「100億人でサバイバル」するための、世界のとらえ方
──未来館の常設展示より

未来館の常設展示を紹介するシリーズの第2回。

「人間」の「共感する」「他者と関わろうとする」性質を確かめた第1回に続き、

今回は視点を「社会」のスケールに広げていきます。

舞台は、2016年にオープンした「100億人でサバイバル」。

世界の人口が近い将来に100億人を超す勢いで増えていることを踏まえ、

社会で人類が、そして私たち一人ひとりが「生き残る」ことを考えます。

紹介するのは「100億人でサバイバル」の中でも、

特に目を惹く大型模型の「あなたの命がおかれた状況」。

あなた」はどこにいるでしょう?

「あなたの命」はどんな状況におかれているでしょう?

しばらく、様子をご覧ください。

赤いボールが転がっています。

手前のドミノに当たると、"ドミノ倒し"が発生します。

赤いボールは人の命や社会を脅かす「危険の種」です。

ここでは「ハザード」と呼んでいます。

そして、ドミノは私たち。そのひとつが「あなた」です。

倒れることは、ケガをしたり、病気になったり、命を失ったりするなど、「被害」を受けることを意味します。

では、ハザードはどこからやってくるのでしょう?

探してみると「感染症」や「台風」、「地震」、「火山」などがあります。

「感染症」を見てみましょう。

生態系の中から発生し、

でも、ドミノがないところに転がっていきました。

次の感染症は、

人間社会を直撃し、"ドミノ倒し"が発生!

人が密集していただけに、かなりの勢いで感染が広がったようです。

黒い坂道(「地球規模での人や物の移動」を現しています)を転がり、海の向こうの人間社会にいってしまいました。

「あなた」のまわりには被害が出ませんでしたが、海の向こうは大丈夫か気になります。

この展示の背景にあるのは、

被害=ハザード×社会の状況

という考え方です。

赤いボールで現された病原体が、人間のいるところにいったり、いないところにいったり、飛行機や船に乗って移動したり。同じハザードでも、人の密集度合いや、交通ネットワークといった社会の状況によって、被害が変わってくるのです。


ここで模型を離れて、現実の世界で考えてみます。

前回記事で紹介した「共感疲労」に当てはめてみましょう。

自分が被災者でなくても、被災地の映像を繰り返し見ることで、精神的な疲労が蓄積する「共感疲労」。その「被害」の背景には、インターネットやメディアの発達で、より鮮明な映像が見られるようになった現代社会の状況がありそうです。

(遠方の「地震」の赤いボールが、高度な通信技術によって瞬時に、「あなた」の目の前にワープしてくるようなものかもしれません。しかも、前回のブログで見たように、人間は「共感」しやすい生き物なので、そのワープしてきたボールからの被害を受けやすいのです)

模型の世界で起こるのも、「感染症」だけではありません。

「台風」が来た......と思ったら「科学技術」で被害が食い止められたり、

「地震」で「科学技術」が倒れ、「汚染物質」が新たなハザードとなって発生したり、

「人間社会」から出た二酸化炭素が陸地や海を温め、「感染症」や「台風」が勢いを増したり......。

海の向こうの社会でも、いろいろなことが起こっています

「What a mess!」
(なんて散らかっているんだ!)

とある外国のゲストから返ってきた感想です。

でも、まさにその通り。

大地や大気のダイナミックな動きと、私たちの社会や行動は、とても複雑に絡み合っていて、私たちはその中で生きています。

そして、「ハザード」の発生自体は止められないけれど、そのハザードから受ける「被害」の内容は、「社会の状況」によって変わり続けていくし、変えていくこともできるのです。

この模型でお伝えしたいのは、「科学」でも「技術」でもなく、そんな「考え方」や「世界のとらえ方」。

個人や社会が「未来をつくる」ための、ヒントになるでしょうか。


【紹介展示】
「100億人でサバイバル」
総合監修:毛利 衛(日本科学未来館)
監修:押谷 仁 氏(東北大学大学院 医学系研究科)
   岸本 充生 氏(大阪大学 データビリティフロンティア機構)
   田近 英一 氏(東京大学大学院 理学系研究科)
※所属は2017年12月のもの。

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