すばる望遠鏡~おおきな鏡の大掃除~

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あっという間に12月末です!! ♪ もういくつ寝るとお正月です。
みなさん家の大掃除は進んでいますか?
今日は寒いから...今日は忙しいから...と先延ばしにしてしまうのが
年末の大掃除...。

という話は、さておき、今日は大掃除といえども、
遠くの宇宙をみることができる「すばる望遠鏡」のおおきな鏡の大掃除についてお届けします。

みなさんこんにちは!科学コミュニケーターの森脇です。
私は、12月中旬にすばる望遠鏡を見学しにハワイ島・標高4200 mのマウナケア山頂へ行ってきました。一緒にいったメンバーはこちら、同じく科学コミュニケーターの志野と清水です。
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(国立天文台すばる望遠鏡村井様撮影:すばる前の科学コミュニケーター)

すばる望遠鏡といえば、日本が世界に誇る大型光学赤外線望遠鏡です。
すばる望遠鏡のすごいところといえば、広い視野でみることができる、そして遠くまで見ることができるところ。遠くまで見ることができれば、私たちは誕生したばかりの状況に近い宇宙の姿を知ることができます。

そんなすばる望遠鏡の性能を支えているのが、主鏡である直径約8.2 mのおおきな一枚鏡です。
一枚鏡としては世界最大級であり、とても滑らかなこの鏡が、天体から出ている小さな小さな光を集めることで遠くの宇宙までみることができます。

さて、そんなすばる望遠鏡を支えているおおきな鏡が、つい先日の2017年12月14日まで約2カ月の間メンテナンスに入っていたことを皆さんはご存知でしたでしょうか。日ごろより、鏡の掃除はすばる望遠鏡の精度を保つためにドライアイスを使って行われていますが、2カ月もの長い時間をかけてきれいにしたのは2013年の夏以来ということで、実に4年ぶりだそうです。
ほら、見てください!こんなにきれいな状態になりました。本当にぴかぴかです!!

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(写真提供:国立天文台 すばる望遠鏡)

どうしてこんなきれいな状態にすることができるのか...気になりませんか...?
その工程を教えてもらったのでご紹介します。

おおきな鏡を取り外す
まず、望遠鏡本体からおおきな鏡を外し、大きなクレーンで下の階の黄色い装置へとおろしてきます。その後、はまっている枠からおおきな鏡を取り外し、洗浄のための装置へと移動します。
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未来館5階のすばる望遠鏡展示(写真撮影:森脇沙帆)

洗剤でごしごし
続いて、鏡の上についているほこりやごみを落とすために水道水と洗剤で鏡の表面を磨きます。どうやるか。...人がモップを使って磨くのです。
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(写真提供:国立天文台 すばる望遠鏡)

この装置上の十字の足場は回転するので、そこにエンジニアの人が立ち、回転に合わせて鏡面を磨きます。(今回は、愛称:く〇もんと呼ばれる男性が磨きました!!く〇もんさん、お疲れ様です!!)
なんだ、人の手か...と思われた方、ちょっと待ってください。
ここからが面白いところです。

アルミニウム膜はがし
おおきな鏡は、ガラスの上にアルミニウムの反射膜がコーティングされてできています。そのアルミニウム膜をはがします。その時に使うのが塩酸です。
塩酸...??アルミニウム......なるほど。

6HCl + 2Al → 2AlCl3 + 3H2 

理科の実験でやったことがある方もいるかもしれません。塩酸と反応してできる塩化アルミニウムは水に溶ける性質をもっているので水溶液になっています。なので、塩酸で処理しておけば水道水や純水で洗い流した時に、くっついていたアルミニウムも一緒に流すことができるのです。
そして見えてきた透明なガラスを、さらにエタノールで洗い流し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させたら、アルミニウム膜はがしの完了です。
※この後、ガラスの表面に傷がついていないか、スタッフの方が目視でチェックします。

アルミニウム膜、ふたたび
さて、アルミニウム膜をはがしたら、また新しい膜を付け直さなければなりません。
ここで登場するのはこちらの2つです。
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(写真撮影:森脇沙帆)

フィラメントといえば、電球の中にあり電流が流れたときに熱と光を発する細いぐるぐるの線がおなじみですが、ここで使うのは長さ19 cmのフィラメント。白熱灯のフィラメントと同じタングステンという金属のぐるぐるの線の上に特殊な加工でアルミニウムが付着しています。このフィラメントはエンジニアの方とメーカーとで試行錯誤してやっとできた努力の結晶です。
約8.2mのおおきな鏡が入る巨大な真空装置の上部に、このフィラメントを288本取り付け、真空状態にしたら準備完了。

電圧をかけます!!!!

すると...
フィラメントに付着していたアルミニウムが蒸発し、まるでスノードームの中で雪が舞うようにふぁっっさ~とガラスの面の上に落ちてきます。
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図:フィラメントに付いていたアルミニウムが放たれる様子

真空状態なので空気に邪魔をされることなく蒸発したアルミニウムはきれいに均一に広がり、ガラスの上に降りてきます。
こうして冒頭でお見せしたぴかぴかのおおきな鏡ができあがるのです。


文章で見ると簡単に思えるかもしれませんが、すばる望遠鏡のある標高4000 m超の環境は、空気が非常に薄く、少し動くと意識がもうろうとしてきます。しかも寒いです。ちなみに森脇の心臓は、酸素をたくさん取り込もうと、ものすごい勢いでバクバクしていました。
そんな環境での、この作業はとても過酷です。

エンジニアの方の汗と、知恵と努力によって、おおきな鏡は大掃除されていたのですね。

すばる望遠鏡による観測は、メンテナンス期間中は中止されていました。それが、このおおきな鏡の取り付け完了で、いよいよ再開です。
このきれいになった鏡をとりつけたすばる望遠鏡が、次にどのような発見をして、私たちに何を教えてくれるのか。楽しみに待ちましょう!


【謝辞】

最後となりましたが、本記事を執筆するにあたり、すばる望遠鏡ハワイ観測所でツアーをして下さった村井里江子さん、主鏡の清浄について詳しくご教授いただいたエンジニアの佐藤立博さん、そして現地スタッフの皆様にお世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。


【参考文献・関連リンク】
国立天文台 すばる望遠鏡HP
アルミニウム蒸着作業にもちいるフィラメントの詳細
https://www.subarutelescope.org/Topics/2006/12/31/suppliment.html
すばる望遠鏡での夏の作業 (1)
https://www.subarutelescope.org/Topics/2001/09/28/j_index.html
日本科学未来館科学コミュニケーターブログ
すばる望遠鏡☆ふもと編 / Subaru Telescope -Base Facility・村嶋 恵
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20120912post-240.html
すばる望遠鏡☆山頂編 / Subaru Telescope☆The Summit・村嶋 恵
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20120914post-241.html

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この記事への3件のフィードバック

謹賀新年
正月なのでゴロゴロしながらブログ拝見しております。
これは真空蒸着ってやつですね。私もかつてやったことがあります。それで真空容器のほうに興味があるんですが、あれだけ大きな鏡を入れるんだから大変ですよね。もしわかれば教えて欲しいんですが、真空度は何トールまで下げるのですか?そこまでさげるのにどれくらいの時間がかかるのですか?それから蒸着するのにかかる時間は何日なのですか?
あと手順について確認したいのですが、上記ブログでは水で洗ってから塩酸をかけるように読めるのですが、アルミを浮かせてから水洗いしているとも書いてあり、どちらの手順が正しいのでしょうか?

>吉田和人様

明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いいたします。
吉田様も真空蒸着をやられたことがあるのですね。いろいろ教えていただきたいです!早速ですがいただいた質問についてお答えします。

まず真空蒸着についてですが、真空度は「10のマイナス6乗トール」まで「4時間」かけて下げます。また蒸着にかかる時間は「約3日間」で、下記の工程で行われます。
1日目:1晩かけて、あら引きしておく
2日目:高真空引きをして、アルゴンガスを流しグロー放電
    アルミがついたフィラメントを蒸発させる
    蒸発後は、そのまま1日置いておく
3日目以降:仕上がりの確認

また水洗いの手順ですが、水洗いは大きくわけて2度登場します。まず「洗剤でごしごし」の段階で、洗剤によって浮いた汚れを水道水で洗い流します。その後塩酸による「アルミニウム膜はがし」の段階でも、浮いたアルミを水道水ですすぎ、さらに純水で洗い流すという手順です。
ちなみに…ブログでは省略しましたが、純水は冷水と温水の2種を使用するそうです。(冷水で流した後に温水という手順)こうすることで、油膜がよりきれいに落ちるのだそう…。

エンジニアの方の技術力と蓄積された知識は本当にすごいですね。これだけの工程を経て主鏡が丁寧に掃除されているのだと思うと、なんだか主鏡に愛着がわいてきてしまう今日この頃です。

森脇様
ご返答ありがとうございました。次はTMTについて教えてください。

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