お米が混ざると・・・?
 ──「ビューティフル・ライス」の舞台②

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特別展示「ビューティフル・ライス」展で取り上げている、アジアの「おもしろい田んぼ」を紹介する第2回。


(第1回は、田んぼの真ん中に池をつくって、米と魚を一緒につくってしまう話でした)


監修をいただいた佐藤洋一郎先生(人間文化研究機構 理事)に写真をお借りし、今回は米が実った田んぼを見てみましょう。



まずはヒマラヤ山麓、ブータンから。


20171215_tani07.jpg

提供:佐藤洋一郎氏

見慣れた田んぼとの違いに、気がつくでしょうか?

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よく見ると、稲穂の色や高さにバラツキがあるような。



もう少し分かりやすいのが、この写真。

20171215_tani08.jpg

提供:佐藤洋一郎氏

佐藤先生が訪ねたラオスのある一つの田んぼで、混ぜて育てられていた稲穂を並べて写したものです。


ぱっと見ただけでも、いろいろな種類の米が混ざっていることが分かります。



でも、なぜでしょう?



【お米の種類を混ぜて育てる理由は?】

佐藤先生が現地の農民に尋ねると、「異常気象や病害虫で、全滅しないように」という答えが返ってきたそうです。


米は種類によって、収穫時期、栽培できる気候、病害虫への強さなどが異なります。



「多様性」(※)が大切な理由のひとつは、ここにあります。



1枚の田んぼで混ぜるだけでなく、同じエリア内の田んぼごとに、あるいは、数年ごとに種類を変えることでも、全滅のリスクを下げたり、病害虫の繁殖を抑えたりすることができるのです。




「ビューティフル・ライス」展では、佐藤先生の紹介で石川隆二先生(弘前大学)から種籾をお借りし、ラオスの田んぼに蒔かれていた種を再現しました。


20171121_tani04.jpg種をまくイラストとともに、


20171215_tani09.jpg

ラオスでまかれていた種を再現



DNAで種類を判別すると、この水田では4種類の米が混ざっていたとのこと。

別の村から嫁に来る女性が地元の種を持参するなどして、日々の生活の中でいろいろな種籾を集め、受け継いでいるそうです。




そして、もう一つ。

佐藤先生が農民から得た答えに、こんなものがあったそうです。




「別に、混ぜて育てても困ることはないから」




・・・言われてみれば、確かに。




【混ぜて育てると困る?困らない?】

さて、ここで、現代の日本の米作りを考えてみましょう。

多くの場合、田んぼには同じ種類の米が整然と並んでいます。



20171215_tani10.jpg(イメージ)


スーパーのお米売り場にも、「コシヒカリ」「あきたこまち」といった「品種名」が書かれています。

出荷、流通、販売などを考えると、同じお米をまとめて育てた方がはるかに合理的。



「混ぜて育てると、とても困る」のです。




また、日本全体に視野を広げても、コシヒカリとその近縁種に栽培が集中している、という現状があります。私たち消費者のブランド志向も、背景にあるでしょう。

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作付け2~4位の「ひとめぼれ」「ヒノヒカリ」「あきたこまち」は、いずれも「コシヒカリ」を"親"としています。つまり、作付けの計60%以上が、「コシヒカリ」とその"子ども"ということになります。さらに、5位の「ななつぼし」も(図からは割愛しましたが)「コシヒカリ」を"曾祖父"とする品種です。


今や日本中にコシヒカリをはじめとするブランド米が流通し、いつでもどこでもおいしいお米が手に入ります。その恩恵は、計り知れません。


ただ同時に、お米の多様性は、田んぼ1枚で見ても、国全体で見ても、下がりつつあるようです。

それは、未知の病害虫や気候変動などに対して、弱くなっているかもしれないということです。


昔の田んぼをそのまま再現するのは違うかもしれませんが、1枚の田んぼに見える光景が国や時代の米作りに通ずる部分もあるでしょう。




育てるお米の種類は「混ざっていると困る」のか、「混ざっていても困らない」のか、あるいは、ある程度「混ざっていないと困る」のか――。



佐藤先生がアジアの農民から聞いた言葉には、大きな問いが含まれているかもしれません。



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※コメの「多様性」について

生物多様性には、「田んぼも草原も池もある」という「生態系の多様性」と、「いろいろな動植物がいる」という「種の多様性」、「コメにもいろいろある」という「(種内の)遺伝的多様性」との、3つの視点があります。

そして、「コメの遺伝的多様性」を考えるときに、「品種」の数はひとつの指標になります。「品種」が異なるコメは、遺伝的にも異なるコメだからです。

また、同じ「品種」のコメであっても、「遺伝的にすべて同一」ではありません。そして、伝統的な米作りほど、同じ「品種」の中に遺伝的なバラツキが見られる傾向があるようです。端的に言えば、「品種という概念がおおざっぱで、多少違ってもよく似たコメは同じ品種として扱っていた」ということです。

「コメの遺伝的多様性」は、「品種そのもの」の多様性と、「品種内のコメ」の多様性の両方から成り立っています。

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【参考文献、サイト】

コシヒカリより美味い米 佐藤洋一郎
http://amzn.asia/4gcEGqo

農林水産省「食の未来を拓く 品種開発」
http://www.maff. go.jp/j/pr/aff/1111/spe1_03.html

米穀機構「米ネット」品種別作付動向
http://www.komenet.jp/jishuchousa/144.html



【科学コミュニケーターブログ 関連記事】

「田んぼは何を育てるところ?」
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20171218post-777.html

お米を「つくる」「食べる」とは? ――ビューティフル・ライス展、始まりました
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20171121post-775.html



【ビューティフル・ライス展】

特別展示「ビューティフル・ライス~1000年おいしく食べられますように」
開催日時:2017年11月11日(土)~2018年1月8日(月・祝)
開催場所:日本科学未来館 1階 コミュニケーションロビー
参加費:無料(ただし、常設展・企画展への入場には別途料金が必要です)
監修:佐藤洋一郎氏(人間文化研究機構理事)
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1707050921574.html
会期後は巡回展貸出を予定しております。詳しくは、お問い合わせください。