迫りくる! 薬が効かない"ばい菌"たち 【感染拡大シミュレーション!編】

みなさん、こんにちは!

光ったのが穴の中とかじゃなくて本当に良かった。

いきなり変な写真ですみません、科学コミュニケーターの山本です。

僕の鼻とコメカミが光っているの、見えますでしょうか? 光っているのは、ブラックライトを当てると光る塗料です。その塗料を手にだけ塗っておいて、そのままお仕事をして、ブラックライトで確認したら、いつの間にかこうなっていました。

光っているところが、仕事をしながら何気なく触ったところです。

1.どうして鼻を光らせる羽目になったのか

そもそもなんでこんなことをしていたかのお話からさせてください。
2018年2月12日(月・祝)、18日(日)の耐性菌(薬剤耐性菌)についてのイベントで流す動画撮影のため、というのがその理由です。

耐性菌というのは、抗菌薬(いわゆる抗生物質)が効かない性質をもった細菌(ばい菌)です。
イベントに関連して、最近このブログでも関連記事が上がっています(①、②、③)。1年以上前に僕が書いた記事 (リンクは削除されました)もあります。

要するに、僕たち一人ひとりが、抗菌薬をひんぱんに使い過ぎたり、テキトーに使っていたりするうちに、薬が効かないばい菌が次から次に出現しちゃうよ、というのが、耐性菌の問題です。抗菌薬が使えないと、"ばい菌"が原因の病気になったときなどに、かなり困ります。そうならないように、耐性菌が出現するのを防がないといけません。

2.誰が耐性菌を出現させているのか?

耐性菌というと、病院の中で起こる院内感染というイメージがあるかもしれません。ですが、耐性菌は病院の外でも生み出されたり、人知れず感染していたりするんだそうです。

僕もあまり大病をしたことがないんですが、思い起こせば抗菌薬を飲んだ記憶、結構あります。たまに病院に通うくらいの人でも、意外と抗菌薬を使っていたりして、耐性菌を出現させる可能性を持っているんですね。

今回のイベントの一環で、松永展明先生(AMR臨床リファレンスセンター) (リンクは削除されました)にトークイベントを実施していただきました。そういうわけで、これ幸いと、病院の外で広がっている薬剤耐性の感染症の具体例を訊いてみました。

そこで教わったのが、尿路感染症でした。腎臓から尿道までの、おしっこの通り道の感染症で、痛みが出たり、熱が出たりすることがある病気です。この感染症で、薬が効かない菌の割合が、だんだん高くなってきているとのこと。

尿路に絡みつく大腸菌のイラストに、ムズムズが止まらない。
(松永先生のトークの様子)

薬が効かないと、こういう病気の治療に苦戦してしまうわけです。そんな薬剤耐性菌をこれ以上生み出さないためには、私たち一人ひとりが正しい薬の使い方をする必要がある、ということなのですが。

そもそも薬を使わないで済ませる方法って、ないんでしょうか?

同じ種類の菌の中にも個性があって、抗菌薬に強い菌も弱い菌もいます。そこに抗菌薬を使うと、薬に強いほど生き残りやすくなるので、どんどん薬に強い菌が選抜され、薬が効かない耐性菌に進化していくと言われています。であれば、薬を使わなければ、耐性菌が生まれてくる可能性を、ぐっと下げられるはずです。

つまり、感染症の予防が、薬を使わないで済ませる方法ですよね。それは同時に、耐性菌の出現を防ぐ効果もある、ということになります。

3.鼻が光ったらなんだというのか

冒頭の話に戻りましょう。

ある種の細菌やウイルスなどの病原体は、粘膜(目、鼻、口など)に着くことで、身体の中に侵入してくると言われています。今回、鼻を光らせてしまった僕は、手に病原体がついていたら、それを体に侵入させてしまいやすい、ということになる気がします。これでは、予防も難しいですよね。

では、手にはどれくらい病原体がついているんでしょう? 他の人が持っていた病原体が手についたりすることって、どのくらいあるんでしょうか? 塗料を使ってシミュレーションしてみることにしました。

今回のシミュレーションでは、感染症にかかっているのが僕、という設定でした。手に塗料を塗ったのは、咳をして病原体が手につく、という状況の代わりです(なので、設定上は、僕の鼻に塗料がついてもいまさら、ではあります)。
そして、同じ部屋では、他の科学コミュニケーターも一緒に働いていました。

新知見:ラップ越しでも仕事はできる(塗料からパソコンを守るためです)

手に塗料を塗っていたのは、僕だけです。普通に仕事をしていただけなので、別にベタベタと他の3人の同僚に触りに行ったりはしていません。

ですが、1時間ほどで、全員の手や顔が光りはじめました。
僕がどこかに触れ、その同じところを別の人が触ったことが原因です。

例えばドアノブ。みんなが触りますよね。
特に意味のない書類に、ペンを添えて回覧&書き込みをさせている中央の邪悪な人が、監督の髙橋です。
みんなで使いまわした黒いペン。見事に光りました。

この実験を企画した髙橋の仕掛けるトリックもあり、見事に全員の手や顔などに広がっていきました。日常の中で(手を介して)病原体を広げてしまっていることがある、という状況が目に見える形に。

毛利に使われ、禍々しく光るマウス。
Enterよりも、Backspaceと←を押しているらしい西岡。
僕が雨宮の顔を撫でまわしたわけではありません。

もちろん、感染症にもいろいろな種類があります。こんな程度では感染しない(空気に触れただけで死んでしまうような)病原体もたくさんありますし、もっと感染しやすいものもあります。ですが、感染症の予防に手洗いが大事だ、といわれる理由が、大変身にしみました。

4.手を洗いたくなった人―?(はーい)

とはいえ、潔癖に手を洗いすぎるのも、実はよくないそうです。

そもそも、僕たちの身体には、たくさんの菌が住み着いていて、常在菌と呼ばれています。皮膚の表面にも、お腹の中にも、ものすごい数の常在菌が居ます。常在菌を減らしすぎると、できた空き地に病原菌が入ってきやすくなってしまいます。先に何かが住んでいる方が、後から病原菌が住み着きにくいのです。

常在菌たちとの共生も、大事なんですね。

肌が荒れてガサガサしてくると、そこに汚れや病原体がつきやすくなったり、洗い落としにくくなったりもします。

とにかくしょっちゅう手を洗うというよりも、大事なポイントでしっかり手を洗うようにするのが良さそうですね。特に、「家に帰ったとき」「職場や学校に着いたとき」「食べたり料理したりするとき」「トイレのあと」は、しっかり手を洗うようにしたいと思います。

おやつを食べた後。口の周りやら、襟やら、大変なことに。

5.なるべく予防して、なるべく耐性菌の出現を防ごう

もちろん、どんなに頑張って予防したって、すべての感染症を100%防ぐことはできません。僕も、去年インフルエンザにかかって苦しみました(ワクチンも打ったのに!)。

そうはいっても、感染しやすいよりは、感染しにくい方が良いに決まっています。完璧は無理でも、感染する可能性を下げられるならば、さらにそれが抗菌薬の寿命を延ばすことにつながるのであれば、毎日できるところから予防に気を付けてみるのも、意味があるのではないでしょうか。

そうすると。

次に気になるのは、「手洗いって、本当に意味があるの?」「どのくらいしっかり洗えばいいの?」ってことではないかと思います。病原菌が洗い落とせないのなら、どんなに洗ったって意味がありませんしね。

その話は、引き続き科学コミュニケーターの宗像から紹介があります。少しだけお待ちください。

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