アルコールランプが理科の授業から消える?!

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はじめまして、科学コミュニケーターの漆畑文哉(うるしばた ふみや)です。

突然ですが、これはなんでしょう。

20170915urushibata_01.jpg写真提供:ケニス株式会社

そう!アルコールランプです!!

簡単すぎました?未来館のブログを読んでいる方ならばアルコールランプはご存知ですよね。

もし知らなかったとしても、恥ずかしくはありません。タイトルの通り、今、アルコールランプは日本の理科授業から姿を消しつつあるのですから。

なぜアルコールランプが学校の授業で使われなくなってきたのでしょう? この記事では以下の3つについて掘り下げてみます。

  1. アルコールランプの代わりは?
  2. アルコールランプはなぜ姿を消しつつあるのか?
  3. アルコールランプは必要?

アルコールランプの代わりは?

現在の理科の授業で火を扱う実験が本格的に登場するのは小学校4年から。水を温めたり冷やしたりして固体・液体・気体といった「状態変化」や「燃焼」を学びます。これらの実験にはアルコールランプがよく使われてきました。

しかし最近では、別のものに代わろうとしています。

それは、なんとガスコンロ!

ボンベは家庭用カセットコンロのものと同じですが、コンロ本体は家庭用とは少し違います。理科実験用は一回り小さく、網台が付いています。ボンベが熱くなったら自動で火を消す機能がついていたり、正しくセットしないと火をつけるつまみを回せなかったりと、至れり尽くせりな安全設計です。

20170915urushibata_02.jpg写真提供:ケニス株式会社

実験用の加熱器具といえばガスバーナーもありますが、ガスバーナーはアルコールランプ以上に扱いが難しいので、そもそも小学校ではガスバーナーをあまり使いません。

それに比べ、ガスコンロは家庭にもあるような物ですし、火力もあるので水を沸騰させるならアルコールランプやガスバーナーよりも圧倒的に速い。実験の時短効果もあるのです。


アルコールランプはなぜ姿を消しつつあるのか?

ですが、安全装置があるとはいえ「火力が強いならガスコンロのほうが危なくない?」とは思いませんか?

実は理科授業での安全性は「火の強さ」よりも「火のつき方」のほうが問題なのです。そして、アルコールランプが姿を消しつつある理由もここにあります。

具体的には次の3つ理由を挙げることができます。

  1. 火をつけるのが難しい。
  2. 爆発するかもしれない。
  3. 引火するかもしれない(しかも気づきにくい)。

1. 火をつけるのが難しい。

アルコールランプはマッチで火をつけます。ところが、このマッチが子どもには難しいのです。全国の子どもを対象に行った調査によれば、小学4年生の約6割はマッチで火をつけられないと回答しています(5年生では2割以下。国立青少年教育振興機構, 2015)。別の調査では、小学生の子どもを持つ首都圏に住む保護者の約7割は子どもにマッチを使わせたことがないというデータもあります(象印, 2015)。多くの子どもにとって、理科の授業がマッチと初めて出会う場所のようです。それどころか、自宅がオール電化で調理もIHクッキングヒーターを使っている家庭の子どもであれば、火を自分でつけること自体が特別な体験になります。

しかし、授業の目的は火をつけることではありません。その火で温めたときの物の変化を観察することです。ほかのことに注意が向くのは、学習にとって不都合にはたらくこともあります。

2. 爆発するかもしれない。

何とか火をつけても、まだ油断はできません。あまり知られていませんが、アルコールランプには爆発の危険性があるのです。これは、アルコールの性質から来ています。

アルコールといえば消毒液や酒にも入っていますが、あちらはエタノール。対して、ランプの燃料はメタノールです。別物ですが、名前だけでなく性質も似ています。例えば消毒用エタノールを手にかけると、すーっとひんやりして、しかもすぐ乾きます。これはエタノールには液体から気体へ変わりやすい(気化しやすい)性質があるからで、そこはメタノールも同じです。

気体になったアルコールは、空気中の酸素と混ざると、よく燃えます。これを利用したのがアルコールランプです。

ですが、中のメタノールが少なくなっていると、気体のメタノールがランプ本体に溜まってしまいます。そこに空気が入り込むと、火をつけたときにランプの中で爆発が起きる危険性があります。アルコールランプはガラス製なので、傷やひびがあれば破裂する恐れがあるのです。そうならないように、アルコールの残量チェックやガラスの状態チェックが欠かせないのですが、これが先生方の負担になっているのです。


3. 引火するかもしれない(しかも気づきにくい)。

そして最も注意すべきなのは、火が他のものに移る「引火」。アルコールランプは小さいので、ひじが軽くぶつかっただけでも倒れてしまいます。万一、爆発しようものなら飛んできたガラスで怪我をするだけでは済まず、火のついたメタノールでヤケドをしてしまうかもしれません。

さらに厄介なことに、メタノールの炎は中が赤色ではなく薄青色です。光の具合によっては、メタノールの炎は見えにくく、引火にすぐに気づかないこともあるのです。

このように、アルコールランプの危険な点は並べるといろいろ出てきます。事実、小学校の理科授業で起こった重大事故は加熱操作を伴う実験中に多く発生しています(春日・森本, 2015)。爆発や引火の危険はガスコンロでもゼロではないのですが、安全装置や倒れにくさ、そして火のつけやすさなどの点からアルコールランプに代わって理科実験用ガスコンロが教科書に採用され、普及し始めたのです。


アルコールランプは必要?

この記事を読んだ方の中には「アルコールランプが使えなくて、今の子どもは大丈夫なの?」と思った方もいるでしょう。

アルコールランプは必要でしょうか、それとも不必要でしょうか。

正直に言うと、私は必要ないと思っています。子どもの安全が第一ですし、アルコールランプが使えなくても、他にもっと便利な加熱器具があります。それに、アルコールランプを使うスキルよりも、「状態変化」や「燃焼」のような科学知識を自由自在に活用する能力のほうが、応用も利きますし、活躍する場面も多そうです。その証拠に、先ほどのアルコールランプの爆発や引火の話は、小学生が学ぶ「状態変化」や「燃焼」の知識で説明できます

けれど、体験を伴って初めて知識は使えるようになるものとも考えられます。また、アルコールランプを使う機会が減れば、マッチを使う機会も減ってしまい、災害が起きたとき困ることも考えられます。

これは意外と深い問題なのかもしれません。

読者のみなさんは、どう思いますか? 
もしよろしければ、ぜひコメントであなたの意見をお聞かせください。

【参考文献】
大日本教育研究室編(2010)『新学習指導要領対応小学校理科観察・実験セーフティーマニュアル』改訂版, 大日本図書, p.74.
引間和彦(2011)「アルコールランプの使い方」加藤尚裕・引間和彦編『安全な小学校理科実験:基本操作ハンドブック』東洋館出版社, pp.60-61.
春日光・森本弘一(2016)「過去30年間の小学校理科実験事故の傾向に関する研究」『理科教育学研究』57(1), pp.11-18.
象印(2015)「イマドキ小学生の生活体験調査」https://www.zojirushi.co.jp/topics/shougakusei.html (最終アクセス: 2017.09.15).

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この記事への6件のフィードバック

アルコールランプ...懐かしい響きですね。小中学校の時にさんざんお世話になりました。色んな思い出があります。マッチをつけるのが怖くもあり、オトナになったl高揚感もあり...アルコールランプって、火を消すときが怖いのですよ。燃えている炎に、あのちっちゃいキャップを正確にはめなければ消えない。真上からフタをしようものなら熱気で「あち゛ぃ」とヤケドをしそうになる。斜め横からサッとかぶせるテクが小学生には結構難しく感じました。実際、失敗してフタを本体にぶつけて倒してしまい、実験机を火の海にした友達もいました。慣れた手つきでサッと消すと、周りから尊敬のまなざしを感じてドヤ顔になったものです。

さて、今やアルコールランプは必要か?...加熱が目的なら不要ですね。当時はそれに変わる安価なものがなかったから。今や電熱プレートもありますし、ガスコンロだって安価でたくさん準備できるし。実験に対する指導監督者の責任も厳しくなりましたから...子供の頃は、足にこぼれたアルコールに引火して体毛がツルツルになっちゃった友達とかは保健室で薬を塗っておしまい。今では考えられない大らかさでした。

ヤケドやアルコール蒸気の吸引(私はメタノールは使っていませんでした。毒性が強かったからでしょうか...酒税がかからない添加物入りの燃料用エタノールでしたよ!)による嫌悪感など、リスク管理を徹底しないといけないので、それを管理してまで加熱実験に使うメリットはないでしょう。

あえて使うとするならば、実験に対するワクワク感!ちょっとキケンかも...とドキドキしながら目の前で起こる変化に全神経を集中させる。科学に興味がある子供であるほど、魅せられるのではないでしょうか?科学が好きになるきっかけは様々だと思いますが、ケガをしないように自分のテクを磨いて難しいことにチャレンジし、「できた!」という達成感が得られたとき。これも好きになるきっかけにはならないでしょうか?

十分な知識と経験を兼ね備えた監督者が、事故が起こらないように安全に十分配慮・監督した上で、科学好きの子供を対象とした実験教室などでこのようなことを体験するのは教育上有意義かもしれませんね。

いましたよ、小学校のときに、ランプを倒してテーブルが火の海にしたやつが。
なるほどいまどきはガスコンロですか。それが正解だとおもいます。わたしも。
考えてみると、いま私の家にはマッチは一本もありませんよ。非常用にはガスボンベを備蓄しています。小学校の理科室は旧態依然としているものかと思っていましたが、意外に合理的に改革が進んでいるのですね。よかった

いつも色々な方を読ませていただいていますがコメントは初投稿です。
私は、アルコールランプを使わなくなるのは反対です。

上にも出てますがIHなど実際に火を扱う機会と機械が減った今、火(IHで言えば熱)の危険さを教える機会は一体いつになってしまうのでしょうか?

アルコールランプのふたを閉じれば空気が遮断されて火が消える現象も、状態変化のような科学的体験と同じかそれ以上に大切ではないのかなと私は思います。

その役割は家庭かも知れませんが家庭から火がなくなった今理科の授業でやらざるを得ないと思います。

>吉田和人さん
過去にアルコールランプが倒れた事例を経験されたのですね。大事に至らずよかったですね。

アルコールランプをはじめ、理科室にある教材・教具は少しずつ改善されています。とはいっても、一度卒業してしまうとどのように変化したのかを知る機会がないかもしれませんね。この記事を通じて注目していただけたことを嬉しく思います。

ただ、少し付け加えると、ガスコンロが完全に安全というわけではないことにも注意してみると良いかもしれません。一般用のガスコンロは、今回紹介した理科実験用ガスコンロと同じ安全装置が付いているとは限りませんし、使い方が悪ければやはり事故は起こります。ガスコンロによる火災事故も毎年発生しています。

もしよかったら、ご自宅のカセットボンベの製造日を確認してみてください。缶の底に印字されています。7年以内が目安と言われています。

>Yutakaさん
コメントありがとうございます!実際ご友人がアルコールランプが事故に遭う姿を目の当たりにしたのですね。火傷が跡になって今も残っていないことを祈るばかりです。

何がきっかけで科学を好きになり、もっと知ろうとするのかは、本当に人によって多様です。以前中学校で理科の教員をしていたとき、ものすごく成績が伸びた女子生徒がいました。あまりにも伸びるものだから、何かきっかけがあったのかと本人に訊ねると「マッチで火をつけることができるようになったから」だと言いました。それを聞いて「え?そんなことで?」と拍子抜けしたことをYutakaさんのコメントを読んで思い出しました。彼女は私の授業の中でマッチの安全なつけ方を覚え、これをきっかけに実験にも積極的に参加できるようになって理科の学習が面白くなったそうです。何がきっかけで好きになるのか、分からないものだなぁと考えさせられた経験でした。

ですが、この経験こそ、実は指導者の立場としては実験の安全性よりも実験そのものの面白さを優先させてしまう罠になることもあるかもしれません。実験だけが科学の面白さを伝えたり学んだりする方法ではありません。もし実験を大事な学習の機会と捉えるのであれば、なおさら定期的に知識や経験を更新するために研修を受けたり、あるいはガスコンロのように道具そのものを見直したりするのも大切なことだと感じます。

Yutakaさんがこの記事を通じて、体験の意義について私も考えることができました。ありがとうございます。

>やっさんさん
科学コミュニケーターブログへの初コメントありがとうございます!

実際に火を扱う機会と機械(うまい!)が減っているというご意見はなるほどそのとおりだと思いました。もしかすると「教具」としてではなく、学ぶ対象である「教材」としてアルコールランプを使い続けるという道も検討できそうですね。小学校6年理科の「物の燃え方」という単元では、火がどのような条件でつくのか、なぜ消えるのかを、酸素や二酸化炭素と関連付けながら学びますので、そこで活用できるかもしれません。

ただ、実際に何の素材を授業に使うかは担当教員の裁量によります。記事でご紹介したように、小学校の理科の授業では加熱操作での事故が最も多いというのも事実であり、学校はその責任を負っています。ですから、教育的な良し悪しだけではなく、「危険」と「責任」についても、学校と家庭や社会との間で、妥協点を探ることが求められているのかもしれません。

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