「循環」のために大切なこと ~あるパン屋さんの気付きより~

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「地域内循環」を目指すパン屋さんと、

「循環」をテーマに対話してみました。



2015年の晩秋、休暇で山陰地方に行きました。前職が地方紙記者で、未来館でも越後妻有に行かせてもらった私にとって、「地域」は大きなキーワードのひとつです。


「鳥取県の智頭町はおもしろいよ。知人を紹介するね」

「町まで来てくれたら案内しますよ」

「面白いパン屋さんがあるから行こうか」


人の親切の連鎖に導かれ、やってきた里山のパン屋さん。

「発酵と地域内循環」と書かれた看板が目にとまりました。



「循環」は、未来館も大切にしているテーマです。


なぜ「循環」を、地域の現場で、パンを通じて、実践しているのか。そして、どんな気付きがあったのか。「パン屋タルマーリー」店主の渡邉格さんに快くお話に付き合っていただき、妻の麻里子さんにも後日、電話で補足していただきました。


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地域内循環について、渡邉さん夫妻にお話を伺いました


【「地域内循環」と、未来館の「循環」】


渡邉さん夫妻が目指す「地域内循環」は、地域の自然の中で育った素材を、地域の菌で発酵させ、地域の燃料を使って焼くことです。




「地域の素材や資源、菌にこだわることで、地域ならではの個性的な味になる。それに、地域のいろいろな人との関わりが生まれて、ものやお金が循環するようになります」


格さんは狙いとして、①商品の個性化②地域での人のつながり――の2点を挙げました。





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店内に掲げられた「発酵と地域内循環」の看板





一方で、未来館が「循環」を重視しているのは、私たち人類が住む地球の環境を持続するために、物質の「循環」が不可欠だと考えるからです。


たとえば、炭素。人間の活動から出た排泄物が、微生物によって分解され、二酸化炭素と水になり、大気中を漂ったあと、植物に吸収されて別の形になり、それを動物が食べ、再び人の体やエネルギーとなる――。つまり、生態系の中での①動物による消費→②微生物による分解→③植物生産→①動物による消費――のサイクルです。地球規模でのこの流れを、未来館では「循環」と言っています。


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未来館のサイエンス・ミニトーク「どうする!?宇宙船での長い旅」より
炭素や水の「循環」を生み出せば、1000年の旅ができる?




渡邉さん夫妻の「地域内循環」は、地球規模の「循環」を意識しながらも、「個人が地域で実践でき、幸せにもつながりやすい方法を考えた」(麻里子さん)とのこと。生産に重きを置いた「地産地消」の意味合いが強いとも言えそうです(酵母による「発酵」の過程は「分解」ととらえることもできますが、生産と消費の間の「加工」の性格が強いでしょう)。

循環の全てを包括するわけではない反面、とても謙虚で、地に足を着けている印象を受けました。





【循環と環境】


渡邉さん夫妻は「地域内循環」を実現するために、いくつかの土地を渡り歩き、さまざまな材料で、試行錯誤を繰り返しました。たとえば、看板商品の「酒種パン」。地元の水と小麦で生地をつくります。そこに米からつくった「酒種」を加え、含まれている酵母で生地を発酵して膨らませます。その酒種は、まず蒸した米にコウジ菌を集めて米のデンプンを糖化させ、さらにその糖分に空中を舞っている酵母が集まってくるのをじっと待ってつくります。



地元の菌にとことんこだわったこのプロセスは、肥料も農薬も使わずに育てた米を隣県・兵庫から取り寄せて初めて、成功しました。本来ならば米も地元のものを使いたいところでしたが、それ以外の米で酒種をつくると、生地が過度に分解されるなどしてうまく膨らまなかったそうです。



麻里子さんは、次のように考えました。「肥料を与えられて育った米は窒素が多く腐敗しやすいため、パンの発酵に適さない菌が混じったのではないか」。米の栽培法と発酵成否の因果関係を実際に立証するのは難しく、これはまだ「仮説」の段階です。



ただ、肥料や農薬を外から持ち込まない栽培法は、「人間にとってきれいな水質や空気を守ることにもつながるはず」と麻里子さん。格さんも「循環が成立する環境を、守り、広げていきたい」と考えるようになりました。そこには理屈だけでなく、実際に試行錯誤を繰り返した人の直感から来る「思い」も込められているようでした。





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旧保育園の施設を改築したパン工房。山あいの里にあります




私の頭の中にそれまで強くあったのは、「循環を成立させることにより、環境を維持する」という方向の図式でした。環境と循環が、ニワトリとタマゴというか、表裏一体の関係にあることに、あらためて気付きます。




【循環の実現に大切なこと】


では、「地域内循環」を目指すうえで、一番大切だと感じたことは何でしょうか?格さんから、意外な答えが返ってきました。




「人と人の関係、でしょうか」




循環は、互いの関係の中で成立するもの。菌がすみ着く里山を守る人たち、菌が人間にとってありがたい形で活動できる米や小麦を育てる生産者、決して安くはない価格を理解する消費者など、いろいろな人と志を共有し合えるからこそ、「地域内循環」は進み、そこからまた、互いのつながりが深まっていくのです。



人や物の行き来が少なかった数百年前は当たり前だったはずが、いざ実践しようとすると、「感覚としては50%も達成できていない」(格さん)とのこと。




私には、「昔に比べて人間関係が希薄になった」というより、社会が変化して選択肢が増える中での循環に「昔以上の人間関係が必要になった」のだと聞こえました。


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山あいに広がる智頭町の町並み




【現場での実践者から学びたい】


「循環」の概念や、地域の菌を使う意義、素材や環境と発酵の関係性、地域や個人と地球規模課題の関連などについては、さまざまな考え方があります。


科学コミュニケーターブログより関連記事
天然酵母を育ててみました。~『天然』ってなんだ?~」



ただ、里山のパン屋さんが実践の中で、「循環を実現するために、環境を守りたい」「そのためには、人と人の関係も大切」と感じたところに、学ぶことは多いのではないでしょうか。





未来館が考える「循環」は、地球規模の大きなテーマ。理論や巨視的なデータ、循環を助けてくれる科学技術はもちろん大切です。と同時に、地域の現場に地球規模で考えるべきことの縮図があるような気がします。

いろいろな方が実践の中で感じていること、考えていることから、もっともっと学び合っていきたくなりました。



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参考図書:(格さんの著書です)
田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」



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