SFを科学する ~マトリックス編①~ 世界が全て虚構だとしたら?

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今あなたのいる世界は本当に現実の世界ですか?

SFから科学を探るブログシリーズ、今回は映画「マトリックス」からこの問いを考えてみたいと思います。

この映画では、人間は機械に支配されており、マトリックスと呼ばれる培養槽の中で一生を終えます。人間は脳が生み出すエネルギーを機械に提供する発電所でしかないのです。とはいえ、人間にその自覚はありません。今の私たちと同じように、職場で上司に怒られたり、パートナーに励まされたり、といった“日常生活を送っています。

しかし、この日常生活は機械が用意した虚構の世界。それを人間は現実だと思い込んでいます。現実の自分は培養槽のなかにいることや、虚構の世界に生かされていることに気がつかないのです。

映画を見た人の中には、こんなことあり得ないと思った人もいるでしょう。でも、本当にあり得ないのでしょうか?

例えばあまりにもリアルな夢を見て、それが夢であると気づいてもなにか現実で起こったような気になった経験がありませんか?

夢で見た光景はもちろん現実には経験していないもの。でも脳が睡眠中に“見た”という活動状態になれば“見えた”という感覚になるのです。普通、夢は起きた時に現実とのギャップに気づきます。しかしもし現実と区別がつかない完璧な夢ならば、それは夢であると気づけない可能性があるのです。

また、覚醒時でも私たちは五感を通して外の世界を知ります。五感で得た情報は全て脳で処理され、初めて知覚できます。音が鳴っていたとして、耳は正常でも音の情報を処理する脳機能が損なわれていれば、それは聞こえません。

逆に音は鳴っていないのに、脳に音が鳴ったという電気信号が流れれば、確かに音が鳴ったと知覚されてしまいます。幻聴はこのようにして起きると考えられていますし、脳の聴覚野と呼ばれる領域に電極を刺して刺激すれば、鳴っていない音を意図的に聞かせることだってできます。

(未来館5F脳コーナーにある解説用パウチ 電極で特定の場所を刺激すれば、ないはずの音や味、光を感じることができる)

つまり私たちは脳を通してしか外の世界を知ることができないのです。だから、マトリックスの世界のように、機械が完璧な現実を思わせる電気信号を私たちの脳に送っていれば、それはまぎれもない現実としてしか知覚されません。

この世界が虚構でないという明確な証拠を挙げることは、残念ながらできそうにないのです。

今このブログを読んでいるあなたも、実は読んでいるという電気信号を機械が送り込んでいるだけかもしれませんよ。

人間の脳が発電できるエネルギーより発電のために必要なエネルギーの方が多くなるので、現実の世界がこの映画のとおりとは言えないでしょう。でも外の世界の真実がどうであれ、私たちは脳が感じとった世界の解釈から逃れられないという事実を考えるきっかけになったのではないでしょうか?

次回はもしこの世界が虚構でなかったとしても、私たちは本当にありのままの世界を感じているのか考えていきます。

これまでのSFブログ

スター・ウォーズ編①

スター・ウォーズ編② 地球外生命体は存在する?

スター・ウォーズ編③ 宇宙空間から生還したすごいやつ

スター・ウォーズ編④ スターウォーズ的に見る地球の未来

スター・ウォーズ編⑤ 宇宙を走るふしぎなヨット

スター・ウォーズ編⑥ 昔の映画が3Dで蘇るワケ

A.I.編①ここまできた!人工知能

A.I.編② 愛され始めたロボットたち

攻殻機動隊編 あなたもなれる!?透明人間

コンタクト編 電波で探れ!宇宙の謎

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この記事への9件のフィードバック

培養漕→培養槽ですよね。漕いじゃったらどっかに行っちゃいます。

ちなみに、「この世界が虚構でないという明確な証拠を挙げること」は悪魔の証明ではありませんか?「世界が虚構でないことが虚構でない」ことを証明しなければいけませんよね。

直後に脳が認識した物が現実であるとおっしゃっているわけですし、「残念ながらできそうにない」ではなくて「人間には不可能」と言い切らなくては。

以上、老婆心でした。

おはようございます。

出勤前に開いてみました!

夢と現実の違いって私もよく考えるんですが、”連続性”が違うんだと思います。もし昨日の夢の続きが、今日の夢にちゃんと続いていて、夢の中は夢の中での法則みたいなものがあって、それが現実世界とは違うものであっても、夢の中では整合性の取れたものであったら、私たちに取って夢と現実はまったく同等なんではないでしょうか?夢の中の、全く違う人生をパラレルに持てたら素敵じゃないですか?

Crypto様

誤字に気づかずにブログをアップしてしまい、恥ずかしい限りです。訂正しておきました。ご指摘を頂き、本当にありがとうございました。

また非常に深い考察をありがとうございます。「この世界が虚構でないという明確な証拠を挙げること」はおっしゃるとおり悪魔の証明だと思います。

ただ、悪魔の証明とは私の理解では、たとえば「紫色のカラスはいない」ということを証明するには世界中のカラスを調べる必要があるように、『証明が非常に困難な』命題のことだと思っています。

ですので、ここでは敢えて「不可能」と断言せずに、「残念ながらできそうにない」という表記にとどめておいたつもりです。ただし事実上証明は無理なので、おっしゃるとおり「人間には不可能」とずぱっと言い切って問題なかったなと思います。

なお、反例がないことの確認を無限にやらなければ今回の証明はできませんが、仮にもし「世界が虚構だ」という反例があれば、その反例自体も虚構でなくてはならなくなるのでパラドックスになってしまいますね。そう考えるとこれはなおさら難しい問題になるので、個人的にはこのままの表記にとどめておこうと思います。

ご納得頂けるお答えができたかはわかりませんが、次回もマトリックスシリーズで「現実とは何か」を考えていく予定ですので、ぜひご覧頂ければ幸いです。

高杉様

コメントありがとうございます。夢と現実の違い、考えていくと本当に面白いですよね。おっしゃるとおり、前日の夢の続きが次の夢に何の違和感もなく繋がっていくのであれば、私達はもう一つの人生を経験できることになるんですね。

しかもその人生が夢の世界というところが、まさに夢があって素敵すぎます!さらに言えば、今現実だと思っている世界が夢の世界で見ている夢だったら・・・とか考え出すと止まらなくなってしまいそうです。

ちなみに夢と現実の違いについては、渡辺謙が出演しているSF映画「インセプション」で見事に描かれていて、私は名作だと思っています。SFシリーズでブログを書いている身としては、いつかこの作品にも触れてみれたらなと考えています。ですので今後もSFブログ、見ていただければ嬉しいです。

SF小説でよく出てくる題材ですね。

色々と考えてしまいますが、私の好きな結論は神林長平氏の小説の結論です。

つまり「だからどうした」です。

私にとっての現実は、私が認識したものです。

それが夢か現実か何てことは、現実問題としていまでも区別をしていません。

問いの立て方として「現実とは何か」を考えた方が共通理解を得られやすいと思います。

悪魔の証明と言う言葉、証明困難性とはちと違います。本来は、ある事実が真であることの論拠に、(今で言うとこの)メタなレベルの事実を認めなければいけない、という無限メタ定義を必要とする証明のことです。

1000日あたりの説明はここがごっちゃになっているので、気をつけてくださいね。ムラサキカラスは見つけてしまえば、今のメタレベルで証明出来てしまうので、悪魔の証明ではないんです。

te氏の、雪風の方が近いものかもしれませんね。でも、だからどうしたですむ軍人(戦闘機械)と、すまない人間(実は雪風はこちら)との対比を神林氏は書いてるので、結論では無いとは思いますが。

マトリックスの仮想現実の他に、「火星の人類学者」「妻を帽子と間違えた男」(いずれもオリヴァー・サックス)を読むと、さらに楽しめますよ(笑)

粗探しのようで恐縮ですが、マトリックスの世界では脳が作るエネルギーではなく、人体の筋肉の熱エネルギー(ATPサイクルのことを暗示)に介入してエネルギーを取り出しています。ちなみにあのマトリックス以前には脳活動を(どうやってかはしりませんかわ(笑))とめたマトリックスが存在していたことを、アーキテクチャが示唆しています。エネルギーの話は日本語では省略されているので、是非英語で観て下さい。

長文失礼しました。

te様

コメントありがとうございます。今回の私のブログでは「現実」という言葉を「真実」に近いニュアンスで使っていました。マトリックスの中でも(少なくとも字幕レベルでは)両者混じって使われているようです。ですので現実という表記を真実と置換して上のブログを見ていただくとわかりやすいかと思います。

とはいうものの、確かにこの映画で登場人物のモーフィアスも、現実は「脳による電気信号の解釈に過ぎん。」と言っているので、teさんの現実=私が認識したものという定義、わかりやすくて素晴らしいと思います。ですから現実という言葉をはっきり定義したうえで、「現実とは何か」という問いにするとよりわかりやすかったかもしれません。ご指摘ありがとうございました。

クリプト様

読んでいただき、また、ご指摘いただきありがとうございます。英語版、見てみました。確かに人体の熱エネルギーも発電に利用しているようですね。翻訳の過程でだいぶ内容が違ってくる場合があること、耳にしたことはありましたが、まさにそれを実感して驚ろいています。

teさんが紹介してくれた神林長平さんの小説、私は読んだことがありませんが、面白そうですね。現実とは何かといった内容の場合は、映像作品より小説の方がイメージが広がったり、難しい部分はゆっくり読み返せていいかもしれません。

また、オリバー・サックス博士の講演画像がネット上にあったので見てみました。講演内容の面白さもさることながら、幻覚患者に対する博士の温かい視線が素晴らしく、とても印象に残りました。悪魔の証明の件だけでなくいろいろご教示いただき、ありがとうございました!

現実というのは自分が見ている世界なのだから、

この世界は現実だよ。

他にもいろいろな世界があるという人もいれば

この世界はPCで作られたCG世界という人もいる。

たくさんの世界があったとして、この世界がCGだったとしても

自分が今見ているものは現実だということに変わりはない。

自分が生きてすんでいる世界が現実なのだから

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