バイオは社会とつながっている アンバサダー・プログラム活動レポート④

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こんにちは。志水です。

5人の高校生・大学生が研究を進める「アンバサダー・プログラム」。 そのレポートも今回で4回目となりました。 そろそろ読者のみなさまにも覚えていただけましたでしょうか。

(え?何それ?という方もご安心ください。新山の記事をどうぞ。)

アンバサダーたちの目下の目標は、8月の中間報告会。自分の研究を英語で発表するとあって、練習に励んでいます。

さて、アンバサダー・プログラムは、ただ調査や実験、国際交流をするだけではありません。 「バイオテクノロジーと社会との関わりを実感する」ことも大事な目標です。

そこで今回は、5人の参加者のうち以前の記事でご紹介できなかった3人の研究テーマを、「社会との関わり」という観点でご紹介しましょう。


 

まず1人目は、蒲朋恵(かば・ともえ)さん(高校2年生)です。

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蒲さんの研究テーマは 「アフリカ・エチオピアの栄養問題を藻類の肥料を使って解決‼」です。

アフリカの多くの地域では栄養不足が問題となっています。単純に食糧が不足だけではなく野菜不足など栄養バランスの偏りによる問題も深刻なのだそう。野菜不足に陥る原因の一つは、畑の面積に対して野菜の生産量が低く、その結果、野菜の価格が高くなってしまうこと。水やりや肥料といった農業技術の水準がまだまだ低いようなのです。

この社会問題の解決に、バイオテクノロジーは何ができるのか?

蒲さんが着目したのは、肥料です。より安く、効率的な肥料はできないか?思いついたのは、「藻類を肥料にする」ことです。

藻類といっても、ワカメや昆布のような大きな藻類ではなく、目に見えないような小さな藻類です。湖に大量に発生する藻類や、今後エネルギー源として期待される「油をつくる藻類」のしぼりかすは、安く手に入る有力な肥料候補と考えられます。蒲さんは、藻類を肥料にして実験を行うべく、身近に手に入る藻類を探しました。そこで目をつけたのが、日本では健康食品として知られている 微細藻類「スピルリナ」です。

スピルリナは、エチオピアなどアフリカ東部の湖に発生するラン藻の一種(ラン藻は分類学上ワカメなどの藻類とは異なります)。自生するスピルリナを使えば、安く肥料をつくれるかもしれません。また、スピルリナは大規模に培養する技術も確立されており、需要に応えられる可能性があります。

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スピルリナ CC:by NEON ja

蒲さんは、このスピルリナを粉末肥料にして、コマツナの育ち具合を比較する実験を行おうとして います 。

ご指導をいただくのは、海外での農業指導経験も豊富な中野明正博士(農業・食品産業技術総合研究機構)です。今回、蒲さんの研究に可能性を感じ、協力を申し出てくださいました。


 

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ビニールハウスの中で、中野博士に指導を受ける蒲さん


 

実験結果 が楽しみな研究ですが、この 手法がエチオピアをはじめとするアフリカ諸国で使えるものなのか、蒲さんはアフリカの事情もちゃんと調査研究も進めています。

本当にアフリカで役に立つバイオテクノロジーとはどのようなものなのか。11月にはどんな結論を導き出すのでしょうか。


 

つづいて2人目は、明田悠祐(あけた・ゆうすけ)くん(大学1年生)です。

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今回唯一の大学生、明田くんの研究テーマは 「微生物の力を使って、東京・お台場の海水を浄化する 」です。

お台場の海は、2020年の東京オリンピック・トライアスロン競技の会場として検討されるなど、今、注目を集めています。しかし、窒素やリンなど水質悪化につながる成分の濃度が高く、夏には赤潮のような現象も見られます。今までにも、牡蠣(カキ)を使った水質浄化実験などが行われてきたのですが、根本的な解決には至っていません。

そこで!

明田くんは、高校時代から研究してきた微生物の力で海水を浄化することを考えました。窒素やリンは微生物の成長に欠かせない物質です。つまり、海水中で増えた微生物を回収することができれば、窒素やリンを取り除けるのでは?というわけです。

明田くんは、高校時代に微生物の1種・ミドリムシを使って淡水の浄化に挑みました。しかし、今回の相手は海水です。普通のミドリムシは当然生きていけません。そこで、海水浄化に適した微生物を選び、現在培養を行っています。


 

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ピペットさばきも板についてきた明田くん


 

もちろん実験は実験室で行いますが、社会に役立つ技術を考えるためには、下水処理や海そのものについて知ることも重要です。明田くん持ち前のフットワークの軽さを生かして、都内の学会にも積極的に参加しているようです。

指導をいただくのは、科学技術教育が専門の奥田宏志准教授(芝浦工業大学)。高校時代から明田くんにアドバイスを送ってきた心強い味方です。

奥田先生と二人三脚で研究をすすめる明田君。お台場の海が、東京オリンピックを無事に迎えられるよう、いったいどんな提案をしてくれるのでしょうか。


 

そして3人目は、柳田優樹(やなぎた・ゆうき)くん(高校2年生)です。

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未来館のボランティアとしても活動する柳田くんの関心は、科学コミュニケーション。科学の情報をどのように伝えるべきなのか?普段から考え続ける問いにぴったりな研究テーマを柳田くんは考えてくれました。

テーマは「知っているようで実は知らない、『インフルエンザワクチン』を伝える」です!

みなさんは、毎年インフルエンザワクチンを接種していますか?

打つ方にも打たない方にも、さまざまな理由があるかと思います。 でもその根拠となるのは、「ただなんとなく」とか「周りがそうしているから」という方も多いのではないでしょうか。

柳田くんは、根拠となる材料がみなさんにちゃんと届けられていないのではないかと疑問に思っています。インターネットや本を参照しても、古い情報がそのまま残っていたり、専門的な言葉を使った分かりにくい説明だったりするのだそう。そこで、情報の送り手(研究者)、メディア、情報の受け手(一般社会)にインタビューを行い、適切なコミュニケーション手法を探ります。

まず柳田くんが行ったのは、未来館での来館者アンケート。 ワクチン接種への印象を丁寧に聞き取りました。


 

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来館者の疑問にも答える柳田くん(中央)


 

実施して分かったのは、お母さん方の関心が非常に高いこと。やはりお子さんへの影響を気にしているようです。

また、メディアの方にも取材を行っています。お邪魔したのは、朝日新聞東京本社。インフルエンザ報道に関する検証を行った朝日新聞編集委員・高橋真理子氏に、メディアのありかたについてもお話を伺ってきました。


 

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朝日新聞を広げ、新聞におけるニュースとは何か語る高橋さん


 

今後こうしたインタビューをまとめ、研究者と一般の人との対話の場を設けるのが柳田くんの願いなのだそう。最終的な発表を迎える11月は、ちょうどインフルエンザワクチンの季節。それまでにどのようなコミュニケーションが望まれるのか、答えを出すことはできるでしょうか 。


 

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ご覧いただいたように、バイオテクノロジーは社会と密接な関係にあります。「バイオ」という言葉の響きだけからは、白衣と手袋のイメージが出てくる方も多いのではと思います。しかし、実験室を飛び出して、社会に広く使われてこそ、真のテクノロジーのはず。今日もアンバサダーたちは、クーラーが効いた実験室を飛び出して、日差しがまぶしい夏空の下へ駈け出して行きます。

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