"みらいのかぞく"を考える~科学技術と生命倫理~

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2月11日に実施したイベント「"みらいのかぞく"を考える~人の心・制度・科学技術~」の様子をブログでお届けしています。

今回は第2弾です。

 

前回のブログ「"みらいのかぞく"を考える~文化人類学から見る家族のかたち」では、松尾瑞穂先生のご講演について紹介しました。

今回は、講演パートの後半に実施した次の2つについて紹介します。

 

科学コミュニケーターからの話題提供『みらいのかぞくの可能性』

科学コミュニケーター 樋江井哲郎

 

基調講演②『「みらいのかぞく」と生命倫理』

東京大学医科学研究所 公共政策研究分野

教授 武藤香織 先生

 

まずは、科学コミュニケーター樋江井からのお話です。

 

【みらいのかぞくの可能性】

松尾先生のお話で、日本における家族構成は核家族が主流ではなくなってきていること、また、国や文化の違いによって家族とはもともと多様なものであることがわかりました。

では、この先の未来、家族のかたちはどのように変わっていくのでしょうか?

 

樋江井がここでお話したのは「科学技術」の観点です。

家族に関わる科学技術はいろいろあります。

人工授精、体外受精、代理母出産、精子・卵子凍結、出生前診断などのおもに生殖補助医療といわれる技術と、ロボット技術などがあるでしょうか。

 

不妊治療としての生殖補助医療がすでに広く使われているのはもちろんですが、例えば同性カップルが子どもを持つこともあれば、高齢者が子どもを持つケースも増えてくるかもしれません。さらには、パートナーがほしい単身者がアンドロイドを家族として迎え入れる...といったケースも考えられます。

 

科学技術が進展し選択肢が増えることで多様化する家族が幸せになる!というのが樋江井の締めくくりでした。

 

さて...

この話を聞いて、みなさんはすんなり納得できますか?

「ん?」「は!?」となった方もいるのではないでしょうか。

 

確かに科学技術の進展によって選択肢が増えれば、望む家族のかたちを得ることのできる人たちは増えるかもしれません。

しかし、「選択肢が増える=すべての家族が幸せになる」という関係が本当に成り立つのでしょうか?

 

"あえて"そんな疑問の浮かぶ話をしたところで、イベントは武藤先生のご講演に入っていきます。

20160325_tani02.jpg(武藤先生のご講演の様子)

 

【あなたにとって大切な人】

みなさんにとって、大切な人間関係やつながりは何ですか?

 

内閣府が行った意識調査(下のグラフ)では、このような質問が回答者に投げかけられました。

全体の9割以上の方が「家族」を挙げたそうです。なんだかほっこりしたのは私だけでしょうか。やはり家族のことはほとんどの方が大切に思っているものなのですね。一方で残り1割の方の思いを知ることこそ、「みらいのかぞくプロジェクト」では大事だと感じます。

 

男女別に見て特徴的なのは、「地域の人」や「学校・出身校の友人」をあげたのは男性より女性が多い一方で、「仕事の仲間・上司・部下」をあげたのは女性より男性が多いことです。確かに私自身、家族はもちろん大切ですが、次に思い浮かぶのは未来館の同僚です。一緒に過ごす時間の長さや何かを一緒にやりとげることが、つながりを強める大きな要素なのかなと思ったのですが、家族の次に多いのは「親戚」です。とすると、やはり血のつながりか!?とも思わされます。

みなさんはいかがでしょうか?

20160325_tanaka1.jpg

 

【家族って誰のこと?】

そもそも家族って、どんな定義なのでしょう。

 

法律では、その解釈はさまざまです。

民法では、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を「親族」として定義していますが、家族の定義はありません。家族の定義がある法律もいくつかありますが、法の目的によって定義は異なるようです。

 

気になってインターネットで「家族」を検索してみたところ、「夫婦とその血縁関係者を中心に構成され、共同生活の単位となる集団(goo辞書より引用)」と出てきました。

なるほど、確かにどの法律における家族の定義もこの解釈に収まる気がします。

家族の多様性はさておき、いわゆる標準的な家族のことを意味しているようです。

 

【少子化対策としての生殖補助医療】

松尾先生のご講演にもあったように、日本における家族のかたちは変わってきています。さらに、武藤先生が示された厚生労働省の調査(下のグラフ)によると、世帯における子どもの数はこの20年ほどでかなり減ってきているそうです。それゆえに国は少子高齢化をなんとかしようと対策を練っているわけですね。その対策の一つとして始まっているのが生殖補助医療を利用して不妊治療を受けられた方への医療費補助です。

20160325_tanaka2.jpg

「特定不妊治療費助成制度」といわれるこの事業では、各自治体が事業主体となり、体外受精や顕微授精を対象に治療費の一部を助成しています。もちろんいくつかの条件を満たさなければ給付は受けられませんが、厚生労働省が公表しているデータによると、この助成制度の利用状況は平成19年のから平成21年にかけて1.8倍にも増加しています。それだけ生殖補助医療に望みをかけているご夫婦が多いということの現れと言えるのかもしれません。

 

【生殖補助医療ってどんなもの?】

武藤先生は、生殖補助医療に使われる技術として大きく3つをご紹介されました。

● 精子や卵子を取り出し、体外で受精

● 受精卵を子宮に移植

● 精子や卵子、受精卵の凍結保存

 

医療現場では、これらの技術を組み合わせて使います。さらに、第三者が関与するかどうかなどによってパターンがいくつかに分かれます。またここでは触れられていませんが、人工授精も生殖補助医療の中で大きな割合を占めています。

こうした技術を使うのは、婚姻関係にある夫婦の不妊治療だけとは限りません。同性カップルやがんなどの病気治療中の方も子どもを持つことが可能になりますし、すでに亡くなった方の子どもを産むことも技術的に可能になります。

 

自分の死後に自分の遺伝子を持った子どもが生まれる...

なかなか容易に想像できない状況ですが、こうした方法を望む方もいらっしゃるわけで、細かくケースを分けていけば家族の多様性はかなり枝分かれしそうです。

 

【おなかの中の子どもを調べる科学技術】

妊娠するための技術だけではありません。おなかの中の子どもの染色体や遺伝子を調べる技術もあります。羊水検査は聞いたことのある方も多いかもしれませんが、現在は簡便な方法として母親の血液から胎児の染色体を調べることもできます。さらには、母親の血液や唾液から胎児の遺伝子を調べることで、将来的に病気にかかる可能性を知る検査、あるいは適切な薬や治療法を選択するための検査も行うことができます。

 

この「出生前検査」といわれる検査については、みらいのかぞくプロジェクトの新たな取り組みの1つとしてサイエンスミニトークとワークショップをリリースする予定です。先日実施した試行会の様子をfacebookページで報告しておりますので、よろしければご覧ください。

 

【つくる技術とえらぶ技術】

さて、上に書いたように、現在の家族をとりまく医療技術は"つくる技術""えらぶ技術"に大きく分けられます。これらの医療技術をとりまく当事者となるのは「つくりたい・えらびたい」という人と「つくりたくない・えらびたくない」という人たちです。さらに、当事者をとりまくのは「つくれば?えらべば?」という人と「つくっていいの?えらんでいいの?」という人たちです。

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人によって考え方が異なるからこそ、多様な意見の中で揺らぎながら私たちは最終的に何かを選ばざるをえません。

 

みなさんならそれぞれの立場に立ったとき、どちらの意見に近いですか?

いろいろな場面で、多くの人は他人の意見を気にしてしまうものなのではないでしょうか。

 

【つくらない・えらばない生き方】

ここで忘れてはならないのは、つくらない・えらばないことを選ぶ生き方をする人たちのことだと武藤先生はおっしゃいます。

世界には、多様な"当たり前"があります。子どもを持たない、里親や養親になる、障害の有無にこだわらないという人たちもいます。また結婚にこだわらず、誰と暮らしていくのか(あるいは一人で暮らすのか)という選択もさまざまです。

 

物事には両面があるとは言いますが、まさにそのとおりですね。

何かを選ぶ人がいれば、選ばない人もいます。そしてその「選ぶ」という行為には、時に本人だけでなく周囲の人の価値観が影響します。

誰も傷つけず、排除しないためにはどうすればよいのか。

とても難しい問題ですが、このイベントタイトルにも含まれる"人の心"が大きなキーワードなのではないかと私は思います。

 

【科学技術は選択肢を増やしていく】

科学技術は「つくる」「えらぶ」人たちを後押しします。新たな選択肢となりうる研究は盛んに進められています。武藤先生が示された具体例は、何らかの理由で子宮のない方に子宮を移植する技術、iPS細胞から生殖細胞(精子や卵子)を作る技術、受精卵のゲノム配列(遺伝情報)を編集する技術です。

 

これらの研究は「技術的に可能」という段階を経て「実際に私たちが使える」という段階に移りますが、その2つの間には大きなハードルがあります。しかし、将来的に選択肢を増やしていく方向に進もうとしていることは確かです。こうした技術によって救われる方々も出てくる一方で、「どのように科学技術とつきあっていくのか」という問題は必ずつきまとうでしょう。2つの段階の間にあるハードルをどのようにコントロールしていくのかは、私たち一人一人が自分ごととして考え、みんなで決めていく必要があるのだと感じます。

 

【「みらいのかぞく」を考える】

家族の多様性を考えたとき、みなさんは他人の価値観をどこまで受け入れられますか?

 

自分の価値観を認めてもらうには、他人の価値観を受け入れることも必要です。さらに、自分らしい家族のあり方を求めていく上で科学の力をどこまで借りるのかという問題にも私たちは直面します。まずは自分がどう生きていきたいのかということを考えてみてほしいと武藤先生は最後におっしゃいました。

 

自分らしい生き方。それは人それぞれです。自分の選択が、知らずに誰かを傷つけてしまうこともあるかもしれません。だけど、周りばかりを気にしていると自分らしくいられないかもしれません。

ではどうすればよいのか。自分の生き方ですら簡単に答えを出すことはできません。まして社会全体のこととなればなおさらです。

本当に大きな課題に取り組み始めたのだと、身の引き締まる思いでした。

 

さて、これで講演パートは終わりです。

お二人の先生のお話を踏まえ、次回のブログではディスカッションパートの様子をお伝えします。このパートでは、実際に家族に関わる問題と向きあっている方々から生の意見をたくさん聞くことができました。

次回もお楽しみに!

2月11日「みらいのかぞくを考える~キックオフイベント」の報告
文化人類学から見る家族のかたち
科学技術と生命倫理(この記事)

 
<参考:厚生労働省ホームページ>
 
 

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