別冊aniani 進撃のタコ

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一世を風靡したani・aniから時を経て......「別冊aniani」登場!
aniani本誌と違い、安心してお子様と一緒に読める話題をお届けします。
(anianiって何?という方は、文末にバックナンバーへのリンクがあります)

生物系科学コミュニケーターが繰り広げるめくるめく妄想トークの世界へようこそ。

  

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 ★登場人物紹介★
ぶっち (大渕希郷) :
動物園創設に燃える科学コミュニケーター。2016年4月からは夢を叶えるべく、京都大学が連携する動物園へ

くまこ (熊谷香菜子) :
ウミウシを愛する生物系科学コミュニケーター

まっつ (松浦麻子) :
元IT企業OL/現エネルギー・情報系科学コミュニケーター

※このお話は実際の閉館後の会話を元にしています

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ぶっち: ねえねえ、すごいウミウシ見つけたよ。

くまこ: えっ、どれどれ?

  

  

ぶっち: これ。魚みたいになったウミウシ!
Meet Phylliroe: the sea slug that looks and swims like a fish(英語サイト)
深海にいるらしいよ。

くまこ: すごーーーーーーーーーい!!!!!!!

ぶっち: びっくりでしょ!深海って、すごいとこやなぁ~。

  

くまこ: こんな形のウミウシ見たことないよ。
ウミウシはレプトセファルスみたいにぺらぺらにもなれるんだね。ウミウシって、すごいなぁ~。魚そっくりのこの形には、『収斂進化』を感じるね。(収斂進化の解説は後ほど)

ぶっち: 同意。地球のいろんなニッチで主役交代はゆるやかに進行しているのかもしれないね。

  

まっつ: ねえねえ、収斂進化って何?漢字じゃきっとみんなわかんないよ?

くまこ: あ、まっつ。聞いてたの?あのね、「しゅうれんしんか(収斂進化)」だよ。

ぶっち: まったく違う生き物なのに、似たようなところで似たような暮らしをしていると、形も似てくるってやつ。まさに他人のそら似

  

じゃあ例えば、次の動物はそれぞれ何かわかるかな?

20160820kumagai02.jpgジンベエザメ
  

20160820kumagai03.jpgカマイルカ
  

20160820kumagai04.jpgイクチオサウルス

  

写真は上から、サメは魚のなかまイルカは哺乳類のなかま。最後のはジュラ紀に生きていたイクチオサウルスで爬虫類のなかまだよ。

それぞれまったく別系統の動物。でも、どれも似たような形に進化した。進化というのは、世代を経ながら環境に合わせて姿を変えてゆくことだから、同じような環境に生きていると姿が似てくることがあるんだ。(進化について詳しくはこちら!)

  

まっつ: ふむふむ。

  

ぶっち: そして、「ニッチ」は、日本語では「生態的地位」と言うよ。

「生物の種が、生息する環境において果たしている生態的役割あるいは地位」のことなんだけど、要するに、その生物が食べるエサや、利用している環境(海に棲んでいるのか、陸に棲んでいるのかなど)などのこと。

例えば、1961年にConnell博士が、フジツボとイワフジツボの観察実験を行っている。どちらも海面近くの岩礁に住む生物、つまりニッチが重複している状態だ。

イワフジツボは、フジツボがいなければ岩礁の低い位置まで分布できるんだけれど、フジツボがいる場所では、競争に負けて岩礁の高い位置に追いやられてしまう。一方で、フジツボは乾燥に弱いので、イワフジツボがいてもいなくても高い位置まで広がることはできない。

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言い換えると、岩礁の高い位置は、「ニッチが空いていた」。イワフジツボは競争に負けても、空いていたニッチを利用して生きられたんだ。

まっつ: へぇー。「ニッチ」って聞くと、ビジネスの話みたいだね。
特定のニーズを持つ小さい市場のことをニッチ市場って言うんだよ。つまり、イワフジツボは、フジツボよりニッチな場所を見つけたってことだよね?イワフジツボの方がビジネスとしては面白そうだな......。

ぶっち: そうそう!実は生物の進化や環境利用って、経済学ととても似ていて、実際......

  

くまこ:(二人の話を聞いていない)
数億年後、魚に取って代って海を泳ぎ回るウミウシたち...ウミウシが主役の海!トキメクねぇ~!!
 
まっつ: 見渡す限りウミウシが泳ぐ海......綺麗かもしれないけど、食べられないよね。

  

くまこ: そして人類はタコに取って代わられるんだ。

まっつ: え!タコなの!?

ぶっち: あー、そうだね。タコだね。

まっつ: そこ同意なんだ!?

  

ぶっち: タコはね、2015年8月に全ゲノム情報が解読されて、ゲノムサイズが僕ら人間と同じぐらいあることがわかったんだ。

まっつ: ゲノムって言ってみれば生き物の設計書みたいなものだよね。
タコの設計書は人とおなじぐらい分厚いっていうことか......。

ぶっち: そう。
しかもね、人間を含む脊椎動物では、ゲノム重複といって、簡単に言うと設計書のコピーが増えちゃうことが起きて、それが進化につながったと考えられているんだけれど、タコにはその痕跡が見つからなかったんだ。

つまり脊椎動物とは違うメカニズムで進化が進んだんじゃないか、と思う。ただし「ゲノムサイズが大きい」=「知能が高い」ということではないので誤解しないでね。人間よりゲノムサイズの大きい生物は、結構いるよ。

  

くまこ: タコはすごいんだよ。
スクリュー瓶に閉じ込めても自分で蓋を回し開けて出てきちゃうんだよ。(新江ノ島水族館の動画で紹介されています)

  

ぶっち: 2009年に、無脊椎動物で道具の使用が初めて確認されたものとしてタコの研究が論文になっていたね。ココナッツの殻をシェルター替わりに使うんだそうだ。

でもきっと、あいつらなら人間生活の道具はたいがい使いこなせるだろうね。

くまこ: そうだね。
蓋をねじって開閉できるなら、ペットボトルもジャムの瓶も使える。ドアノブも余裕だろうね。エレベーターのボタンも押せるだろうし......。

  

ぶっち: タコは学習能力も高いからね。
「海の霊長類」なんて呼ばれることもある。実は脳もすごくて、メインの脳以外に、それぞれの足の根元に脳のように発達した大きな神経の塊がある。それで、8本のあしを実にスムーズかつ効率的に制御しているんだ。

くまこ: あっ、8本足であんなに吸盤があるんだから、その気になったらパソコンで文字を打ったらめっちゃ速いんじゃないの?

8本の足が自由に操れるって、かなりマルチタスクじゃない?

  

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まっつ: :私、けっこうタイピング自信あるけど、こいつには負けるわ......くそう、あたしも腕が8本欲しい!

  

ぶっち: (調べながら)
おっ、タコの足には絡まらない機能が備わっているみたいだよ。

くまこ: じゃあ、タコだらけの満員電車でも足が絡まって降りられなくなる心配は無用!

ぶっち: 海中で生きるには3次元空間を把握する必要があるから、タコは空間把握能力も半端ないはず。

まっつ: 3次元で動けば、満員電車からの乗り降りも楽勝ってわけか。

  

くまこ: 磯にいたタコが水面から出て岩の上を這っていくのを見たことがあるんだけど、いつかタコが陸上に適応した形に進化してやってきたら、残念ながら人間に勝ち目はないね。

  

ぶっち: そうだね。
タコは擬態が得意だからね。それに墨も吐く。そしてタコの目は人間と違って盲点がない

くまこ: あのしなやかな体を物陰に隠して、人間が通りがかったところをガバッと!

ぶっち: あいつらは心臓まですごいんだよ。
以前、ワニの心臓の超能力を紹介したけれど、タコの場合は本来の心臓で動脈血を全身に送り、エラの基部にある2つの「エラ心臓」で静脈血をエラに送る。つまり、3つのポンプで血液を効率的に循環させているんだ!勝てるわけがないよ!

くまこ: 逃げる間もなく8本の足で羽交い絞めにされて、そのまま足の根元にある口でガブリだよ!軟体動物のくせにあのクチバシみたいな口は反則だよ!

ぶっち: それにあの卵の数!マダコは1匹のメスが数十万個も卵を産むんだよ。

  

くまこ: もう人間は諦めるしかないね。

  

ぶっち: もう諦めるしかない。

  

まっつ: ......。とりあえず、今夜はタコ食べる。

ぶっちくまこ: そうしよう。

  

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ある日の磯でつかまえたタコ。
遠い未来のいつの日か、逆に人類がタコに捕らえられる日が来るかもしれない。
いや、来ないかもしれない......。
(このタコは、後ほどスタッフが海に返しました)

  

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参考サイト
沖縄科学技術大学院大学(OIST)プレスリリース タコのゲノムを解読する

道具を使うタコについての論文(英語)
Defensive tool use in a coconut-carrying octopus

タコの足が絡まない理由についての論文(英語)
Self-Recognition Mechanism between Skin and Suckers Prevents Octopus Arms from Interfering with Each Other

協力
大渕希郷 現職:京都大学 野生動物研究センター 特定助教 / 日本モンキーセンター キュレーター

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この記事への4件のフィードバック

た、たこ。すげぇ~~。
どうやって進化したんでしょ?してない?でもメンダコやコウモリダコみたいのもいるし、磯で陸に上がるのを虎視眈々と狙っているタコも居るし...こりゃアイツが陸に上がってくるのも時間の問題か....

タコの学習能力が凄いことは知っていたけど、そうか、奴は8本の足に神経の塊があるから自由自在に絡まらず動くわけだ。しかも人間と違って関節もなく、吸盤があるから手先だけでなくて腕全体が使える!さらに心臓みたいのが3つ!に盲点のない目く、色や形まで変えられる皮膚!

岩場で保護色の擬態で隠れている奴に背後から襲われたら、完全にアウト....
あの固くて鋭いくちばしで頭蓋骨は粉々だ...

タコの火星人が居なくて良かった~~。
タコが進化して陸に上がってくるのを阻止するためには、人類が一致団結して酢ダコやたこ焼き、タコせんべいにして食ってやらねば!!

不定期発行の別冊ani-aniも恐るべし...

Yutakaさま

熱いコメントをありがとうございます!一同大変嬉しいです!

深海にすむコウモリダコは、発光器を持っていますからね。暗闇に隠れてがばっとくるだけでなく、発光器で目くらましまで追加されたらもうどうしたらよいのでしょう。夜中の街を、発光器をサーチライトにしたタコが人間を捜しに歩き出したりしたら…!

「タコの火星人がいなくてよかった」、このコメントをいただくまで、そのことをすっかり忘れていました。火星人をタコに見立てた最初の人は、この展開を予想していたのでしょうか!?だとしたら恐ろしい話です。
(Wikipediaでは、火星の環境を元に考えた結果のタコ型だと考察されています)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%81%AB%E6%98%9F%E4%BA%BA

タコの弱点は「食べたら美味しいこと」だと言う者もおりました。また、この話に疑義を唱える者も現れてまいりましたので、この話はどうやら次号へと続く模様です。どうぞお楽しみにお待ちいただければ幸いです。

本当に、タコは不思議な生き物です。どうやって、こんな生き物が生まれたのでしょうか? 興味が尽きないです。

北米北西部ワシントン州に住むスノホミッシュ族の言い伝えでは、タコは、イルカやクジラと共に、宇宙からやって来て、地球の海を守っている守護神なのだそうです。

また、ナポリ沖の海では、環境の変化に順応するために、本来は群れない筈のタコたちが群れを作り、集団で暮らし始めているそうです。そして、若い個体に、狩の仕方を教えたりして、ある種の社会を形成し始めているとか。これは、ものすごい進化の始まりではないでしょうか。

このぶんだと、タコが進化して文明を築くのも、遠くないかも知れません。また、イカたちも、高度な社会性を持ち、知性も高いらしいので、将来は、彼らイカ・タコたちが“万物の霊長”になるのではないかと、かくしんしております。

思えば、先のW杯の折に、勝敗を予言して全てを的中させた、パウルくんというタコもいて、世界中から注目されました。彼らイカ・タコたちは、愛すべき地球の隣人です。もう一つの知性として、もっと敬意を持って接したいと思えてなりません。we love イカ・タコ!、イカ・タコ最高!!

TACOさま

タコへの熱いコメントを頂戴しありがとうございます!
生き物はどれも不思議がいっぱいでおもしろいですね。タコはその中でもかなり興味深いです。

動物の行動に興味があるので、ナポリ沖のタコの話は大変気になりますね。どんな様子なのか見てみたいです。
タコが“万物の霊長”になった時、人間は一体どうなっているのでしょうね。取って代わられてしまうのか、共存できるのか…

お正月はタコを見かける機会も増えますね(酢だこの状態で)。
これからもタコと仲良くやっていきたいと思います。

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