人の営み、地球の営み
 ──「ビューティフル・ライス」の舞台⑤(完結)

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最後はやっぱり、田んぼを紹介します。



未来館で2018年1月8日まで開催した「ビューティフル・ライス」展に合わせ、舞台となったアジアの農村を、監修者の佐藤洋一郎先生(人間文化研究機構理事)の写真や体験談で紹介する連載記事。



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佐藤先生には、未来館のイベントでも「田んぼ」を紹介してもらいました



アジアの面白い田んぼを紹介した第1,2回に続き、第3,4回は食べたあとの「養分」、つまり排泄物や肉体の行方を考えました。

「ビューティフル・ライス」展 関連記事一覧
http://blog.miraikan.jst.go.jp/cgi-bin/mt/mt-search.cgi?IncludeBlogs=153&tag=Beautiful%20Rice&limit=20



見えてきた物質循環を踏まえ、今回はみたび、佐藤先生が歩いたアジアの昔ながらの田んぼを紹介したいと思います。


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佐藤洋一郎氏



まずは、こちら。


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提供:佐藤洋一郎氏



ぱっと見、平らな水田が広がっているようにも見えますが、よく見ると水が深そう・・・。



分かりやすいのは、この写真でしょうか。

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提供:佐藤洋一郎氏


水深、かなりありますね。



これは、「浮き稲」と呼ばれるタイプの稲。

タイやカンボジア、バングラデシュなどで、1年の一定期間が洪水で冠水する地域に見られる光景だそうです。



乾季の、まだ冠水していない時期に種をまきます。

芽を出した稲が成長すると、やがて雨季になり、川の氾濫や湖の拡大によって冠水します。

水位が上がっていくと、稲も負けじと茎を伸ばし、水面より上に出た葉で呼吸と光合成をします。

水位は、高いところで5mを超えるそうです。



根から葉までを逆さに吊すと、丈の長さがわかります

20180129_tani05.jpg提供:佐藤洋一郎氏



おもしろいのは、養分の吸収方法。


長く伸びた茎の節から、「不定根」と呼ばれる根が生えてきて、養分を水とともに吸収します。

雨季の冠水は、養分が水に溶けて流入することを意味します。その自然の循環から、養分をうまく「もらう」ような生態が、浮き稲にあるのです。(逆に、土に肥料を与えても流出してしまうかもしれません)




【山の斜面で】

もうひとつ、ちょっと変わった稲作を紹介します。



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佐藤先生がラオスに調査に出かけた際、飛行機で古都ルアンパバーンに着陸する前に見た景色です。


山ばかりの景色のどこで、どのようにお米をつくっているでしょう?


実は、山の斜面でこのようにお米をつくっていました。


20180129_tani07.jpg提供:佐藤洋一郎氏


「田んぼ」ではないですね。いわゆる「焼き畑」です。


焼き畑は森を焼いて、その灰に含まれる養分で米や野菜を育てます。

数年で土地が痩せてくると、しばらく休ませ、その間は「別の畑」を拓いて食糧をつくります。

休んでいる土地には、やがて木が生え、森になっていきます。

そうして数年後、再び育った森をまた焼いて、今度は「別の畑」を休ませるのです。



20180129_tani08.jpg提供:佐藤洋一郎氏



元来の焼き畑は、数カ所の土地を数十年単位でローテーションしていく、持続的な食糧生産の方法。森の成長という、自然が持つ回復力を逸脱しない範囲で、養分を「もらう」のです。




【生態系の多様性】

浮き稲や焼き畑から見えてくるのは、生物多様性の視点のひとつである「生態系の多様性」です。


(生物多様性には、「いろんな景観がある」という「生態系の多様性」と、「いろいろな動植物がいる」という「種の多様性」、「コメにもいろいろある」という「(種内の)遺伝的多様性」の、3つの視点があります)


「いろんな景観があるのは、とても大切なこと」と佐藤先生。持続的な農村の生態系は、水田だけでなく、地形や環境等の条件に応じたさまざまな形がある、ということです。



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展示でも、アジアのさまざまな田んぼを大画面のスライドショーで紹介しました


20180129_tani12.gifその一部を抜粋
Part of the image collection of the International Rice Research Institute (www.irri.org)





【人の営み、地球の営み】

佐藤先生は言います。


「『水田ならば必ず持続可能』というわけではない」


たとえば近代農法は、化石燃料への依存などから持続可能性に疑問符が付きます。


そして昔ながらの米づくりを考えても、「土地を休ませたり、火にかけたり、洪水で"リセット"したり、というのは各地であっただろう」。凶作や災害もあったはずです。



「毎年すべてを同じにするのではなく、何かあっても受け入れられる余裕や心構えがあること。それが、より長いスパンでの本当の『持続可能』につながるのではないか」



今回紹介した「浮き稲」と「焼き畑」は、特に厳しい環境条件での食糧生産。収穫量は近代農法に及びません。

ただ、だからこそ、自然の循環に合わせて「たべる」という営みを組み込んだ人間の姿勢が、浮かび上がってくると思うのです。



生きるために「たべる」。

そのために「つくる」。

でも「つくる」の前には養分を「もらう」必要があって、

「たべる」のあとには「かえす」がある──。



もらう→つくる→たべる→かえす のサイクル(展示映像より)

「ビューティフル・ライス」展では、そんな人類の営みが元来、大きな地球の営みの中にあったことを見てきました。



ではそれを、21世紀から未来に向けて与えられた条件で、どう考えていくのか。


地形や気候だけでなく、持続可能性、物質循環、エネルギー効率、生産性、コスト、環境負荷、個人の幸せ、味、安全性、社会構造...。

いろんな要素と、いろんな立場の人が関わる、正解のない課題です。



続きを何らかの形で深め、また発信できればと思います。

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【謝辞】

最後になりますが、特別展示「ビューティフル・ライス」の監修から本連載の執筆にあたるまで、佐藤洋一郎先生に大変お世話になりました。この場を借りて、あらためまして厚く御礼申し上げます。

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【「ビューティフル・ライス」展 関連記事】

お米を「つくる」「食べる」とは? ――ビューティフル・ライス展、始まりました
展示の概要説明です
http://blog.miraikan.jst.go.jp/event/20171121post-775.html

連載①「田んぼは何を育てるところ?」
お米と一緒にタンパク源の魚を生産するお話です
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20171218post-777.html

連載②「お米が混ざると・・・?」
お米の「遺伝的多様性」のお話です
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20171221post-778.html

連載③「食べたお米は、何になる?」
排泄物の行き先から循環を考えます
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20180119post-780.html

連載④「葬送とお墓を考える」
「食べる」「生きる」の先にある肉体の「死」のお話です
http://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20180123post-781.html

連載⑤「人の営み、地球の営み」
この記事です



【ビューティフル・ライス展】

特別展示「ビューティフル・ライス~1000年おいしく食べられますように」
開催日時:2017年11月11日(土)~2018年1月8日(月・祝)
開催場所:日本科学未来館 1階 コミュニケーションロビー
参加費:無料(ただし、常設展・企画展への入場には別途料金が必要です)
監修:佐藤洋一郎氏(人間文化研究機構理事)
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/1707050921574.html
会期後は巡回展貸出を受け付ける予定です。詳しくは、お問い合わせください。