Lesson #3.11プロジェクト
6年半でわかってきた原発事故による海洋への影響と現状

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こんにちは。 科学コミュニケーターの森脇です。

2011年3月11日に起きた大地震と原発事故。
あれから、6年半が経ちました。
3.11後に研究を始めて今だからこそ分かってきた科学的データがある。
それを皆さんに正しく伝えたい。
その想いでこのブログを書いています。

3.11の教訓を、私たちのこれからの暮らしにどのように活かしていくのか。
未来館では、3.11に起こった事象とその後について、科学的データに基づいて情報発信し、今、そしてこれから、何を考え、何をしなければならないのか、皆さんと一緒に考える活動「Lesson #3.11」を続けています。これまでの活動内容についてはこちらよりご覧いただけます。


そして、世界中から科学館関係者が集まる「SCWS 2017」に合わせて、11月14日(火)から17日(金)まで未来館5階 Miraikan Cafe前にてパネル展示を行います。

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そのうち、16日(木)、17日(木)は通常どおり開館しており、皆さまにもパネルをご覧いただけるのですが、今回は世界中の人が読めるよう、すべて英語のパネル.........

ということで、このブログではその内容の一部を日本語で紹介します。この記事で取り上げるのは、海洋とそこに含まれる放射性物質についてです。

3.11の原発事故により、セシウム137をはじめとした大量の放射性物質が、大気や陸域だけでなく海洋へと放たれました。海洋については、そこにいきる生き物たち、海底土、海水とそれぞれ調査研究されていますが、このブログでは特に海水について、一歩踏み込んでみていきたいと思います。そもそも原発事故で海水が放射性物質によりどれほど汚染されたか、そして現在はどのような状態にあるのかについて、さまざまなデータを提示していきますので、ぜひ、データを一緒に紐解いていきましょう。

◆原発事故以前とその後~海水に含まれる放射性物質~

事故後の汚染状況を判断するには、事故前はどうだったのかを知ることがとても大切ですが、実は、海洋には、福島原発事故の以前から、人工放射性物質が含まれていました。

下のグラフは、原発事故以前に北太平洋の様々な場所で測定された、海表面付近の海水に含まれる人工放射性物質の濃度推移を示しています。ここでは、半減期が30年、29年と長いセシウム137とストロンチウム90の濃度推移が示されていますが、これら人工放射性物質は、1945年から始まった大気圏内の核実験によって生み出されたものです。その濃度は、1960年代前半にピークをむかえ、1970年代になると、核実験が行われなくなっていったため濃度は徐々に低くなり、2000年代には1立方メートルあたり1~2 ベクレル程度まで落ち着きました。濃度が低くなったのは、30年以上の時が経ちセシウム137やストロンチウム90の量が半減したことや、北太平洋から海流にのってインド洋、大西洋、南太平洋など他の海洋へと拡散していったから、そして表層から深いところへと運ばれていったからだということが分かっています。(下のグラフは、縦軸が対数であることにご注意ください。対数目盛のため、ひとつ目盛が下がると濃度は10分の1にさがります)。

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図:北太平洋の人工放射能濃度の推移
(Aoyama and Hirose, 2004, HAM database and update )

そこで起こったのが3.11の原発事故です。事故によって、大量の放射性物質が海洋へと取り込まれました。下のグラフは、福島第一原子力発電所周辺の海表面付近の海水に含まれるセシウム137の濃度推移を示しています。こちらをご覧いただくと、2011年4月7日にピークを示した後にさがってきていることがわかります。原発1 km圏内の濃度は原発事故後6年半が経った今でもなお、1立方メートルあたり100ベクレルと、原発事故前の濃度の約100倍の値が出ていますが、これは現在も小規模な放射能漏えいが続いているからです。しかし、原発から少し離れた30 km圏外では、原発事故以前に観測されたセシウム137の濃度とほぼ変わらない状態まで落ち着いてきています。(このグラフも縦軸は対数です)。

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図:福島第一原子力発電所周辺の海表面付近の海水に含まれる
セシウム137濃度の推移
(原発から1 km圏内のデータ提供:東京電力、
30 km圏外のデータ提供:海洋生物環境研究所)  

なぜ、このように海の表面付近に含まれるセシウム137の量が減ってきたのか。
それについてはこの後お話していきます。

◆なぜ、原発周辺の海に含まれる放射性セシウムの濃度がさがったのか

その理由は、核実験由来の放射性物質の動きと同様に、2つあると考えられています。
1つめは、放射性物質が海流にのって広がり濃度が、薄まったから。
2つめは、放射性物質が海の表面から海の奥深くへと沈み込んでいったから。

1つめについて、原発事故によって海へ放たれたセシウム137が北太平洋の海を移動・拡散していく様子をご覧下さい。

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図:原発事故後の北太平洋における放射性物質分布の変化
(データ提供:電力中央研究所 坪野考樹先生)

この図は、移動拡散する様子をシミュレーション計算から求めたものです。これを見ると、2011年3月11日直後には福島沖で1立方メートルあたり200ベクレルを超える値が出ていますが、その後、セシウム137が黒潮の流れにのって東の海へと拡散され、濃度が低くなってきていることがわかります。

ここまでのことをまとめましょう。

3.11の前にも海が汚染されていた時代はあった(それは福島近海に限らず、北太平洋に広く及んでいた)。その値は半世紀をかけて減りました。しかし、原発事故の直後に福島沖の一部の海域では放射性物質濃度が再び跳ね上がりました。北太平洋全体から見ると、海の表層付近に存在している放射性セシウムの総量は事故前から22 %~27 %程増えたという状況です。福島沖の放射性物質の濃度はその後、徐々に減り、福島第一原発からちょっと離れると、原発事故前と変わらない程度にまで落ち着いてきている(ただし、原発から1km圏内は60年代の北太平洋と同レベルに「汚染された」状態にある)。
そしてそれは、放射性物質が海流にのって大きな海洋の中で広がり、濃度が薄まっていったからということがわかってきた...。

では、この環境で育つ海の生き物たちへの影響はどうなのでしょうか? 
実は、海の生き物たちが現在の海洋環境から受ける影響について評価するための実験なども行われており、その情報についても未来館のパネル展示では紹介しています。
今回のブログではその内容について触れられませんでしたが、次回のブログではSCWS2017の参加者や一般のお客様との対話の内容も含めて、海産物などの食品の話をお届けします!


参考文献:
(1)Aoyama and Hirose, 2004, The Scientific World JOURNAL. 4, 200-215
(2)Aoyama et al, 2016, J. Oceanogr. 72, 66-76
(3)「福島第一原子力発電所から漏洩した137Csの海洋拡散シミュレーション」財団法人 電力中央研究所
(4)「漁場を見守る 海洋環境放射能総合評価事業 海洋放射能調査(平成28年度)」公益財団法人 海洋生物環境研究所
(5)「平成27年度放射性物質影響解明調査事業報告書」国立研究開発法人 水産総合研究センター
(6)Aoyama and Fukasawa, 2011,Progress in Oceanography. 89, 7-16
(7)Tsubono et al. (2016) Deep-Sea Research I, 115, 10-21

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