介護って何が大変なのだろう?① 家族の体験

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ある日の昼下がり、未来館スタッフの増田雄太(30代、男)が自身の介護体験について語ってくれた。

その話を医療や福祉に興味を持つ科学コミュニケーターの小幡、西岡、本田が聞いた時の話である。

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■祖母の病

本田:増田くんは介護を理由に前の会社を退職したと聞いたけど...

増田:そうそう。26歳の頃、祖母がクロイツフェルト・ヤコブ病と診断されて、そこから2年半、家族といっしょに介護を経験したんだ。治療法もないし、国立病院でも受け入れが難しかったこともあって、家族で最後まで自宅介護しようと決めた。

本田:自宅介護には家族の協力や理解も必要だったでしょ?

増田:最初は祖母と暮らす母がメインで介護、それを伯母と自分がサポートしていた。みんな働きながら介護してきたんだけど、祖母が寝たきりになる頃にはこの体制だと限界で、前の会社を退職して母と自分がメインで介護することにしたんだ。この状況にあう休暇制度がなかったこともあるけど、なにより祖母のことが世界一好きだったし、退職することについてはそんなに迷わなかったな。

西岡:そんな大好きなおばあさまを介護するときの気持ちは苦しかったよね...

増田:思い出すことはもう大丈夫だと思っていたけど、やっぱり今でも少しつらいね。

本田:思い出させてごめん。

増田:いや、もし何かの役に立つなら話すよ。2年半の介護経験だし、自分の目線でしか話せないから、あまり一般的ではないかもしれないけど。

本田:ありがとう。良かったらその後の話、聞かせてもらってもいいかな。

■祖母の状況と家族の感情

増田:自分のあの頃の感情にはすごく移り変わりがあって、最初の頃は病気についても介護についても実感がなくて、それこそ祖母の状況を現実として受け止められなかった。現実が見えてくると、家族を失う絶望感やあきらめみたいな気持ちがあったものの、祖母が動けるうちはまだ穏やかだった。

本田:そこから変わってきたタイミングがあったのかな?

増田:そうだね、祖母がだんだんと人間的な機能...たとえば歩けなくなったり、声や表情でコミュニケーションが取れなくなってきたりしてしまうと、悲しみや不安などがストレスに変わり、介護している家族の間で言い争いが増えたり、本来介護と関係のない自己否定が起きるとか、抜け出しがたい負のスパイラルに陥った。

西岡:なんだろ、それってどういう感じなのかな。

増田:うーん、様々な感情が全部MAXの強さで出てくる感じ。

自分の将来への不安感も強くなったし、早く介護が終わることを望んだり...

一方で愛する人にいなくならないでほしい思いも同様に大きくなり...この相反するものを抱える自分にまた苛立ったり...また別の角度だと、自分としても周りから「良き介護者」と思われたい気持ちもどこかにあったけど、できない自分に苛立ったり...

本田:いろんな欲も出てくるし、自分を保っていくのすら大変な状況になるんだね。

小幡:仕事と両立させつつ、この環境に1人で向かい合うのはとても難しいね。

■祖母の生死との向き合い方

増田:言い方が難しいけど、祖母が「人として死んでしまった」と思う瞬間があって、その時には涙が止まらなかったし、一番つらい時期だった。この瞬間から実際に他界するまでに1年半くらいあったけど、このことがきっかけで気持ちが切り替わりはじめて、恩返しの気持ちの方が徐々に強くなっていった。寝たきりになってからの排泄のお世話も、夜中のたんの吸引も、床ずれの洗浄も、ストレスに感じなかったな。睡眠不足は辛かったけどね。

母は母でまた違っていて、祖母が他界するまで、体の柔らかさや温かさを感じられるだけで優しい気持ちでいられたとか。僕は最初からそんな強い気持ちは持てなかったし、向き合い方は人それぞれだなって。

本田:増田くんにとっては、実際の死よりも人としての死の方がつらかったのかな?

増田:そうだね。実際に他界した時には、つらい気持ちより、やりきった気持ちの方が大きかった気がする。

■メイン介護者の心境

本田:増田くんがおばあさまと仲良かったように、メインで介護されていたお母さまも仲が良かったの?

増田:昔から特別仲が良かったわけではないけど、実は祖母を亡くす前に祖父を亡くしていて、それを転機に、母の心境が変化した気がする。「私が最後まで看る!」という決意があった。実は祖父は介護申請を出したその日に急逝という状況で、母としては心残りの思いが強かったのかもしれないね。端から見ていて、心配になるくらい頑張りすぎという印象だった。

西岡:たしかにそれはつらい状況だったし、おばあさまにはできる限りを尽くしたい気持ちが強くなるのもわかる気がする。でもお母さまはその張り詰めた状況で大丈夫だったの?

増田:母は、祖母が他界した後、何かにすがりたいような不安定な状態が少し続いていた気がする。自分はなるべく母に会う時間を増やして、周りの人と関わるように勧めたりして、心配がなくなるまでケアを心がけたよ。

小幡:すごいなぁ...そういう息子の存在は大きかったと思う。

■セラピーの役割

本田:介護の何が大変かというのは、病気の症状や介護する家族の気持ち、環境によっても大きく違ってきそうだね。

西岡:最近は、アニマルセラピーや音楽療法などいろんなセラピー活動があって、それによって介護される本人が、今ある力を維持できたり、状態を良くしたりできるようなことが取り組まれ始めているよね。そういう本人の満足感が高まるような働きかけは、介護をサポートする家族にもいい影響を与えることが期待されている。

小幡:自分は教育心理学を学んで、博士課程で音楽療法に出会った。音楽療法もいろいろなパターンがあるけど、おばあさまには何か取り組んでもらったりしてたのかな?

増田:実際に音楽療法とまではいかなかったかもしれないけど、祖母にたくさん音楽聞かせたりはしていたかな。

小幡:そうなんだね。いろんな場所で音楽は取り組んでいるところが多いと思うけど、音楽療法としてはまだまだ裾野が広がってないかもしれない。自分が大学で聞いていた話では、「エビデンスがないと現場では使えるようにならない」、ということだった。

本田:エビデンスって、科学的に効果があるという証拠みたいなもの?

小幡:そうそう。今のところ、音楽療法では認知症、パーキンソン病、失語症の患者さんに対してたぶん有効だと言えそうな研究事例は出てきているんだよね。でももっとエビデンスが必要だとされてる。

西岡:アニマルセラピー、私の参加していた団体では「人と動物のふれあい活動」と呼んでいたんだけど、高齢者施設や病院など活動の幅を広げていた。動物たちのふれあいを通して、介護されている人たちが生き生きとした表情を見せてくれるのはもちろん、介護する家族の心境の変化にも貢献していたように思う。そこは生き物の力かも?とはいえ、動物を施設や病院に持ち込むことへのハードルなんかはあるみたいだったな...。

本田:園芸療法学会は2008年に設立されて、アカデミックな議論は徐々にされてきているよ。認知症や精神疾患の方に対して実施されることが多い印象。こういう分野は少しずつしかエビデンスが蓄積できないよね。でも植物が育っていく時間そのものやそういう時間の中で自分と向き合ったり、他者と共有するのがとっても大事らしいっていうことは、事例としてたくさんあるんだよね。

増田:もう少しそれぞれのセラピーの話を聞いてみたいな。

本田:私も他のセラピーの話を聞いてみたい!各セラピー活動がどのように取り組まれているのか教えてほしいな!

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次回以降は、小幡が音楽療法、西岡が動物介在療法、本田が園芸療法、をご紹介します!

介護って何が大変なのだろう

 ① 家族の体験から(この記事)
 ② 音楽と脳の関係
 ③ 動物との絆を生かした取り組み
 ④ ガーデニングがリハビリに?!
 ⑤ 私たちにできること