いとおか市を256倍楽しむ方法(2)

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展示で紹介されている先端科学トピックスだけが最先端にあらず。

未来館では造作表現からメカトロニクスまで、新しいチャレンジを盛り込みながら最先端の常設展示開発をしています。

展示開発に携わった科学コミュニケーターだけが知る常設展示の舞台裏。そこで目にするのは、日本が世界に誇る巧の技とおもてなしの心。

常設展示を256倍楽しむ方法を、このブログをお読みのみなさまだけに特別にたっぷりじっくりちゃっかりご紹介しちゃいます。

前回にひきつづき、8月21日にオープンしたばかりの常設展示「2050年くらしのかたち」の楽しみ方をご紹介します。

心得1つあたり常設展示を2倍(当館比)となっており、8つ全ての心得をそろえていただければ2の8乗で256お楽しみいただけます(注:効果には個人差がございます)。

fig01

今回ご紹介するのは、いとおか市の都市模型の周りを高速走行する「リニア高速鉄道」です。季節の変わり目でボーっとしてしまうあなた! ぜひ鉄分補給を!

心得4 目で見てはいけない!

レールから5mmほど浮上したまま、安定して走行するリニア高速鉄道模型。目線をレールの高さにして眺めれば、車体とレールの間に何もないことが分かります。

単に浮いているだけなら手品なのですが、未来館のリニア高速鉄道には先端物質科学の粋を凝らした、タネと仕掛けが詰まっています。

乗車指向の「乗り鉄」、撮影指向の「撮り鉄」、に続いて、鉄道の物質科学を指向する「ブツ鉄」が来る!と思うのですが、いかがでしょうか? だめですかそうですか。

さて、まずは車体に隠されたブツ鉄ポイント。

車体には1両あたり1個、超伝導バルクというセラミックスの塊が搭載されています。この塊が未来館リニア高速鉄道の性能のすべてを決定づけている超重要物質。鉄道でいうと超伝導バルクは車輪に相当します。

上部にあるフタを開けてメンテ中の車体内部のようすを写した写真を、このたび独占入手しましたので、特別にご覧頂きましょう。

fig02

バルクは容器底面に金具で固定されている

ご大層なことを言って、ただの石ころが安置されているだけでは、と思いました?

いやいや。能ある鷹は爪を隠のです。

超伝導バルクは「ピンニング」と呼ばれる特殊能力を持っています。これは、磁石のまわりにある「磁界」を記憶することができるという、他の材料ではまったく実現不可能な性質です。

超伝導は未来館の実演をはじめ多くの科学館で同様のデモンストレーションが行われているので、実物をご存知の方も多いと思います。

しかし、今回は単発の実演ではなく最低5年間はほぼ毎日運用する常設展示。材料に求められる品質はケタ違いです。

まずは、バルクの自重+車体重量を支えられる強力なピンニング力

これは必須です。未来館が採用した超伝導バルクの性能は、自重150gに対して荷重250gでも浮上状態を保てるハイグレード仕様。バルクの品質が良し悪しは、この限界荷重値に如実に現れます。

そして、下記に挙げる材料的な信頼性も要求されます。

車体の激しい揺れでも割れたり欠けたりしない材料強度

毎日100回近く繰り返される加熱・冷却に耐える耐熱応力性能

湿気で「ピンニング」の性質が劣化しない耐水性

どれも、セラミックスである超伝導バルクには過酷な条件です。

未来館は超伝導バルクの表面を樹脂でコーティングする材料技術に注目しました。樹脂でバルクの表面を保護すれば、バルクの弱点である強度と湿気の両方の問題が一挙に解決できます。これはまさに革命的。

未来館のリニア高速鉄道には、この樹脂含浸技術を保有する鉄道総合技術研究所の協力によって作製された超伝導バルクを使用しています。

一部の方には0系新幹線が誕生した「聖地」とも称されている研究所(当館調べ)の技術が、2050年の未来の鉄道模型とつながっているかと思うと、なんだか不思議な縁を感じますね。

さて、もうひとつのブツ鉄ポイントはレールです。

リニア高速鉄道のレールは強力な永久磁石でできています。1cm角の磁石を、ひとつひとつ職人さんがていねいに接着して作った特注品です。

レールにはネオジム磁石とよばれる強力磁石が使用されている

全長20mの磁石製レール全周にわたって、2こぶの山をもった磁界が発生しています。磁界は人の目には見えず、感じることもできませんが、可視化はできます。磁石の周りに砂鉄をまくと見えるアレです。

磁気センサーによって磁界を可視化すると、磁石の並びと平行に磁界の山の尾根が走っていることがわかります。まさに磁界のレールですね。

磁界はN極・S極・N極で山・谷・山になっている。数字はmmを表す

このように、リニア高速鉄道は、車体に搭載された超伝導バルクの「車輪」「ピンニング」で記憶した「磁界のレール」の上を外れることなく走行することで、安定した浮上状態を実現しています(注:実際のリニアモーターカーの仕組みとは全く異なります)。

デフォルメされたかわいいプラスチックボディに、とんでもない先端科学を秘めた「大人のプラレール」(非売品)といったところでしょうか。

展示の限界を超えた挑戦を続ける未来館の展示開発。目に見えない部分まで、今後も目が離せませんよ。

心得5 バック・ヤード・フューチャー

颯爽と浮上走行するリニア高速鉄道のバックヤード。

それは、優雅な表情の白鳥が必死で足を漕ぐ水面下のごとし。展示をご覧いただく皆さまの満足最大化のために、泥臭くもエッジな技術がリニア高速鉄道を影から支えています。

特筆すべきは、液体窒素自動生成・自動供給システム

食品工場の生産ラインさながらのメカトロニクスが並ぶ

ここでは、リニア高速鉄道に液体窒素を補給しています。

なぜか。

何を隠そう、先に紹介した「超伝導バルク」は液体窒素温度(マイナス196℃)まで冷却しないと「ピンニング」能力が発現しないのです。

液体窒素は走行中どんどん蒸発してしまいます。液体窒素がなくなると超伝導バルクが温まって「ピンニング」が消えてしまうので、そうならないように定期的に液体窒素を補充しています。

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大気中の窒素ガスを冷却して液体窒素を自前で生成している

なぜ、わざわざ自動システムで液体窒素を注入しなければならないのか?

大きな容器を車体に搭載すれば、朝に1回充填するだけで1日運用できるのではないか?

いい質問です!

たしかに、大きな容器に大量の液体窒素を汲めば、多少蒸発してしまっても1日は十分にもつでしょう。

しかし、それでは重すぎて超伝導バルク1個のピンニングでは支えきれなくなります。

液体窒素の蒸発を抑える保存容器としては、魔法瓶が一般的です。

大型の容器も作れますが、展示に必要な強度を確保するとなると、ステンレスで作らざるを得なくなり、重さはあっという間に500gを越えてしまいます。さらに液体窒素そのものの重さも加わります。

fig06

リニア高速鉄道の車両1両に許される重さは250g!

浮上が保持できる限界の重さは、バルク体1個あたりおよそ250gまで。1個の超伝導バルクのピンニングでは、500gもの荷重をとうてい支えきれません。

500gの荷重があっても浮上を保つためには2つのバルクが必要ですが、2つ格納するための容器はさらに大きく重くなります。

すると、さらにバルク体が必要になりますが、今度は3個のバルクが収まるさらに大きく重い容器が必要になり・・・と容器が際限なく大きくなってしまいます。

これは困ったことです

実際、展示企画の初期に、このように大きな容器の方法は頓挫することに気づきました。

そこで未来館は、重大な決断をします。それは、液体窒素を1日涸れないように保持することをあきらめることでした。

液体窒素がすぐに蒸発してしまうのなら、自動的に足せばいい

それはまさに、「コロンブスの卵」な発想の転換でした。

fig08

京都工場での厳しい走行テスト。液体窒素は手動で汲む(株式会社木下製作所)

その後、京都の工場での幾度にも及ぶテストランを踏まえて、ようやく未来館の展示場にインストールされました。

小型の容器を搭載した小型のリニア高速鉄道が颯爽と走り抜けるのを横目に、バックヤードに思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

心得(番外編) 帰ってきた○○

「2050年くらしのかたち」の展示ができる前、同じ場所には「みらいCANマグレブ」というリニアモーターカーの展示がありました。大変な人気展示だったのですが、老朽化のため2009年2月に撤去されました。今回の新しい「リニア高速鉄道」は、そのリバイバルとも言えるのです。

fig09

満身創痍のラストランのようす。背景のGeo-Cosmosも先代

さぁ、今日はここまで!

展示手法のフロンティアを求めて常に新陳代謝する未来館の常設展示。10年後に「あのとき見たあの展示は無くなったのか」とあなたに思い出させたなら、私たちの展示開発の勝ちです。

百聞は一見に如かずとは言いますが、

目で見ているものが全てにはあらず。

超伝導バルクとレールの間の目に見えない磁界のことや、一人もくもくとバックヤードで液体窒素を補充する自動供給システムのことを気にかけてこそ、展示は味わい深くあなたを楽しませるものなのです。

(次回予告)

空想世界と現実が幾重にも折り重なった「2050年くらしのかたち」。その間をとりもつデジタル技術の豊穣な世界をご紹介します。赤外線で見たセンサーの様子からいとおか市民キャラクターの制作秘話まで一挙大公開!お読み逃しなく!

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