情熱プレゼン! 脳科学の最前線・その3 ~誰も見たことがない世界を見てみたい!~

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情熱プレゼン! 脳科学の最前線開催報告


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Sergey Nivens©123RF


情熱プレゼン! 脳科学の最前線
その1 ~瞬きから探る「脳・心・社会」~
その2 ~思い通りに動くということ~
その3 ~誰も見たことがない世界を見てみたい!~(この記事) 


最後に登壇されたのは今井猛先生(九州大学大学院医学研究院 疾患情報研究分野 教授)です!

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情熱プレゼン


今井先生のお話は、ご自身が幼いころに好きだったことから始まりました。
先生が夢中になったもの。それは、顕微鏡です!!

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今井先生は少年時代、「誰も見たことがないミクロの世界を見たい!」と家の周りでいろいろなものを拾ってきては顕微鏡で小さな世界をのぞくことにハマっていた時期がありました。

先生の「誰も見たことがものを見たい!」という熱意は大人になり神経科学の研究者になってからも続きました。(...すごいですよね!幼いころに好きだったこととその熱い情熱が将来の自分の研究に繋がっているなんて...)しかし、先生はここで大きな壁にぶつかります。「分厚く、中身が複雑な脳の世界を見るためにはどうしたらよいのだろう......?」
研究者が脳の深部を観察するとき、多くは脳切片といって、ホルマリン漬けした脳を輪切りにして部分的に観察します。でも先生は、マウスの脳をまるごと、切ったりしない状態で観察したかった。
そこで先生がとった方法は、脳を透明にするという方法でした。以前から、有機溶媒などの刺激の強い薬品を使って透明にするという方法はありましたが、時間がかかる・手間がかかる・脳内の微細な構造が変わりマウスが生きていたときの状態と異なってしまう、などの問題がありました。そこで、先生は簡単に、かつ脳内の構造を変えない透明化の方法として、果糖(...なんと果物に含まれる糖分と同じ!!)を使い、マウスの脳全体を透明にすることに成功したのです。


20180714moriwaki_03.jpg画像提供:九州大学 今井猛先生

※ちなみにこの手法は、果糖が多く含まれるマーマレードジャムでは、オレンジが透明になっていることから発想を得たらしいです。日常には大きな発見につながるヒントが転がっているのですね...
観察したい神経細胞を蛍光タンパクで色付けした後に、脳を透明化し、顕微鏡でのぞくと、このような世界が見えてきました。

20180714moriwaki_04.jpg画像提供:九州大学 今井猛先生

脳の中の1つ1つの神経細胞のより細かい構造や、神経細胞同士のつなぎ目であり情報伝達が行われているシナプスが神経細胞のどこにあるのかが見えてきました。1つの神経細胞にシナプスはたくさんありますが、これまでその数は誕生から幼児期に急激に増え、その後は減っていくと言われていました。しかし、透明化した脳を観察したところ、実は人間で言う思春期ごろにもシナプスの数が急激に増える、といった新たな発見もされました。これは先生にとっても驚きの発見だったようです。
先生の研究の動機、情熱は幼き日より続く「誰も見たことがない世界を見てみたい!」という想いにあります。その情熱を原動力に先生がどのような成果をあげるのか、今後も、ぜひ注目していきたいですね!!

質疑応答


私も、先生の研究内容を初めて知った時には門外漢ゆえに
「え?脳を透明にするの?」
「え?果糖?脳をジャム状にするってこと?」
「え?え?シナプスって樹状突起の端っこにあると思ってた...」
など、いちいち衝撃を受けていたのですが、当日会場に来ていた参加者も同じような感想や疑問をもったようです。先生のプレゼン終了後、質疑応答の時間を設けました。
今回はその中のいくつかを抜粋してご紹介します。


Q1.参加者_果糖で脳を透明化するという話はびっくりしました。マーマレードジャムから発想を得たという話をされていましたが、どれくらい成功するという勝算があって果糖に挑戦したのですか?

A1.今井先生_マーマレードでは、もともとは不透明だったオレンジが透明な状態になっている。だったら、糖を使えば不透明な脳を透明にすることもできるだろう~と思って取り組んでいました。でもジャムは煮るが、脳は煮ないからその点でうまくいかないかもしれないという点で不安はありました。挑戦し始めてから、果糖を使った透明化の手法にたどり着くまでは、すぐだったのですが、いろんな種類の糖で試してみましたよ。ショ糖(いわゆる砂糖)だと脳が縮んでしまうなど失敗もしました...。


Q2.参加者_先生はマウスの脳を透明にしていましたが、できれば人間の脳も丸ごと見られたらいいな~と思って聞いていました。

A2.今井先生_やはり人の脳を丸ごとというのは難しいのですが、同じ霊長類でサルの仲間のマーモセット(人の手に乗るくらいの小さなサル)くらいならやっている人はいます。もちろん人の脳を使って研究している人もいるのですが、丸ごとは無理なので、ある程度薄く切ったうえで透明にする、というのが現状だと思います。


Q3.参加者_人間とマウスの脳ってどれくらい違って、今出ている研究結果はどれくらい私たち人間の脳と関係のあるデータになるのでしょうか?

A3.今井先生_マウスの脳は人間の脳より小さいですし、神経細胞の数も人間の1000億個と比べ7000万個と少ないです。ですが、基本的な脳の構造は共通しているので、哺乳類に共通しているようなことを研究しようとしているときにはマウスは使えます。また、遺伝子組み換えや、脳の病気を実際に発症させて研究するときにはマウスでないと研究できないので、今やっているような研究目的ではマウスは有効だと思います。


Q4.参加者_これまでの定説とは異なり、思春期にシナプスが増えるという話は驚きました。でも、なんで思春期にシナプスが増えるのか知りたいです。

A4.今井先生_なぜ思春期にシナプスが増えるのかについては分かっていません。ですが、思春期は大きな変化があると言われていて、特にさまざまな精神疾患が思春期には起こりやすいと言われています。その代表例が統合失調症です。ですので、私たちは統合失調症を発症しているマウスを使って、思春期のシナプス数の制御に何か問題が生じているのではないかというところに注目して研究しています。


最後に、私が最近未来館でよくお受けする質問を今井先生にも投げかけてみました。

Q.森脇_未来館で将来の進路について迷っている子どもたちとお話することがあります。元々理科が好きで理系に進もうと思っていたけれど、最近、理科や数学テストで点が取れないから理系に行こうか迷っている子どもがとても多いです。これまで研究の道を進んでこられた今井先生ならどのようなメッセージを子どもたちに送りますか?

A.今井先生_テストと研究はちがいます。テストはテスト範囲の全体を覚えなければなりません。だからテストが苦手だという人はいると思います。ですが、研究は違います。自分がつきつめたい1点でだけ1番になればいいのです。しかも、研究人生においては分からないことがあればカンニングしてもいいのです。インターネットで検索してもいいし、人に聞いてもいい。解けるまでに何日でも、場合によっては何年でもかけて良いのです。そもそもテストに出る問題のように、既に知っていることの中から回答を出す能力と、誰も知らないことを研究する能力って全くちがうんですよね...。試験でいい点をとる能力よりも、とにかくその分野が、好きかどうか、熱中できるかどうかのほうが大事なので大丈夫ですよ!あとは、困ったときにいろんな人聞く勇気があるかとか、思い立ったことをすぐに実行に移せるかなども結構重要ですね。


いかがでしたでしょうか。ここまで3回シリーズでお届けしてきた「情熱プレゼン! 脳科学の最前線」の当日の様子ですが、みなさんに研究者の情熱や脳科学をつきつめていく時のわくわくや、研究者が日頃なにを考えて研究しているのかが伝わったでしょうか?
いや、そんなの、直接先生のプレゼン聞かないと伝わらないよ~
と思われたあなたに、耳寄り情報です。
来る2018年7月29日(日)に、今回ご登壇された先生が、再度みなさんに向けてプレゼンテーションを行うイベントが神戸で開催されます!お近くの方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。


【謝辞】
最後となりましたが、本記事を執筆するにあたり、九州大学大学院医学研究院 疾患情報研究分野の今井猛先生には、大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。


※第41回日本神経科学大会 市民公開講座「脳科学の達人」は2018年7月29日(日)に神戸コンベンションセンターにて開催されます。

http://www.neuroscience2018.jnss.org/open_lecture.html
昨年度第40回の様子は下記リンク先よりご覧いただけます。
http://www.neuroscience2017.jnss.org/open_lecture.html


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