天然酵母を育ててみました。 ~われら、酵母探偵団!~

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さあ、発酵部の活動レポートも3回目を迎えました。

前回は、正体不明の酵母をとったところまでお伝えしました。

(前回までの記事はこちら。『天然酵母』という言葉については次回のブログで触れます。)

http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20140714post-502.html

http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20140716post-505.html

 

今回は、その正体を探ります。

探偵気分でお付き合いください。

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正体を探るため、まずは参考書を見てみましょう。

志水:情報収集は探偵の基本だな(ニヤリ)

これがその参考書 「The Yeasts: A Taxonomic Study, Fifth Edition」(志水訳:酵母の分類学第5版)です(Kurtzman・Fell ・Boekhout(2011)Elsevier Science)。

世界中のありとあらゆる酵母が掲載されています。

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分厚いですねえ。

3巻合計で2000ページ以上 もあります(図書館に伺ったこの日は、2巻が借りられていました)。

この本には約1300種 もの酵母とその見分け方が載っています。

さて、レーズンからとれた酵母が何者なのか、1300種の中から探し出さなければなりません。

志水:無理でしょ。 ......いや、名探偵は、決してあきらめてはいけない!

そもそも、どのように分類しているのでしょうか?

 

分類法には大きく分けて3つの方法があります。

1つ目は、「見た目」です。私たちの観察でも、ドライイーストとレーズンからとれた酵母は全く違う形でしたよね。しかし、多くの酵母は見た目もそっくり。そこで別の基準が必要になります。

2つ目は、「どのくらいの温度でよく育つのか」「どのような糖分を栄養にすることができるのか」といった「性質」です。暑がりだったり、寒がりだったり、あるいは他の酵母が苦手とする糖分をバクバク食べることができるグルメ(?)な奴だったり、と色々な個性によって種に分けることができます。

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見た目はそっくりでも、「性質」が異なります。 

この2つの方法に加えて、最近は第3の方法「DNAの塩基配列』を比べる」ということも行われます 。 DNAを比べるには専用の装置が必要です。そこで、発酵部では「見た目」に着目して、できる限り種を絞り込むことにしました。

早速、よーく観察してみましょう。

志水:現場検証は探偵の基本なり!

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形は、楕円形をしていますね。また、真ん中に壁のようなものがある酵母もいることが分かりますか?

ここにいます(赤矢印)

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実はこれ、1つの酵母が2つに分かれようとしているところなのです。

パンづくりやお酒づくりに一般的に使われる酵母「サッカロマイセス・セレビシエ」は、1つの酵母にたんこぶができるようにして、2つに分かれます。そのような酵母を「出芽酵母(しゅつがこうぼ)」といいます。

一方、隔壁(かくへき)という壁でしきられて2つに分かれる酵母は「分裂酵母(ぶんれつこうぼ)」とよばれています。

20140715_shimizu_06.jpgのサムネイル画像

分裂の仕方から、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属というグループの酵母が候補に浮かんできました。

志水:だいぶ酵母の正体が絞られてきたぞ!

さらにそれから、数日後。

もう一度ビンの中の酵母を観察してみると、思わぬ現象が起きていました。

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(緑色の色素「ライトグリーン」で細胞壁を染色)

 志水:(もあいまって)枝豆そっくりじゃん。

枝豆のように見えるひとつぶひとつぶは「胞子」です。

周囲の栄養が乏しくなると、酵母は胞子をつくります。ビンの中の酵母がレーズンからしみ出た栄養分を食べつくしてしまったのでしょう。

 胞子は、頑丈な細胞壁で守られた種(たね)のようなものです。なぜ胞子をつくるのかという点はよく分かっていません。「ハエに食べられた後でも生き残り、フンと一緒に新たな場所に広がっていくため」 という説も発表されています。※1

 この胞子、種(しゅ)によって数が違うことが知られています。

私たちの酵母では、胞子は4つ。

さあ、特徴がだいぶ集まりました。

20140715_shimizu_08.jpg これらの特徴から導き出せる答えは......

 

お前はシゾサッカロマイセス・ポンべ(Schizosaccharomyces pombe)だ!(バーン!)

完全に断定するには、「性質」や「DNA」を調べなければいけませんが、シゾサッカロミセス・ポンべ(舌噛みそう......。以下「ポンべ」とよびます。)は有力な候補です 。 シゾサッカロマイセス属のなかで、胞子を4つつくるものはポンべしか知られていないからです。

ポンべは、アフリカでトウモロコシビールをつくるために使われています。

また、分子生物学ではポンべは特に重要です。1つの細胞が2つに分かれる過程(細胞周期)を研究するのにぴったりな生き物なんです。2001年には、ポンべを使った細胞周期の研究で、イギリスのポール・ナース博士がノーベル生理学・医学賞を受賞されています。ポンべすごい!

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ここまで、酵母の正体探しを行ってきましたが、いかがだったでしょうか?

最後まで読んでくださった皆様に、微生物を分類する難しさ・楽しさをお届けできましたでしょうか。

実は、このような分類は最先端の研究として行われています!

最後までお付き合いいただいた皆様には、研究者としての素質が備わっているということです!

自然界に生息している酵母のうち、私たちが分類できているのはわずか5%程度と言われています。残りの95%には、私たちの生活に役立つような酵母もきっといることでしょう。ふわっふわのパンをつくれる酵母もいるかもしれませんね。

2012年に理化学研究所と明治薬科大学が発表した研究によると、沖縄の西表島と北海道の利尻島から見つかった183種の酵母のうち、約半数が新種だったそうです。※2

お家で育てた酵母が、実は「皆さんの前だけに顔を見せてくれた新種だ」なんてこともあるかもしれません。お家で最先端の研究に挑戦してみませんか?

 

あー、それにしてもお腹すいた。

天然酵母のパンを食べたいなあ......。

 

あ、まだパン焼いてないんだった!(うっかり)

 

次回のブログでこそ、パンを焼きます!どうか、どうか、お付き合いください。

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 名探偵は実は、最先端の研究者なのだ!

 

※1 アメリカ・ストーニーブルック大学のA. Neiman准教授らの研究です。

(Coluccio, A.E., et al., "The yeast spore wall enables spores to survive passage through the digestive tract of Drosophila" PLoS One, 2008)

※2 理化学研究所バイオリソースセンター高島昌子ユニットリーダーらの研究です。

(Takashima, M. et al., "Taxonomic Richness of Yeasts in Japan within Subtropical and Cool Temperate Areas" PLoS ONE,2012)

理化学研究所のプレスリリースはこちらです。 http://www.riken.jp/pr/press/2012/20121213_2/

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この記事への2件のフィードバック

いよいよ夏休み! 春休みに清水さんから教えてもらった天然酵母に挑戦します。ブログで続編が読めて嬉しいです。パン作りについては、パンの先生探しに難航しています。酵母の特定ができないことが不安材料だったんです。でも、ええと、なんでしたっけ? ポペイって名前がある奴なんですね!名前がわかるだけでも安心するのだから、名前(基礎研究)ってすごいんですね。突き止めてくれて、ありがとうございました!張り切ってやってみようかな。時は夏!場所は南側の窓辺!パンがよくふくらみます。

みなさんも酵母探しに挑戦するのですね。何事もまずはチャレンジです!
少しはお役に立てたようで、嬉しく思っています。

さて、みなさんに申し上げておかなければならないのは、皆さんが酵母をとれたとして、私の酵母と同じ種だとは限らない、ということです。レーズンをとった場所が違えば当然種も異なる可能性が高いですし、また全く同じレーズンでも何種類もの酵母が表面についていて、どの種が優先的に増えるか、というのも全く予想できないからです。

今回は、たまたま一種類の酵母が増えて、さらに形からその種が予想できる酵母だったので、候補を絞ることができました。ですが、「天然酵母」の正体を探ることは本来は非常に難しいことです(だからこそ、最先端の研究にもなります)。

酵母の正体が分からないことは、ある面では「楽しみ」であり、ある面では「危険」でもあります。
皆さんはそんな「天然酵母」のパンを食べてみたいですか?
そのあたりは次回のブログで迫ってみたいと思います。

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