土の中の芳醇な世界

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日本にもトリュフが生えていることをご存知でしょうか。トリュフといえば世界三大珍味のひとつ。フランス料理には欠かせない食材です。新種のトリュフを探しに東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授の奈良一秀先生は、今日もどこかの森を歩いているかもしれません。武器は熊手とDNA鑑定。土の中で成長するトリュフを、熊手を使って根気良く探し出し、DNA鑑定で種類を特定します。これまでに20種類のトリュフを日本で発見しました。しかもそのうち2種類はトリュフの中でも最も古い種類だそうです。日本にトリュフのご先祖様がいたとはちょっと驚きです。

日本産のクロトリュフ類似種(提供:奈良一秀)

5億年も続く、土の中の約束

トリュフはマツタケなどのキノコと同じ、樹木に共生する菌根菌です。樹木が光合成で得た有機物を受け取り、代わりにリンや窒素などの土壌の栄養成分を樹木に供給する、この物々交換は植物が海から陸上に上がった5億年も前からの彼らの約束。樹木が光合成で作り出した有機物の実に2割が土の中にいる菌根菌に渡されるのです。「同じ樹木に70~80種の菌が共生しているのは普通。むしろ菌との共生がないと植物は育たないんです」と奈良先生。アカマツの苗にアミタケという菌根菌をつけたものと、何もつけないものを比較した実験では、6ヶ月で8倍も成長に差が現れました。樹木が育つ秘密は土の中にあったのです。

「土の中は見えないから、足元2cm下のことが全然わかっていないんです」。20年ほど前、地面の下にトリュフやキノコが繰り広げる多様な世界があることを知り、カルチャーショックを受けたという奈良先生。当時日本ではほとんど知られていなかった菌根菌の世界を、放射線同位体やDNA解析で明らかにしてきました。

菌に市民権を与えたい!

そんな奈良先生の夢は、菌に市民権を与えること。絶滅の恐れのある野生の動植物をリストアップした「レッドリスト」に、菌類は一種類しか載っていません。しかし実際には絶滅に瀕している菌類は非常に多く、何の対策もとられていないのが現状です。「これは決して菌類が大事でないからではなく、知られていないからなんです」と、先生は現状への危機感を口にします。例えば日本の森林での絶滅が危惧されているトガサワラという植物は、ある特定の菌根菌と強い共生関係で結ばれています。トガサワラの種子だけを保存しても、この菌がいなければトガサワラは成長できず、絶滅を防ぐことはできないでしょう。森林の土の中に潜んでいる多種多様な菌類は小さな体で巨大な森林を支えています。見えない土の中をのぞくことで、先生は森林の生態系全体を守ろうとしているのです。

今年2011年は世界森林年。森林と聞くと「木」が集まってできていると思いがちですが、菌根菌も含め森林の生物多様性は、地下2cmから10cmの土の中に圧倒的に多いそうです。「森林の本体は土の中にあるんです」と奈良先生。将来、先生の研究が世の中の森林観を変えたとき、「木を見て森を見ず」ということわざも、いつか「森を見て土を見ず」になっているかもしれません。

10月16日(日)、未来館では奈良先生を講師に招いた国際森林年関連シンポジウム「木を見ず"森"を見る~コミュニケーションと共生の視点から~」を開催します。トリュフの取り方の手ほどきもあるかもしれませんよ。是非、みらいCANホールにお越しください。



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