介護って何が大変なのだろう② 音楽と脳の関係

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※本ブログは5回シリーズになっています。

介護って何が大変なのだろう
 ① 家族の体験から
 ② 音楽と脳の関係(この記事)
 ③ 動物との絆を生かした取り組み
 ④ ガーデニングがリハビリに?!
 ⑤ 私たちにできること

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本田:小幡さん!音楽療法が一番一般的に聞いたことあるワードだと思うから、トップバッターよろしく!

小幡:一番かどうかはわからないけど、言葉としては聞いたことがある人が増えてきたかもしれないね。さてさて、突然だけど、皆さんの周りにはどんな「音楽」があるかな?

西岡:私はよく音楽を持ち歩いて聴いてるなぁ。

増田:カラオケとかフェスとかライブコンサートとか行く人もいるね。

小幡:そう、音楽を受動的に聴くのも、能動的に自分から歌ったり、演奏したり、いろんなパターンがあるよね。どちらにしても、音楽をどういう風に楽しんでいるのかっていうのを考えると、実は3つの要素があるんだ。

① 「メロディ」(旋律・音階)

② 「ハーモニー」(和音)

③ 「リズム」(テンポ・速さ)

本田:たしかに、メロディを口ずさんだり、なんとなくリズムを足で刻んでたりするね

小幡:音楽を聴いた時に、人は脳の中で、ものすごく多くの情報を処理しているんだ。嬉しい、悲しいなどの情動や、過去の思い出・歌詞なんかも記憶として脳から引き出されてる。

本田:今でも自分が頑張ってたときに聞いていた音楽を聴くと、なんだかじーんと涙ぐんでくるのはそのせいか...音を聴いた時に、昔の記憶が引き出されて、その時の感情も引き出されているってことなのね。

小幡:実際に音楽を聴いたり、演奏している際の脳の様子も研究されていて、研究者は「まるで全身で運動しているかのような脳の働き方だ」と言っていたりする。それくらい音楽を聴くと脳が活発になるってことがわかってきたんだ。

増田:最近、認知症の予防に運動がいいって聞いたことがあるんだけど、音楽でそんなに脳が活発になるなら、音楽を聞くのも予防効果があるのかな?

小幡:素晴らしい視点!実は三重大学の佐藤正之先生と一般財団法人ヤマハ音楽振興会、三重県御浜町、紀宝町の産官学連携で、認知症予防のための運動プログラムに音楽を導入したらどうなるかという研究が進んでいるんだ。

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(ヤマハ音楽振興会プレスリリースより引用)

西岡:おお!産学連携でそんなことができるんだね。むしろ産学連携しなければこういう研究は難しいよね。

小幡:このプロジェクトは三重県御浜町、紀宝町の65歳以上の健常な高齢者120人ほどを3つのグループに分けて行った1年がかりの調査なんだ。音楽と運動を組み合わせたエクササイズを行うグループ(音楽体操群:40名)、運動のみを行うグループ(体操群:40名)、脳検査のみを行うグループ(脳検査群:39名)の3つで、プロジェクトの始まる前と1年後に検査をして、効果を検証したものなんだ。

本田:音楽と体操の組み合わせって、エアロビクスみたいなイメージでいい?

小幡:そんなにアップテンポではなくて、「歩く」という動作を基本に音楽を合わせるようなものや、手足でリズムを刻むような感じ。決して難しい動きではないよ。検査した項目もたくさんあって、頭の画像をMRIで撮ったり、心理・知能検査、血液検査など多岐にわたったりしていて、どの部分に効果があったのかを詳細に調べたんだ。

その結果、とくに何もしない脳検査群と体操のみ実施した群には1年後特に変化はなかったけど、音楽と運動を組み合わせた音楽体操群の人たちで認知機能(*1)や視空間認知(*2)に関するテストの点数が、有意に高い(*3)結果になったんだ。

西岡:お~、健常高齢者の認知機能の維持・改善に有効であるってこと?

小幡:そうだね。今回被験者数が各群で40名程度で少ないからだと思うけど、とくに何もしない脳検査群と体操のみ実施した群に有意な差はなかったんだ。でも、もともと他の研究で運動による効果は証明されているんだよね。その運動することによる高齢者の認知機能への改善効果に加えて、音楽による上乗せ効果があったのではないかと考えられている。

増田:上乗せっていうのは?

小幡:さっき話したように、音楽を聴くだけでも脳は複雑な処理をしている。体操と音楽を組み合わせると、BGMに合わせて体を動かしたり、リズムを覚えたり、それがうまくいったら楽しいという感情もわき上がってくるよね。こんな風に、さらに複雑な処理をすることで、脳が活性化しているんじゃないかってこと。

本田:ただ体操するより、音楽に合わせて体操する方が難しいことをしているってことなんだね。

西岡:2025年...ってあと7年後だけど、それまでに認知症患者さんが700万人になるという推定も出ている中で、こういう音楽も取り入れたプログラムを導入することで予防できたら、この数も抑えられるのかな。

小幡:どれくらい抑えられる、というような具体的な数字は出せないけど、予防効果は期待できると思うし、認知性の患者さんに対する研究も進められているんだ。

認知症の方々は、新しい学習が難しかったり、いったん忘れた記憶を思い出したりするのが難しいと一般的に考えられてきたけど、歌を使った研究では、半年間歌唱のトレーニングを行った後、行動や脳に変化が見られたという報告がある。認知性の患者さんが何年も操作できなかった携帯電話を再び使えるようになったり、長い間忘れてしまった娘さんの名前を思い出したという行動の変化が見られた。また、脳の変化を調べてみたら、トレーニング前に比べて、歌唱中の脳の活動領域が狭まったことがわかった。これは、脳がある課題に対して新しい戦略を獲得し、効率よく脳を使うようになった結果であるとされる(*4)。

増田:そういう変化が見えてくると、介護している家族にとっても精神的な部分で助けになりそうだね!

小幡:ただし、こういう研究結果は、認知症患者さんに新しい提案をしていけるかもしれないけど、研究自体が「今、まさに」進んでいるとこなので、すぐに結果が出るわけではないのがもどかしいところ。

本田:たしかに。医療や福祉の研究は困っている人が今、目の前にいる中で進めていくわけだから、急ぐ気持ちもあるけど、急いだために間違った結果が出て、間違ったまま世の中に出るのは避けなきゃいけない。だから、音楽療法の分野でも、ここは慎重に進んでいってほしいな。

小幡:そうだね。自分も研究者の端くれとして、心得ておきたいと思う。

西岡:音楽療法の研究のことはわかったけど、実際はどれくらい広まっているんだろう?

小幡:日本音楽療法学会が2001年に発足して、音楽療法士を認定する制度を整えているよ。2016年には5500名ほどの会員がいるというから、規模としては大きくなっているなという印象。

本田:私の知り合いに音楽療法で仕事をしようと自分で起業して頑張っている人もいるんだ。他にも派遣会社を経由して、音楽療法のお仕事をしている人達もいるみたい。施設を対象に行われることが多いみたいだけど、訪問音楽療法という活動を展開している事業所もあったよ。

増田:じゃあそういうところに問い合わせれば、身内に音楽療法が必要かもっていう時には相談できるんだね。とにかく、そういう窓口がわかりやすいことは大事だね。

西岡:音楽療法...これからの発展に期待していきたいね。ということで、次は私、西岡が動物介在療法についてご紹介してもいいかな?

本田:いいともー

<次回へ続く>

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※利益相反に関する記載

この記事で紹介している研究は2014年のもので、小幡は研究に関わっていませんが、小幡自身は現在ヤマハ株式会社研究開発統括部に勤務しています。

<参考URL>

日本音楽療法学会HP

http://www.jmta.jp/

一般財団法人ヤマハ音楽振興会 プレスリリース

http://www.yamaha-mf.or.jp/pr-release/2014/2014-8.html

*1:今回用いられたテストはMMSE(ミニメンタルステート検査)といって、認知症の診断用に米国で開発された質問セットです。「今年は何年ですか」などの30点満点の質問から構成され、見当識、記憶力、計算力、言語能力、図形認知などを検査します。24点以上で正常、10点未満では高度な知能低下、20点未満では中等度の知能低下と診断されます。

*2:視空間認知とは、物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が三次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する能力をいいます。視空間認知能力を測るには、いろいろな図形の模写を用います。今回紹介したプロジェクトではStrub&Black(2000)の方法に従い、立方体や複合三角形、十字架など5つの図形の模写を採点しました。

*3:有意に高いとは、「統計的に有意」ということで、「仮説」と「実際に観察された結果」との差が誤差では済まされないことを意味します。 例えば、投薬による治療効果の検証では、偽薬を投与した人たちと実薬を投与した人たちとの間で症状が改善された人数を比較して、その差が偶然得られる確率を計算します。 この確率が十分に低ければ有意であると表現します。

*4:Music Therapy Using Singing Training Improves Psychomotor Speed in Patients with Alzheimer's Disease: A Neuropsychological and fMRI Study

Masayuki Satoh,a,* Toru Yuba,b Ken-ichi Tabei,a Yukari Okubo,b Hirotaka Kida,a Hajime Sakuma,c and Hidekazu Tomimotoa)

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