Lesson #3.11プロジェクト~核図表で放射線を理解するという提案~

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こんにちは!科学コミュニケーターの眞木まどかです。

みなさん、未来館が「Lesson #3.11」という名前のプロジェクトに取り組んでいることをご存知でしたでしょうか?

名前の通り2011年に起きた3月11日の大震災と、原子力発電所の事故に焦点を当て、科学的データに基づき何が起こったのかの情報発信をするとともに、あのできごとからどんな教訓を未来に活かせばよいのかを考えるために始まりました。

これまでの活動履歴はこちらよりご覧いただけます。

活動の一部を紹介します。

科学コミュニケーションを中心にしたイベント「サイエンスアゴラ」にて、「いま社会に必要な放射線リテラシーとは」と題した展示を行いました。イベントの性格上、科学技術の専門家や、科学技術教育の実践家や教育者などの方々が多く集まると考え、上記のようなタイトルにしました。原子力と関わる可能性がある限り、知っておかなければいけないベーシックな科学知識や身につけておかなければならないリテラシーとは「○○」なのではないか?の「○○」を皆さんと議論したいと考えました。

このブログでは、パネル展示で私たちが提示したポイントと、会場で寄せられた声をご紹介したいと思います。なお、展示したデータは、こちらからダウンロードできます。

さて、今回はタイトルの問いを、福島県教育委員会の教本に倣い以下の3つの柱に整理しました。

Ⅰ:物理的性質を中心とした放射線の基礎

Ⅱ:放射線から身を守るために必要な被ばくによる健康影響に関する知識

Ⅲ:家族やコミュニティーとのつながりの中で、放射線と私、放射線と社会の選択を考える

今回は、私たちが考える「いま社会に必要なリテラシー」を表した「未来館からのポイント①核図表で理解する」を紹介し、来場した方から頂いた声もあわせて最後にご紹介します。ⅡとⅢは次回以降に。

Ⅰ:物理的性質を中心とした放射線の基礎

未来館からのポイント ① 核図表で放射線を理解する!

なぜ、このポイントにしたのか?なぜ、核図表といったあまりなじみのないものをまずは、とりあげたのか?といった声が聞こえてきそうです。原子力発電所の事故が、そもそも放射性物質とは何かといった原点を問えるきっかけを与えてくれたのかもしれません。放射性物質と放射線の違いって何?という疑問に答えつつ、説明していきたいと思います。

私たちの世界にあるあらゆる物質は、原子の集合体です。例えば、空気のおもな成分である窒素は窒素原子が2つつながった分子(N2)。酸素も同様です (O2)。水は水素(H)と酸素 (O)の化合物(H2O)。洋服の繊維は炭素(C)がたくさん連なったものに、酸素(O)や水素(H)などがくっついています。そのような原子の種類はおよそ100種類あります。

では、原子の種類を決めているのは何でしょうか?それは原子を構成している、原子よりさらに小さな粒子です。以下のような構造をしています。原子を形作っている粒子は3種類。陽子中性子電子です。図をみてください。

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陽子と中性子は1か所に集まって原子核を形成し、その周りに電子があります。

原子の種類の違いを生み出しているのは、電子です。

ですがこれを、陽子の数の違いと言い換えることもできます。なぜなら、マイナスの電荷をもつ電子の数とプラスの電荷をもつ陽子は、原子に同じ数存在しているからです。(電子の数=陽子の数)

みなさんも一度は見たことがある周期表。これは原子を、陽子の数の順番に並べたものなのです。

さて、ここで中性子は隅においやられてしまった感がありますが、中性子っていったい何者なのでしょう?必要なんでしょうか?

じつは陽子だけでは原子核をつくることができず、中性子が必要です。陽子同士は同じ電荷をもつため反発し合い、陽子だけでたくさん集まることはできません。そこで、中性子の役割が登場です。中性子は、陽子同士をつなぎとめてくれているのです。

陽子をつなぎとめるのに必要な中性子の数は一通りではありません。陽子の数よりも中性子の数が少し多めだったりしても原子核はつくれます。このため、陽子の数が同じ原子にも、中性子の数には複数のパターンがあります。たとえば、陽子1個の水素の原子核では、中性子の数は通常は1個でよいのですが、中性子が2個のものと、3個のものなどがあります。

 ということで、原子の種類は本当は、陽子と中性子の組み合わせの数だけあって、100種類どころではなく、もっとたくさんあるのです。それを表に現したのが、核図表なのです。

やっと、今日お話したかった核図表をお話できました。未来館がつくった核図表は、こちらです。

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水素のところだけ取り出しました。

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色分けは、後ほど説明しますが、まずは水素の列をご覧ください。先ほどの説明の通りように、「水素」と一口でいっても「7つ」あることが確認できますよね。

核図表の左から右に並ぶ数字は中性子の数を表し、上から下に並ぶ数は、陽子の数を示しています。水素だけ切り取ると、下に並ぶ数は「1」(=陽子の数)だけですね。

中性子の数が変わっても、おなじみの周期表では「同じ原子」となります。これを専門的な用語で「同位体」と言います。周期表の同じ位置にあるので、同位体です。ですが、周期表ではなく核図表では、中性子の数によって同位体1つ1つを分けて表示します。先ほど、陽子と陽子をつなぎ止める役割として中性子を紹介しました。核図表を通してみると、中性子の数が陽子よりも多い場合や少ない場合があることがより明確にわかります。

これらの種類の中に、すわりが悪く自然に原子核が壊れて、すわりの良い状態の原子核へと変わっていくものと、すわりの良い状態になったものと二つあります。前者を「放射性同位体」、後者を「安定同位体」と呼びます。水素の列にある、黄色マスは、すわりの悪い放射性同位体を表しています。一方の水色マスが、すわりのより安定同位体です。

冒頭で「私たちの世界にあるあらゆる物質は、原子の集合体」と書きましたが、少し違う言い方をすれば「私たちの世界にあるあらゆる物質は、放射性同位体と安定同位体」ということです。この2つは漢字が続いて長いので、前者を「不安定」、後者を「安定」と呼ぶことにしますね。

不安定は、名の通り不安定なので、そのままでとどまることはできません。これは、「少女眞木」(=放射性同位体1個)がほしいものをどうしても買ってほしいため、デパートの床で暴れているようなイメージです。ほしいものを買ってもらうために、すごいエネルギーを出しています。でも、数十年後「少女眞木」は、「大人眞木」へと変わりました。「大人眞木」(=安定同位体1個)はすっかり落ち着いていて、暴れてエネルギーを出すことはしません。少女が大人へと変化するように、不安定も安定に向かうのです。つまり、放射性同位体は、安定同位体に向かいます。これはとても自然な原理です。

つまり、黄色マスの同位体は、水色マスへと向かいます。不安定が安定に変わるときに出るのが、放射線です。黄色マスが水色マスに向かうときに、放射線を出します。

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放射線には、α線、β線、γ線...といったようにいろいろな種類があります。核図表は、不安定がどのようなルートをたどり安定へ変わっていくのか、それを、マスをたどりながら追うことができます。

放射線の種類によって、核図表上での黄色マスの移動の仕方がかわります。β線を例にしましょう。β線を出す放射性物質がどんな様子かというと...原子核を構成している中性子が壊れて、陽子と電子に姿を変えます。陽子は原子核に残り、電子だけが飛び出します。ですので、β線の本当の姿は、電子です(このとき同時にニュートリノも出ますが、今回は陽子・中性子・電子に注目します)。中性子が陽子と電子に姿を変えるなんて、私たちの世界からは想像しづらいですが、β線を出した放射性物質は、陽子が1つ増え、中性子が1つ減り、異なる原子になりました。これは、β線の1つの例です。

これを図解してみると、このようなイメージです。

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β線を核図表で表現すると、1マス下へ(つまり陽子の数は+1)、1マス左へ(つまり中性子の数は-1)と移動することになります。

例えば...核図表の水素とヘリウムで説明してみます。

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赤枠の水素原子はβ線を出して、点線赤枠のヘリウム原子へと変化します。不安定な水素が、安定のヘリウムにたどり着きました。いったん水色のマスにたどり着くと安定し、それ以上、原子核が壊れることはめったに起きなくなります。

まとめると、身の回りにあるあらゆる物質を構成している原子の「原子核」に注目すれば、α線、β線といった放射線の違いを明確に示すことができます。陽子の数と、中性子の数を示す2軸で、私たちの世界にある原子核の種類を表した核図表を通して、原子核には安定しているものと不安定なものがあることが見えてきます。不安定な原子核は核図表のマスを移動し、安定な原子核へと姿を変えていきます。その時に飛び出す粒子や電磁波が放射線の正体であることを、核図表を通して理解できます。私たちがサイエンスアゴラというイベントで提案したのは、こうした核図表からの放射線の理解でした。

来場した方からは以下のようなご意見をいただきました。

原子力関係の仕事をしている方は「核図表まで載せているんですね。確かに不安定な物質が安定になるときに放射線が出てくるということがわかりやすい。」と言っていただきました。また、物理学専攻の大学生の方は、「もし教員になったら(放射線やその周りの事象について)何をどう教えたらよいのか考える機会になった。」とおっしゃっていました。

科学コミュニケーションを行う方は、「未来館としてどんな放射線リテラシー活動が必要なのかについてはもっと積極的な提案があってもいいかと感じた」と助言していただきました。また、大学教員の方には「未来館という場でこのような活動をやるのも良いが、(館)外(もしくは東京都外)に出て(活動をして)ほしい。」という声もいただきました。

皆さんは何を思いましたか。

Lesson #3.11プロジェクトは、東日本大震災から6年目を迎えるにあたり、特別展示を主催しています。タイトルは「Lesson #3.11~学びとる教訓とは何か~」期間は、3月1日(水)から、3月27日(月)です。1階コミュニケーションロビーにて開催しております。無料にてお入りいただけます。

http://www.miraikan.jst.go.jp/online/lesson311.html

会期中は科学コミュニケーターが常駐して、皆様のご来場をお待ちしております。ぜひ、会場でお話しましょう!この活動は、私たちが発信し続けるのみならず、皆さんの声や、参加が不可欠です。

多くの皆様のご来場をお待ちしています!

(編集注:2017年3月16日 午前9時、中性子の数が間違っておりましたので、図を修正いたしました。)

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この記事への4件のフィードバック

なぜウランが鉛になるのかがよく解りました。
同位体、不安定な核種、核分裂、単なる点の
知識がいきなり面になった様な気がしました。

福島で機械製造の工場に勤務しております。
場所がらとてもありがたく拝読させて頂きました。

小貫敏弥

いつも楽しみに読ませていただいております。
twitterでも@でリプ入れたのですが、本文中の中性子数一つずれてしまっています。質量数1の水素の中性子は0ですよね。リンク先の表は正しく表示されています。
気になるので修正していただければと思います。

小貫敏弥様、

コメントをくださり、誠にありがとうございます。
感想をお聞きし、執筆者として冥利に尽きます。

Lesson #3.11プロジェクトを通し情報発信を続けたいと思っておりますので、どうぞこれからもご注目頂けますと幸いです。

ご来館をお待ちしております。

眞木まどか

bassface様、

コメントをくださり、誠にありがとうございます。

ツイッターでのコメントも読ませて頂きました。ご指摘を受けまして、編集完了いたしました。この度は誤りのある数字を載せてしまい大変失礼いたしました。

どうぞこれからも、未来館のブログをお読み頂けますと幸いです。

眞木まどか

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