すごいぞ、光合成!!〜みどりの学術賞に添えて〜

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こんにちは!科学コミュニケーターの梶井です!


桜の花も散り、葉桜が青々と輝く季節になりました。

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元気な葉っぱたちを見ると、光合成に思いを馳せる人もいるのではないでしょうか?

人生最初で最後の自由研究が光合成に関することで、大学でも光合成を少しカジッていた私は、小さい頃からいつも「自分で光合成をできたらなぁ・・・・・・」と考えています。


そんな話はさておき・・・・・・

先程から「光合成」と連呼していますが、皆さんは光合成についてWikipediaなどで調べましたか?

きっと調べずとも、次のような現象ということをご存知だったと思います。



「植物が光を使って、二酸化炭素と水から糖と酸素を生み出す反応」



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「この木なんの木?」でおなじみのモンキーポッド。梶井が大好きな木。

(写真の出典: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hitachi%27s_tree.jpg)

光合成は、小学校の教科書にも載っているほど、私たちにとって最も身近な現象の1つです。


ですが、みなさん!



「光合成のことはもう全部わかった!」
「光合成の研究はもう終わっている!」



と、思っていませんか??



たしかに、「光合成に関係する研究にはノーベル化学賞が10回贈られている」と言われるほど、光合成の研究は昔から進められてきました。


しかし!光合成は、まだまだ謎だらけです!!


今年のみどりの学術賞は、本田ともみの記事で紹介した丸田頼一先生と、「光合成の酸素発生機構の原子レベルでの解明」という受賞理由で、岡山大学異分野基礎科学研究所の沈建仁(しん・けんじん)教授に贈られました。

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(写真提供: みどりの学術賞)


それでは、沈先生がどのような素晴らしい研究をされたのかについて迫ります。



光合成にも種類はありますが、私達がふだん目にする「酸素を出すタイプの光合成」の反応は、大きく分けると以下の3ステップで進みます。

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(写真の出典: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Leaf_1_web.jpg)

「①光を吸収する」に関しては、光合成という名前からも納得してもらえると思います。


②、③でいきなり「電子」が登場しました!光合成で電子を想像する方は少ないかもしれません。実は、光合成の本質は電子の移動であるといっても過言ではありません!


例えば水分子では、以下のように水原子と酸素原子が互いの電子を共有し、化学的に結びついています。

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光合成は、光のエネルギーを化学エネルギーに変えます。化学エネルギーは化学結合の変化から生まれるので、電子が重要です。


もちろん、電子は何もないところからボコボコと湧き出てきません。


「水」こそが、酸素発生型の光合成の電子供給源なのです!



「酸素の話はいつでるの?」と思った方もいらっしゃるかと思います。

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実は、上の図のように、酸素は水を分解するときに出てくる「おまけ」に過ぎません。私たちはおまけで出てきた酸素によって生かされています。
※ 酸素分子(O2)は二酸化炭素分子(CO2)の酸素原子からではなく、水分子(H2O)の酸素原子に由来します。これは、酸素の同位体を用いた研究によって確かめられています。



先程から「水が分解される」と言っていますが、水は安定な化合物です。太陽の光だけで簡単に分解されてしまうようでは、私たちの身の回りの水は消滅してしまいます。


光合成には、水を太陽の光エネルギーを使ってバラバラにし、そこから得た電子を運ぶための素晴らしい仕組みがあるのです。


それが、光化学系II(こうかがくけい2; PSII)です。
PSIIは、20種類のタンパク質や、多くの補酵素が集まっているタンパク質複合体です。


植物では、PSIIは葉緑体の中のチラコイド膜(下図の緑色の線で表した部分)という膜の中にありますが、その詳細な形は最近まで分かっていませんでした。

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どのように水が分解され、どのように電子が運ばれるのかというメカニズムを完全に知るためには、PSIIの詳細な形を知る必要があります。詳細な形が分かれば、似たものを作ったり、シミュレーションで試したりして反応の理解を深めることができるからです。


タンパク質などの分子は、小さすぎて直接見ることができません。その形を正確に知るためには、調べたい分子のきれいな結晶(単結晶)とX線のような強い光が必要です。これを「単結晶X線構造解析」とよびます。


簡単に説明すると、①単結晶にX線を当てると、②結晶中の分子やその分子中の原子がどのように並んでいるかという情報を持った光が得られます。③その情報を元に複雑な計算することで、④原子の並び方(=分子なら分子の形)が分かるのです。

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測定装置の発展に伴い、2000年くらいからPSIIの形は少しずつ分かりはじめました。


そして、2011年!
沈先生は、大阪大学の神谷信夫(かみや・のぶお)先生と共同で、PSIIの原子レベルで詳細な構造をNature誌に報告しました。


シアノバクテリアという酸素発生型光合成細菌のそれが、下の図です!! (光合成は植物の他に一部の細菌も行っています。)

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PSIIの全体構造。水色の点は全て水分子。
(画像提供: 沈建仁教授)


どれくらい注目を浴びた研究かというと、Science誌の発表した2011年の10大科学ニュースに挙がったほどです。「はやぶさ」もその中にありましたが、日本国内でPSIIがあまり取り上げられなかったのは残念なことです。


特に、酸素を直接分解する酸素発生中心(OEC)という場所の原子レベルでの構造の解明は重要なものでした。

OECは、マンガン(下図の紫色)、カルシウム(黄色)、酸素(赤色)が歪んだ椅子のような形に並んでいたのです(オレンジ色は、水分子の酸素)。


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梶井的に、好きな化学構造トップ5に入るカッコよさです!萌えますね。

(画像提供: 沈建仁教授)




ただ、2011年の報告には、X線損傷という問題が残されていました。

使ったX線が強すぎるため、水分子から電子が弾き飛ばされ、近くのマンガンが電子を受け取ってしまったのです。OECの電子状態、すなわちOECの形が正確ではないという批判でした。

こちらに関しては、沈先生らの2015年の論文、神谷先生らの2017年の論文によって解決したと考えられています。

この結果は、2011年のものと比較しても、数十 pm(ピコメートル, 1 pmは1 mの1兆分の1の長さ)しか変わりませんでした。そのレベルの正確さをこだわらなくてはいけない、厳しい世界なのです。

光合成の水分解反応は5段階で進みます。これまで話したPSIIの構造は、S1という反応が始まる最初の状態のものです。光合成の水分解反応に関しては、現在でも国際的に熱い議論がされています。


今回は割愛させていただきますが、その他にも沈先生は、光化学系I(こうかがくけい1; PSI)という光合成に重要な別のタンパク質複合体の詳細な構造の報告や、PSIIの別の状態の報告(2017年2月)などをしており、現在でも光合成研究の第一人者として活躍しています。



では、他の国にも最新測定装置があるのにもかかわらず、沈先生が成功を収めているのはなぜでしょうか?


その理由の1つは、沈先生のつくる結晶が素晴らしいことです。

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PSIIの単結晶。

(画像提供: 沈建仁教授)




例えば、2011年のときには、沈先生は約20年かけてPSIIの良い結晶の作り方を蓄積していました。

良い結晶になりにくいものから良い結晶を作るためには、並外れた努力が必要です。 私も、大学・大学院生時代に、2年かかってもできなかった結晶がありました。
結晶がなければ進まない研究というのは、とっっっても苦しいです。 ぜひとも、沈先生にお話をお伺いしてみたいものです。


最後に、冒頭で「光合成ができたらなあ」という話をしましたが、実際に光合成をみならい新たなエネルギーを生み出す研究が行われています!

「人工光合成」といいます。


例えば、光合成のように太陽の光エネルギーを利用して水を分解し、それを原料にして水素分子を作れたら・・・・・・?

水素分子をそのまま燃料として使うことも、二酸化炭素などと化学反応をさせて新たな資源を生み出すこともできます。

つまり、太陽の光と水から人類に有用なエネルギーを人工的に生み出すことができるのです!

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未来館 3階 常設展にある人工光合成の展示

自然の光合成の素晴らしい仕組みをみならうことが、人工光合成の重要なアプローチ方法の1つです。

沈先生の研究は、光合成の基礎科学の進展だけでなく、人工光合成にも影響を与えている国際的にも高い評価を受けている素晴らしい研究です。


日本では人工光合成の研究が非常に活発に行われています。
次に、光合成に関係する研究にノーベル化学賞が贈られる際には、日本に関係する方に贈られることを私は確信しています。


改めまして、沈先生、みどりの学術賞のご受賞おめでとうございます!!




【おまけ】

今回、分子の形を正確に知るためには強力な光線が必要だということを話しました。 実験室レベルの線源では作り出せないような強い光がほしいとき、とても大きな測定装置が用いられます!こちらです!

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兵庫県にあるSPring-8とSACLAの航空写真
(写真提供: 理化学研究所)


どのような装置かという説明は省きますが、丸い輪っかのような部分がSPring-8(すぷりんぐえいと)、その横の細長い一直線に伸びる建物がSACLA(さくら)と呼ばれる測定装置です。


ちなみに中はこのようになっています。

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(上)SPring-8実験ホール(下)SACLAのアンジュレーターいう部分

(写真提供: 理化学研究所)






カッコイイ!!!






沈先生の2011年の研究にはSpring-8、2015年の研究にはSACLAが用いられました。


特に、SACLAは2012年に共用利用を開始したばかりの最新測定装置であり、同様の測定装置は世界でもアメリカとドイツにしかありません。




今後の成果が期待されます!






編集注:
光化学系IIの全体像と酸素発生中心の画像に使用した次の注釈を削除しました。「このデータは、2011年のものではなく2015年に得られたものです」

また、SPring-8とSACLAの写真の提供先を沈先生としておりましたが、沈先生が理化学研究所に使用許可をとってくださったものなので、正しくは理化学研究所となります。

誤解を招いてしまったこと、お詫び申し上げます。(2017年5月1日 梶井宏樹)






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