「さよならCABIN」 五面大型ディスプレイに集った異分野の研究者たち

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こんにちは。休みの日はイベントか美術館か海に行っています、長倉です。

さて、先日、行ったイベントで空を飛ぶ体験をしていました。仮想現実システムの中でですけれど。

広い真っ直ぐな道路とレンガ造りの大きな建物が立ち並ぶ、山に囲まれた町並みの中にいます。

手元のコントローラーを操作すると、縦横無尽に町を移動。空を飛んで鳥の目で町を見渡したり、道路に沿って家並みを見ながら進んだり。まるで本当に空を飛んでいるかのように足元がすくんだり、不規則に動きすぎると悪酔いをしたりすることも……。

正面、両側面、天井、床面の周囲五面をスクリーンで囲んだ、五面立体視ディスプレイ「CABIN」です。

メガネをかけると周囲の映像が立体に。そこにない仮想世界をあたかも現実のように体験するバーチャルリアリティ(VR)のための装置です。(この簡易版「みんなのCABIN」は、かつて未来館3Fの常設展示にもありました。覚えている方もいらっしゃるでしょうか?)

CABINはすでに役割を終え、設置されていた東京大学からこのたび撤去されることに。さよならCABINシンポジウムが開催されたので行ってきましたよ。

私はリアルタイムではCABINを体験していないのですが、工学や心理学などの異分野の研究者たちがCABINに魅了され、その周囲に集まり、そこから研究や知見、アイデアが次々と生まれた、当時の熱気をこのイベントで感じました。

異分野の人々が自然に集まって化学反応を起こす場――。

ミュージアムもそんなふうになったら面白そうではないですか?

 

「CABINは神輿」――みんながワクワクして集まる場だった

CABINとは、研究者にとってどのような存在だったのでしょうか?

「CABINは神輿(みこし)だった。そこで自分たちが作ったものを見せ合い自慢しあった」「人を魅了して人を集める場だった」――。

VRの装置である一方で、多くの研究者が集まり実験をして、影響を与え合う場でもありました。

会場には当時CABINを使っていた研究者らが集結。VRはもちろん、心理学、メディア・コンテンツ、インターフェイス、情報の研究者など。

当時若手だった先生方は「(CABINが設置されている)IML棟6階にいくといつも誰か人がいて、いつも誰かが寝ていた」とおっしゃいます。

徹夜をものともしないで研究に勤しむ若手が、いつも集っていました。

 

そこにない仮想空間を再現して自在に操れる五面大型スクリーン「CABIN」

さて、装置としてのCABINは一体どんなものでしょうか?

その前にVRについておさらい。

今では使い古されたVRという言葉が生まれたのは1989年ごろ。映像技術などを使ってそこにない仮想の世界をあたかも現実のように見せます。

その手段として、当初はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使っていました(先月会いに行ったアイバン・サザランド氏はHMDを最初に作ったと言われています)

HMDとはこんなやつ。

ゴーグル部分の映像とヘッドフォン部分の音響で視覚と聴覚をハックされ、仮想現実を体験できます。

その後、1992年に米イリノイ大学の研究グループが周囲をスクリーンで取り囲み、そのスクリーンにプロジェクターで映像を投影して仮想空間を作る「CAVE」を開発。このような「没入型ディスプレイ」と呼ばれる新しい手法が注目を浴びました。

CAVEなどの没入型ディスプレイはこんな感じ。メガネをかけるのは立体視のため。

これを進化させて日本に持ち込んだのが、CABINです。東京大学の廣瀬通孝教授らが開発して、1997年に東大に設置しました。

CAVEは四面を囲むものでしたが、CABINは床面も含めた五面構成(名前の文字数が面数に対応しているそう。ちなみに、その後岐阜県が開発した六面没入型ディスプレイの名前は「COSMOS」)。

下から見上げるとこんな感じ。CABINを設置するために、設計を変更して天井の高いフロアを確保したという東大IML棟の6階にありました。

この位置からは台の上の2面が見えます。一番上の青く光っている部分は、プロジェクターの光源を反射してCABINのスクリーンに投影するための鏡。プロジェクターと鏡を置くために高い台の上に備え付けられています。

プロジェクターはこんな大型のものを5台使用。CABINがある台の下にプロジェクタを設置して大きな鏡で反射させて、CABINのスクリーンに投影する仕組み。右側を歩く人のサイズと比べると、プロジェクターの巨大さがわかります。

このメガネを掛けてCABINの中で立体視をします。怪しい……。メガネのごつさが15年前を感じさせます。

左から廣瀬先生、私、CABIN開発初期からメンバーの慶応義塾大学教授の小木哲朗先生

 

異分野のひとびとが集まり、化学反応が起きる場とは?

CABINが多くの研究者を魅了したのはどうしてだったのでしょうか?

その場にある、触れられる、体験できる、というモノは強い、と話す廣瀬先生。

CABINはモノとして、体験を提供してきました。

「(CABINは)まるでミュージアムのようだった」――。

シンポジウムで研究者がおっしゃいました。研究者たちは自分が開発した技術を持ち寄ってデモを見せ合っていました。

人を惹きつけ、その場に人を集める機能を持つモノとは、何なのでしょうか?

お金をかけてつくった最先端の技術?

そこでしかできない体験ができるモノ?

そこにしかいない人?

未来館も多くの人々(研究者も一般の人も)を惹きつけて集め、新しいアイデアを生み出す場にできれば面白いなあと、CABINに集う人たちを見ていて思いました。

〔ちなみに、未来館には研究施設があり、現在入居する研究者を募集していますよ(1/31まで))〕

 

おまけの写真館

朝早くから満席の会場はすごい熱気。まるで同窓会のようなあたたかい雰囲気でした。(写真提供:日本バーチャルリアリティ学会)

CABINの前でVR関係者みんなで記念写真。(なぜか私も写っています……。写真提供:日本バーチャルリアリティ学会)

CABIN正面で廣瀬先生(中)と東大教授でCGアーティストの河口洋一郎先生(左)と私。

この階段を登ったところに、CABINが設置されています。

最後に、廣瀬先生とその愛弟子で東大助教の鳴海拓志先生の手によって看板が外され、CABIN15年の歴史に幕が下りました。

 

*イベント情報*

さよならCABINシンポジウム

日時:2012年12月18日(火) 9:00〜13:00過ぎ

会場:東京大学農学部キャンパス向ヶ岡ファカルティハウス2階セミナー室及びIML棟6階

シンポジウムのUSTREAMアーカイブスはこちら

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この記事への2件のフィードバック

Cabin未来館で見たことありますよ!なるほどこんな研究者たちの思いが詰まっていたんですね。素晴らしい取材ブログありがとうございました

>吉田さま

コメントありがとうございます。またCABINを未来館で御覧頂いたとのこと、ありがとうございます!

私は新聞社科学技術部で記者をしていたのですが、取材で研究者たちの話を聞くと、同じ研究内容でもそこから見える世界が大きく広がりました。

研究者たちの思いや考えを、直接みなさまに伝えていければと考えています。よろしくお願いします!

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