食べたお米は、何になる?
 ──「ビューティフル・ライス」の舞台③

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アジアの農村には、おもしろいトイレもあるんです!


特別展示「ビューティフル・ライス」の舞台となったアジアの農村を、監修者の佐藤洋一郎先生(人間文化研究機構理事)の体験から紹介していく連載記事。

詳しく紹介したいトピックがまだまだ残っております。

未来館での展示は1月8日で会期を終えましたが、どこかの巡回展でまた見られるかもしれないし・・・(お問い合わせ、お待ちしております!)。ささやかな期待も込めて連載を続けますので、どうぞお付き合いください。


20180117_tani07.jpgビューティフル・ライス展



第2回まででお米を「つくる」現場の田んぼを紹介したので、今回は続きを考えます。

「田んぼは何を育てるところ?」
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20171218post-777.html

「お米が混ざると・・・?」
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20171221post-778.html



田んぼでつくったお米や魚は、みんなで食べますよね。

では、食べた後は、何になるでしょう?


体の中で消化、吸収されて...

...

...

そう、うんこです。


食べるもの食べたら、出すもの出さにゃいかんわけです。

(熱やエネルギーになったり、血や身体になったりする部分もありますが、今回は排泄物について考えます)



というわけで今回は、

「佐藤先生が見た、アジアの面白い田んぼ」をあらため、

「佐藤先生も経験した、アジアの面白いトイレ」。



テーマがテーマなので、類似の描写を文献で紹介します。



その、なんというか、絵的にはあんまり美しくない(ビューティフル・ライス展なのに・・・)ので、少しだけ心の準備をして、お進みください。


...


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...


20180117_tani01.jpg

「南島雑話」より(提供:奄美市立奄美博物館)



...なんつーか、スゴイですよね。


人間のうんこを、ブタが待ち構えるように食べています。



「南島雑話」は、1850年代の鹿児島県・奄美大島の生活をまとめた文献。

似たようなトイレは、現在もアジア各地に存在するのです。



佐藤先生は、ミャンマーでのフィールドワークの際に体験したとのこと。

(足場は高床式でもう少ししっかりしていて、周りからも見えない造りだったそうですが)



「宿でトイレに行こうとしたら、スタッフから長い竹棒を持たされた」

「何のためかと思ったら、豚を追い払うためのものだった」

「下に動物の気配を感じながら、用を済ませた」

「帰ろうとすると、出したものはあとかたも残っていなかった」



想像してみると、ほんとにワイルドです。


20180117_tani02.jpg

展示では、すこし可愛らしくつくってあります




【科学の視点でひも解くと】

さて、このトイレで起こっていることを、科学の視点で見てみましょう。



まず、なぜブタは、人間のうんこを食べるのでしょうか?

それはもちろん、栄養が含まれているからです。

人間のうんこの中身は、こんな感じ。


20180117_tani03.jpg
科学コミュニケーターブログ「うんこのなかみ」より
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20110617post-13.html



腸内細菌の死骸(10~15%程度)や、腸壁細胞の死骸(15~20%程度)などに「タンパク質」が含まれているのです。



ブタや水牛、鶏といった家畜たちは、人間のうんこや食べ残し、生ゴミ、稲わらなどを食べます。

その栄養が家畜たちの肉になったり、またフンになったりします。

(佐藤先生は、水牛のフンに家畜のアヒルが集まって、フンの中の虫を食べている様子も見たことがあるとのこと)


「『生きる』ということは、排泄物や生物そのものを通じて、他の動植物と『命を交換』すること」と佐藤先生。

排泄物は、生物同士をつなぐ重要な要素なのです。

そして、元をたどれば、田んぼで生産された米と魚。

最終的に田んぼに運んだり、流し込んだりすることで、再び「養分」になるのです。


20171120_tani11.pngのサムネイル画像

養分を田んぼに「かえす」ことで、サイクルがつながります



【現代はトイレに流すと、どこへ行く?】

さてさて、例によって現代社会で考えてみると。


たとえば食糧を大量に輸入している日本で、全ての排泄物を堆肥にしたら、とても使いきれません。

かといって、堆肥を元の生産地まで戻そうとしても、エネルギーやコストが本末転倒になりそうです。


その代わり、下水処理技術が進んでいます。


20180117_tani04.png

未来館のトイレ



トイレに流した排泄物は、浄化槽や下水処理場で分解されます。

重要な「養分」の窒素は、微生物によって窒素ガスに変えられて大気に放たれます。


残った汚泥も大半は、埋め立てられたり、レンガの材料になったりして、物質の循環からは外れます。

バイオマスとして再利用されているのは、汚泥のうちの25%程度。

「養分」としての利用で考えれば、約1割にとどまります。


20180117_tani05.png



生産地ではその分、主に化学肥料という形で「窒素」を補充します。

大気中の窒素を、化石燃料のエネルギーで化合物にして、植物に与えているのです。

(下水処理場での「脱窒」と合わせ、大気を経由した大きな「循環」と解釈することもできます)


もうひとつの重要な養分である「リン」は、輸入でまかなっています。


20171120_tani12.pngのサムネイル画像

養分は再利用よりも補充が多くなりました



当面は、それが最も合理的かもしれません。



排泄物を再利用しなくても、食糧生産に必要な窒素は大気中に「無尽蔵」と言っていいほどあります。

それに「衛生」というメリットは、とても大きなものです。



ただ、より長いスケールで「持続可能」を考えるならば。


食糧生産の養分を、有限の化石燃料に頼ったままで大丈夫か?

窒素を大気から人工的に取り込みすぎて、大地や海の環境に影響しないか?

「リン」は輸入し続けることができるのか?


などの視点が出てきます。



私たちが「食べる」食糧は、元をたどればどこから来て、食べた後にどこへ行くのか──。

私たちは、どのように他の動植物とつながっているのか──。

生産と消費の距離が離れた現代だからこそ、思いを馳せてみたいと思うのです。

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【参考文献、サイト】

ウンコに学べ! (ちくま新書) 新書 (有田 正光 / 石村 多門)
http://amzn.asia/5zHNmSq

国土交通省「資源・エネルギー循環の形成」
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000124.html



【科学コミュニケーターブログ 関連記事】

「お米が混ざると・・・?」
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20171221post-778.html

「田んぼは何を育てるところ?」
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20171218post-777.html

お米を「つくる」「食べる」とは? ――ビューティフル・ライス展、始まりました
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20171121post-775.html



【ビューティフル・ライス展】

特別展示「ビューティフル・ライス~1000年おいしく食べられますように」
開催日時:2017年11月11日(土)~2018年1月8日(月・祝)
開催場所:日本科学未来館 1階 コミュニケーションロビー
参加費:無料(ただし、常設展・企画展への入場には別途料金が必要です)
監修:佐藤洋一郎氏(人間文化研究機構理事)
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1707050921574.html
会期後は巡回展貸出を予定しております。詳しくは、お問い合わせください。



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