Lesson#3.11プロジェクト~震災・原子力発電所事故後のこころの健康~

このエントリーをはてなブックマークに追加

こんにちは!科学コミュニケーターの眞木まどかです。

福島県民健康調査というのをご存知でしょうか? 東日本大震災と原発事故の後に毎年、福島県民全員を対象として行われています。調査は大きく、基本調査と詳細調査 の2つに分けられています。 この記事では、詳細調査の1つである「こころの健康度・生活習慣に関する調査」のうち、調査項目の1つの「子どもの情緒と行動について」の調査内容とその結果をご紹介したいと思います。

こころの健康度・生活習慣に関する調査では、何を調査しているのでしょうか?


0歳児から中学生を対象に、身長や体重、食習慣や運動習慣、就寝時刻などが調査されます。一般の方に対しては、その他にBMIを用いた肥満度、飲酒量や喫煙量等も調査されます。 大きな災害の後では、家に帰ることが難しくなって長い間集団生活を強いられたり、同じ学校の友人たちの多くが引っ越しをしてしまい、仲の良い友人が少なくなってしまったりする例があります。こうしたことから来る心的な負担や災害時のトラウマ体験がこころの健康にどう影響しているのか、調査が行われています 。

調査の主な対象者は、2011年時に警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域に指定された、合わせて2 市・7 町・3村の0歳児~中学生、そして高校生以上の一般の方です。2015年度における実際の対象者人数は20万9900名で、2015年度に集められた有効回答数は5万389名分でした。
つまり、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」は全県民対象ではなく、避難区域等の住民の方々が対象です。

いよいよ、今回紹介する「子どもの情緒と行動について」の調査内容と結果について詳しくふれていきましょう。

この調査は、先ほどお伝えした調査の対象者の中でも、4歳から中学生までのみが対象に行われています。

調査には、以下のアンケートがつかわれ、対象年齢の子どもを持つ親、または本人がアンケートに回答します。

20170824maki_01.png

このアンケートは、子どもの強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire, 略してSDQ)(以下、SDQと呼びます)といわれています。国際的に統一された、こどもの行動を評価する方法として定着しており、総体的に子どもが支援を必要としているかどうか簡便に測ることができると言われています。SDQは、各質問に対して、「あてはまる」「ややあてはまる」「あてはまらない」と3つの選択肢の中から1つを選んで回答する形式です。そして、各選択肢に0、1、2点があてはめられていて、合計点を出します。その点数が高いほど精神的なサポートを必要としていると見なします。

次に、2011年度から2015年度までの小学生を対象にしたSDQの調査結果をご紹介します。

20170824maki_02.jpg

2011年度の調査対象者数11,791名のうち、有効回答は7,464名(63.3%)

2012年度の調査対象者数11,413名のうち、有効回答は4,683名(41%)

2013年度の調査対象者数11,167名のうち、有効回答は3,987名(35,7%)

2014年度の調査対象者数10,861名のうち、有効回答は2,859名(26.3%)

2015年度の調査対象者数10,655名のうち、有効回答は2,740名(25,7%)

上のグラフから、被災地の小学生は調査をはじめた震災直後の2011年度から翌年の2012年度になると、精神的なサポートを必要とする子どもの割合が減ってきていることがわかります。被災していない日本の他地域の4歳から12歳までを対象とした調査結果では、SDQ16点以上の割合は9.5%と示されています。したがって、調査対象となった福島の子どもたちは、以前として精神的なサポートを必要とする子の割合が高い水準となっていることがわかります。

心理的ストレスの主な要因について、以下が考えられます。

1) 将来の健康に対する不安

例えば、日々放射線を浴びつつも将来に見えるかたちで現れてくる結果が曖昧であることや、情報そのものが不足しているといったことが挙げられます。これには、大人が感じる子どもの今と将来の健康影響への不安も含まれます。

2) 住む環境や、地域社会の変化

例えば、冒頭でも紹介したように住み慣れた家を離れて避難生活を強いられる例や、親が仕事を変えなければいけない事情から、地域や友人たちと離ればなれになってしまう例などが挙げられます。このように不安な気持ちを長い間抱きやすい環境に身を置かざるおえないことも要因の1つです。この不確実性に対する大人の不安等が子どものこころにも影響を及ぼす可能性も指摘されています。

3) 社会からの偏見

例えば、学校でのいじめや差別等が挙げられます。

その他、不安を高める要因として科学的な正確さに欠けた情報が伝播し引き起こる混乱が挙げられます。

私自身、個人としてどんなことができるのか防災を含めて考えることがあります。つい先日も新しい防災グッズを購入してみましたが、食料が少なかったので買い足す必要があります。ですが、いつも買い忘れてしまいます。さらにはふだんの日々の中で、有事のことを考えるのはしんどいなぁ、なんて思うときもあります。

一方で、科学コミュニケーターとして有事に何ができるのかについても、考えることがあります。 未来館では、東日本大震災と原発事故に焦点をあて、科学的データに基づき何が起こったのかの情報発信をするとともに、あのできごとからどんな教訓を未来に活かせばよいのかを考える「Lesson #3.11プロジェクト」を実施しています(過去の活動履歴は、こちら からご覧ください)。私もメンバーの一人として活動中です。日々、プロジェクトのメンバー全員で、研究者が取得したデータを読み解いたり、有事を科学的に理解するための基礎を学んだり、発信したりしています。私たちの情報発信が、一助になれるよう努めたいです。

今回ご紹介した記事のきっかけとなったのは、昨年11月に「サイエンスアゴラ 」にて「いま社会に必要な放射線リテラシーとは 」という展示を実施したことでした。今回ご紹介した「福島県民健康調査」以外の情報も掲載しました。(サイエンスアゴラとは「あらゆる人に開かれた科学と社会をつなぐ広場」を理念とした科学コミュニケーションの一大イベントのことです)。

Lesson #3.11プロジェクトは、今年も活動継続中です。ぜひご注目ください!

参考文献: 環境省 「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成27年度版)」第3章放射線による健康影響 (PDF)
http://www.env.go.jp/chemi/rhm/h27kisoshiryo/attach_c/201606mat1-03-2.pdf http://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1-01-117.pdf

ふくしま国際医療科学センター・放射線医学県民健康管理センター 「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の結果について
http://fukushima-mimamori.jp/mental-survey/result/

ふくしま復興ステーション こころの健康度・生活習慣に関する調査について https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kokoro.html

第27回「県民健康調査」検討委員会及び第7回「甲状腺検査評価部会」の資料について 資料4-3 平成27年度 県民健康調査「こころの健康度・生活習慣の関する調査」結果報告書 http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-b7-kaisai.html

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

コメントを残す