カツオ節と発酵 健康美味な和食の秘密を探る

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 カビよ、ありがとう!

 「猫まんま」がうまい!!

 

日本が誇る技術を紹介する「THE世界一展」を開催中の未来館に、私は「世界一硬い」と言われる食品を持ち込み、昼食時に楽しんでいます。

 20140124_tani1.jpg回転式の削り器と、削りたてのカツオ節

 

シャシャシャッと削って醤油と一緒にご飯の上に。削り立てのあの風味。30代独身はレンジで温めたコンビニ弁当でも、カツオ節があれば贅沢な気分になれるのです。

カツオ節は、日本が誇る和食を代表する出汁(だし)の素材でもあります。世界遺産への登録が決まった和食。味はもちろん、美しさや健康的なことも評価されています。素材の味と色を生かし、塩分、油分、糖分を抑えることができるのは、出汁の文化の賜物です。

 

というわけで、今回はカツオ節のお話。地方紙記者時代から好きだった西伊豆のカツオ節工場にも、久々に足を運んできました。科学っぽい記事になるよう、カビによる発酵にフォーカスしていきます。

20140124_tani2.jpg「猫まんま」がうまい!

【発酵で硬く、上品な味に】

カツオ節の製造工程は大まかに言うと、①切る②煮る③燻す④発酵させる──の4段階です(*1)。生のカツオに含まれるうま味成分のイノシン酸が、カツオ自身の酵素や他の微生物によって分解されるのを防ぎ、長期保存できる形にするのです(*2)。発酵は仕上げの工程。カビを生やしては天日干ししてはらい落とし、またカビを生やして......を数ヶ月かけて繰り返します。

発酵で保存性がより高まり、風味も上品になります。カツオの水分が吸われて均一に乾燥するとともに、表面が抗酸化物質で覆われます。カビが分泌する酵素でタンパク質はアミノ酸に変わり、脂質の分解も劣化防止と風味アップにつながります(*3)。燻した時に付いた煙の物質も、カツオ節特有の香りに変わります。


西伊豆町の田子地区に伝わるカツオ節「田子節」は、発酵を6~7回繰り返します。「③燻し」を強火で行ってうま味の閉じ込め、乾燥は水分を吸って成長するカビの力に頼っているのです。「せっかくだから現場を」と思い、カネサ鰹節商店の工場を5代目の芹沢安久さんに案内してもらいました。温度と湿度が管理された室(むろ)に木樽が並んでいます。蓋を開けると、カビが生えたカツオ節が積み重なっていました。

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湿度、温度を保った室で樽に入れて発酵させます

発酵の立役者「優良カツオブシカビ」は、酒や醤油造りでも活躍するコウジカビの仲間(*4)。かつては自然繁殖を待ちましたが、最近は胞子を吹き付けて人工的に発生させています。数週間ごとに天日干しして、同じカビを何度も生やします。最初は青く(ミカンにカビが生えるときのような感じだそうです)、二番カビ以降は茶色っぽく変わっていきます。

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樽の中で熟成中のカツオ節は表面にカビが生えていました

 右はカビの拡大像(提供:テクネックス工房、撮影:永田 文男さん)

 

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天日干しはカビを更新するために行います(カネサ鰹節商店提供)


こうして、約半年かけてつくられたカツオ節。同じ動物由来なのに、発酵で脂肪が分解されているため、出汁は鶏ガラや豚骨と違って澄み切っています。上品な出汁を支えているのが発酵の力なら、カツオ出汁と相性が良い醤油や味噌も発酵食品。健康美味な和食と、発酵の力は切っても切り離せません。

20140124_tani5.jpg透明なカツオ出汁

 【工場見学、面白いですよ】
カネサ鰹節商店さんは無料工場見学(要事前連絡)を積極的に受け入れています。末尾のリンクを参照してください。

港町で100年以上も続く小さな工場は、壁や天井がカツオを燻した煙で黒光りし、独特の香りに満ちています。興味深いのは発酵だけではありません。①切る②煮る③燻す-やその他の細かい作業で職人技を垣間見ることができ、カツオ節の削り方を教わりながら削りたてを味わう体験(こちらは有料)もあります。

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地元の原木の火でカツオを燻す工程(カネサ鰹節商店提供)

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漁村体験旅行でカツオ節削りを体験(西伊豆いきいき漁村活性化協議会提供)

【たまにはカツオ節から出汁を取ってみませんか】
現代ではうま味調味料やめんつゆがあり、とっても便利。でも私は、これらの食品が開発されてきたのも、発酵の力を生かす伝統技術と出汁を大切にする食文化があったからこそだと思うのです。

芹沢さんは、「年に数回で良いから、カツオ節を削って出汁を取って、日本に伝わる本当の出汁を味わってもらえたら嬉しい」と言います。時間や手間がかかるといっても、せいぜい10~20分。約半年もかけて作られたカツオ節をいただくためだと考えれば、惜しいどころか楽しくて贅沢な時間ではないでしょうか。


おいしくて美しくて健康な和食を支えているのは、微生物による発酵の力と、それを生かす職人技や伝統文化。「科学」や「バイオテクノロジー」という概念が一般的でなかった時代から、脈々と受け継がれてきました。カツオ節を触って、匂って、食べて、そして工場で見て、聞いて、五感をフル活用して感じてみませんか。

注釈
*1 発酵前の「③燻す」までを終えたものは「荒節」で、かつおの味とコクが強く残っています。この後「④発酵」を繰り返したものは「枯節」で、上品でまろやかになります。両者ともパックされた削り節の原材料になりますが、荒節は「かつおのふし」、枯節は「かつおのかれぶし」と区別して表記されます。この記事中の「カツオ節」は「枯節」を意味しています。

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枯節(左)と荒節(右) (にんべん提供)

*2 イノシン酸は生きたカツオに含まれていたATP(アデノシン三リン酸)が体内の酵素によって変化して生成します。発酵で生成されるのではありません。

*3 タンパク質分解酵素は「プロテアーゼ」、脂肪分解酵素は「リパーゼ」です。

*4 日本鰹節協会の優良カツオブシカビはEurotium属(ユーロチウム属、和名:カワキコウジカビ)の E. herbariorum です。日本鰹節協会が培養、供給しています。
かつて自然発生していたカツオブシカビは、Aspergillus属(アスペルギルス属、和名:コウジカビ)のA. glaucusなど。醤油や日本酒造りで活躍する「麹菌」A. oryzaeも同属です。ユーロチウム属とアスペルギルス属は和名に「コウジ」が含まれていることからも分かるようによく似た活動をするカビで、有性生殖が確認されているか否かで分類が変わります。
株式会社にんべんによると、最初に生える青いカビも人工的に付けたE. herbariorumです。ただ、自然発生に頼る場合は、一番カビにPenicillium属(ペニシリウム属、和名:アオカビ)が生えることも考えられるとのことです。

参考サイト(取材協力) 



文ちゃんのタイニー・カフェテラス
※にんべんの荻野目さんとカツオブシカビについては、も興味深いです。

参考文献
「かつお節-その伝統からEPA・DHAまで」和田俊 幸書房
「鰹節 ものと人間の文化史97」宮下章 法政大学出版局 
「トコトンやさしい発酵の本」協和発酵工業(株)編 日刊工業新聞社

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この記事への4件のフィードバック

かつお節の疑問が納得できました!
カビって、脂肪をぶんかいするのですね。
タンパクの部分は、変化がないのでしょうか?

takokuroさま、ご質問ありがとうございます。

カビはタンパク質も分解し、うま味成分であるアミノ酸を増やしてくれると考えられています。

味、香り、保存性など、いろいろな良い効果をもたらしてくれるカビの力って、本当に面白いなと私は思っています。

ねこまんまは、ぜいたく食だったんですね!
いつも、「ほんだし」の味噌汁で育ちました。
なので、はじめて削りたての鰹節が入っている
お味噌汁を食べたとき、味の深みと濃さにびっくりしました。

大津祐子さま、コメントありがとうございます。
ねこまんま、そのカツオ節が削りたての枯節ならば、それはきっと「ぜいたく食」だと思います。
卵かけご飯にカツオ節とノリをかけて、なんていう発展系も試してみてください。
(西伊豆のある食事処では「ねこたまごはん」と名付けて出しています。)

うま味調味料も「手軽で便利」という意味で、とてもありがたいものです。
そして、たまに削り立てのカツオ節で出汁を取る時間もまた、最高の味と香りを楽しむ「ぜいたく」なのかもしれないと、私は思っています。

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