性」についてお答えいただきました。

浅島先生:体性幹細胞については、例えば脂肪由来の幹細胞ならば、おなかにある細胞を使います。元々からだにあるものをうまく取り出してきて、清潔な状態でやれば、問題が起こる可能性は低いと思います。

ES細胞は、受精卵から胎児になるごく初期の胚から取り出したので、まだ細胞周期を進めるための遺伝子を使っている状態です。ES細胞そのものを移植しては腫瘍をつくってしまいますし、きちんと分化させて目的の細胞にした状態でないと、腫瘍をつくる可能性はあると考えます。

iPS細胞の場合は、分化が完了した細胞を、受精卵から発生がはじまる初期の状態の細胞に人為的に持っていこうとします。発生というのは、きちんとした将棋倒しのように順を追って分化しているのであって、iPS細胞をつくるときは、その順を一段階ずつさかのぼるわけではありません。まだ試験段階で、安全性は確立されていないと思っています。


 

昨年9月、理化学研究所の高橋政代ユニットリーダーらが、網膜に病気を抱える方に対して、iPS細胞由来の網膜の細胞を移植する臨床試験を行いました。この臨床試験の主な目的は「安全性の確認」です。強調しなければいけないのは、考えうる限りのリスクを取り除いたうえで、万が一の場合にも対処できる体制の中、実施しているということです。

まず、網膜の場合、がんはそもそもほとんどできないことが知られています。また、眼科医が目で見て経過を観察できるので、何かあってもすぐに対処できます。たとえば、万が一、がんができてしまった場合でも、レーザー照射でがん化した細胞を死滅させることができます。


 

Q. iPS細胞を使う医療の費用に関して、今後どのようになると予想されますか?

浅島先生:iPS細胞は、まだまだ高いですね。どれだけ安くなっても100万円を切らないのではないでしょうか。iPS細胞の作製や安全性の確認にかかる手間、治療に必要な量なども考えると、どうしてもそうなると思います。

(今のところ)自分の脂肪(にある体性幹細胞)を使うのが、有望です。ただし、増殖能力が低いのが課題です。増殖能力さえ早くなれば実用的になるのではないでしょうか。増殖能力が高い細胞としては、胎児と羊水を包む膜である羊膜に含まれる幹細胞に注目しています。


 

みなさんが「医療を選ぶ日までに」参考になれば幸いです。

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