過去の「教訓」を未来の「災害対策」へ ~「温故知新 -みんなでつくろう、災害に強い社会-」の実施報告~

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みなさん、こんにちは。科学コミュニケーターの伊藤です。

また、自然災害による大きな被害が出てしまいました。被災された方には謹んでお見舞い申し上げるとともに、犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。



長年、自然災害に見舞われてきた私たちは、その被害や教訓を次世代に語り継いできました。こうした教訓を日本だけではなく、世界中の災害事例からも学ぶことができないだろうか。そんな思いで企画したイベントを昨年11月に行いました(遅くなってごめんなさい)



タイトルは「温故知新 
-みんなでつくろう、災害に強い社会-」。主に日本で学ぶ留学生たちと一緒に「過去に遭遇した災害から得た経験や教訓」を活かした災害対策とは何かを考えました。


20160903_ito_01.jpg集合写真



参加したのは
世界8カ国からの人々。日本で学び、母国に貢献したいと真剣に取り組んでいる方々です。自然災害が多い日本ならではの知恵や教訓は、ぜひ学んで持ち帰りたいものだったようです。一方で、災害を身近に感じた経験のない方に、その対策を考えてもらうことの難しさも感じることとなりました。



参加した留学生は9名で中国、タイ、ネパール、イラン、エジプト、イタリア、カナダ、日本と世界中から集まりました。彼らを様々な災害の中でも特に世界的に被害の生じやすい「地震」と「水害」の2つのチームに分けてグループワークを行いました。



1つ目のグループワークでは、日本の「津波てんでんこ」やインドネシアの一部で伝わっている「スモン」といった、地震が起きたときに急いで高台に逃げるという教訓の紹介をしたのちにチーム内で対象の自然災害について自分が知っている、または聞いたことのある「教訓」や「言い伝え」などを共有してもらいました。


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グループワーク1の様子




参加者の中には自然災害に慣れている人も、そうではない人もいました。『日本に留学に来て初めて地震を経験した!』という方もいたほどです。災害
の経験がほぼ無かった中国からの留学生は『経験者からの話はとても参考になる』と言っていました。



ただ、残念ながら参加者から私が初めて聞くような教訓や言い伝えなどは出てきませんでした。出てこなかった理由として、単純に参加者が少ないこともありますが、海外ではこうした経験を語り継ぐような風習があまりないということも考えられます。



また、出てこなかった現実を踏まえて私自身が考えさせられたこともありました。それは日本の「特異さ」です。



日本では多くの自然災害が発生するため、多大な犠牲を払って学んできた災害の経験や教訓が膨大にあります。参加者からも日本の経験・教訓や法律について見習いたいという意見が多く聞かれました。普段は気にも留めませんが、こうした経験や教訓は私たちにとって大きな財産であることに気づかされました。



2つ目のグループワークでは、まず仮想の災害に対する被害を予測してもらい、そのあとに各被害を減らすために「個人・地域社会・国」がどのような対策を取るべきなのかを考えてもらいました。重要なことは、「個人・地域社会・国」がその対策を行うために「自分は何をできるのか、何をする必要があるのか」を考えてもらうことでした。



今回、集まってもらった留学生たちは母国とは全く違う東京という環境に身を置き、真剣に何かを学んだ後に、その知識や経験を母国のために活かそうとしている方々でした。そうした方々だからこそ、私は「自分にもできることがある」「お金がなくともできることがある」ということを伝えたいと考えました。


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グループワーク2の様子




このグループワークでは参加者から『災害警報を伝えるための携帯向けアプリの開発を行う』や『日本で建築学を学び、耐震性のある建物を現地で広めたい』などが挙がりました。しかし、参加者が「主体的に考えることの重要性を十分に理解してもらうことができた」と言い切るには、不十分だったかもしれません。



その理由として、災害経験のない人・少ない人に対して適切なフォローをできなかったことが大きな原因だったと思います。「災害対策を主体的に考えよう」と言われても、災害発生時に何が起こるのかもわからない人が考えるのは難しかったのだと思います。



また、今回のイベントでは産業技術総合研究所の西村拓一先生協力をお願いし、参加者同士の議論への参加やイベント全体の総評をしていただきました(西村先生のホームページはこちら)。西村先生は情報技術を駆使した介護や医療サービスにおける市民負担を低減するための研究を主に行っており、こうした技術が災害発生時にどんな役割を果たすことができるのかという視点でご参加いただきました。



科学技術に全てを依存することは、イベントで伝えたかった「災害対策を主体的に考える」とは正反対のことです。しかし、こうした科学技術により従来までは考えられなかった「人とのつながり」や「コミュニティ」が形成され、災害対策や復興に役立っていることも事実です。科学技術も使い方次第で被害を減らす一助になることを知ってもらうために、西村先生から研究紹介もしていただきました。



西村先生のシステムはまだ研究段階であり、すぐに応用できるわけではありません。しかし、将来的にはこうした技術が日本だけではなく世界中に普及し、災害発生時の被害を減らすことに貢献していただければと思っています。


20160903_ito_04.jpg 議論に参加する西村先生(中央)




当初のイベントの目的を達成することは難しかったのですが、改めて痛感したことがあります。それは考え方や立場の違う人に対して、何かを伝えることの難しさです。



今回は災害経験度に違いがある人たちが集まりました。そのたった一つの「違い」があるだけでも、こちらの伝えたいことが上手に伝わりませんでした。



これは決して「対象が海外の方々だから」という問題ではありません。



日本でも「自分が直接」経験していないと、どこか他人事になってしまいます。このことは自然災害の経験がない海外の方々と何も変わりません。つまり、災害大国である日本でも災害経験度に違いのある人が大勢いるのです。



さらに、先日、観測史上初めて東北へ直接上陸した台風10
号のように、「その地域では、これまでに例のない」事態も起こりえます。こうした違いのある人たちに対して、どのように伝え、意見を促し、そして行動に移してもらうのか。



それはまさに私たちがしている「科学コミュニケーション活動」そのものです。今回のイベントを通じて、科学コミュニケーション活動をどのように実践していくべきなのかを考える良い機会となりました。



まだ具体的にどんな活動をすれば良いのか、自分なりの答えは見つかっていません。しかし、これからの活動では今回のイベントを通じて学んだ「経験・教訓を改めて大切にする」「違いを意識する」ことを心に留め置きながら、自分なりの「答え」を考え続けたいと思います。


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