靴下の匂いを14万人が嗅ぎました

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こんにちは、志水です。

今日は靴下を嗅いでみましょう。


①お手元に洗濯前の靴下を用意します。

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②鼻の前に近づけ、くんくんと嗅ぎます。

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③匂いの印象と自分の気持ちを書き留めましょう。

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どんな気持ちになったでしょう?


嫌な感じがする?それとも、もう1回嗅ぎたくなる?


靴下の匂いには、私たちの心を揺さぶる何かがあるのでしょうか。


その答えは、昨年12月から今年5月まで未来館で開催されていた常設展「メディアラボ『匂わずにいられない!~奥深き嗅覚の世界』」にありました。

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東京大学で匂いやフェロモンの研究をなさっている東原和成(とうはら・かずしげ)先生のグループにご協力をいただいたこの常設展の中で、14万人の来場者に特に人気だったのが、靴下に含まれる匂い物質「イソ吉草酸(きっそうさん)」を嗅ぐことができるコーナーでした。(罰ゲームじゃないんですよ...)


この記事では、靴下の匂いを通して、匂いが私たちの心に与える影響や、人によって匂いの感じ方が異なる理由をご紹介しましょう。(書き留めたメモは最後にもう1回使うので、捨てないでくださいね!)


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■匂いは感情を揺さぶる!

■加齢臭は、あの野菜の匂い?

■あなたが好きな匂い、私は苦手

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■匂いは感情を揺さぶる!

あなたは、靴下の匂いを嗅いだとき「どの程度」嫌い(または好き)でしたでしょうか?

「めっちゃキライ!」とか「なんとなく、すき...。」と表現に困るかもしれません。

東原先生のグループは、唾液に含まれる「α-アミラーゼ」という物質に着目しました。

ヒトがストレスを感じると、唾液中のα-アミラーゼの量が増えることが知られています(※1)。そこで、α-アミラーゼの量を測定することで、匂いを嗅いだときの好き・嫌いの度合いを評価することにしました。

下のグラフを見てわかるように、靴下の匂い物質「イソ吉草酸」を嗅ぐとストレスが増すことがわかります。

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図:匂い瓶を嗅ぐ前後でのα-アミラーゼ量の変化。グレーが無臭、黄色がイソ吉草酸。35名の参加者の中央値を示す(論文投稿中)。


イソ吉草酸などの匂い物質は、まず鼻の内側に並ぶセンサー「嗅神経細胞(きゅうしんけいさいぼう)」によって捉えられます。この神経細胞から脳の「嗅球(きゅうきゅう)」という領域に電気信号が送られ、その後、感情を司る「扁桃体(へんとうたい)」という領域に情報が伝えられます(詳しくは田代の記事をご覧ください)。

だからこそ、匂いは私たちの感情に影響を与えるわけですね~。


ただし、東原先生によると、匂いの印象は記憶や先入観にも大きく左右されるとのこと。

例えば、「イソ吉草酸」はチーズや納豆にも含まれることから、チーズの匂いと思って嗅ぐと、チーズが好きな人であれば不快度が下がるとのこと(※2)。

皆さんも靴下を「チーズの匂い」と思って嗅いでみたらいかがでしょう?(はい、目をつむって...、チーズをイメージ...)


東原先生は他にもこんなお話を披露してくださいました。



■加齢臭は、あの野菜の匂い?

5月に、東原和成先生をお招きしたトークセッション「人の匂いって、なくなってしまってもいいですか?」を未来館で行いました。

(YouTubeでイベントの様子をご覧いただけます(こちら))

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写真:体臭について解説する東原先生(右)


東原先生にお持ちいただいたのは「2-ノネナール」という匂い物質。紙につけて鼻先に近づけるとキュウリのような匂いがします。

実は、この2-ノネナールという物質は、一般的に「加齢臭」と呼ばれる体臭の匂い物質なのです!

加齢臭と言われてみると、鼻をつくような不快な匂いに感じられるのですが、不思議なことに、これが加齢臭の原因物質と言われる前はそんなに不快ではないのです。


東原先生も「2-ノネナールを嗅いでもらうと、ほとんどの人が好きでも嫌いでもないと答える。匂いに関して根拠なく印象を持っていることも多いのではないか」と話します。


匂いの好き・嫌いというのは、単純な反応というわけではなく、記憶や経験、先入観が大きな影響を与えるのです(その他にも、遺伝的な要因や体調、食生活なども影響を与えることが知られています)。

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写真:このトークセッションでは、アンドロイド(ロボット)研究者の小川浩平氏をお招きし、「アンドロイドに体臭は必要か?」というような議論も行われました。



■あなたが好きな匂い、私は苦手

このように、それぞれの人がもつ記憶や経験によって匂いの印象は大きく異なります。では、個人差はいったいどのくらいあるのでしょうか?


メディアラボ「匂わずにいられない!」では、匂いのアンケート調査を行いました。 3~4種類の匂いを嗅ぎ、好き・嫌いやなじみ、連想する色や言葉をタッチパッドで入力します。

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写真:匂いの印象をあらわす言葉をタブレット端末に入力すると、「○○の匂いのようだ!」といった漫画のセリフとなってスクリーンに現れます。


アンケート調査では、食べ物や香水、体臭に含まれる匂いを嗅ぎ比べてもらいました。 同じ匂い物質でも、人によって好き嫌いが大きく異なることもこの調査から分かりつつあります。


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図:ある香りAについて、好みの度合い別に人数をカウントしたグラフ。上にあるほど、「とても好き」と答えた人を示し、バイオリンのような図形の横幅が人数を示す(トークセッションでの東原先生の図を元に、未来館で作成)。


例えば、好き嫌いの両極端に分かれるような匂いが使われる日用品は、ある人にとっては快適でも別の人にとっては気分を害することもあるかもしれません(※3)。

東原先生は「エビデンス(客観的な証拠)に基づく匂いの活用を目指したい」と話します。まず匂いの個人差を把握することで、匂いについてどのような角度から研究を進めるか、新たな研究方針が見えてきます。


このアンケート調査に参加いただいたのは、5か月間でのべ1万8000人!老若男女、国籍も異なる皆さんのデータは、今後の匂い研究に役立てられていきます。


最後にあらためて、靴下を嗅いでみましょう。 読者の皆さんはどのような匂いに感じるでしょうか?

嗅覚は、視覚や聴覚に比べ、ふだん意識することが少ない感覚です(靴下の匂いとなれば、さらに意識して嗅ぐ機会は少ないですよね)。 だからこそ、意識して嗅げば、新たな匂いの感じ方を見つけたり、「他の人はどう思うだろうか?」という考えに至ったりと、さまざまな発見があるようです。


皆さんは、靴下の匂い、お好きですか?



常設展メディアラボ第19期「匂わずにいられない!~奥深き嗅覚の世界~」

http://www.miraikan.jst.go.jp/sp/medialab/19.html

トークセッション「人の匂いって、なくなってしまってもいいですか?」

https://www.youtube.com/watch?v=MdNS1T9l8YE

メディアラボ第19期展示「匂わずにいられない!~奥深き嗅覚の世界~」東原和成先生インタビュー

https://www.youtube.com/watch?v=YfVp3UMBExg%20

【参考文献】 ※1: Nater UM & Rohleder N (2009) Salivary alpha-amylase as a non-invasive biomarker for the sympathetic nervous system: current state of research. Psychoneuroendocrinology 34(4):486-496.

※2: Herz RS & von Clef J (2001) The influence of verbal labeling on the perception of odors: evidence for olfactory illusions? Perception 30(3):381-391.

※3:国民生活センター「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供」(2013年) http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20130919_1.html

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