介護って何が大変なのだろう③ 動物との絆を生かした取り組み

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※本ブログは5回シリーズになっています。

介護って何が大変なのだろう
 ① 家族の体験から
 ② 音楽と脳の関係
 ③ 動物との絆を生かした取り組み(この記事)
 ④ ガーデニングがリハビリに?!
 ⑤ 私たちにできること

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■アニマルセラピーってどんなもの?

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写真提供:大塚敦子氏

本田:私は植物が専門だけど、動物を使ったセラピーもあるよね?「アニマルセラピー」っていうのかな?

西岡:「アニマルセラピー」は聞き覚えのある人が多いかもね! ところで、セラピーって誰を対象にどんな活動をするのかいろいろあるように思うんだけど、本田さんはどういうイメージを持ってる?

本田:セラピーという言葉自体は「治療・療法」という意味だけど、日本では治療行為が行えるのはお医者さんだけだから、この言葉のニュアンスは実は難しいかも。でも患者さんの症状を回復させるような意味として使われるよね。

西岡:なるほど。私は、日本動物病院協会主催の「アニマルセラピー 人と動物のふれあい活動」に参加したことがあって、そこではアニマルセラピーの中に、「動物介在活動」「動物介在療法」「動物介在教育」の3つがあった。それぞれ目的が違うかんじ。

本田:へー、それぞれどんな活動なの?

西岡:動物介在活動は、高齢者施設などでレクレーション、つまり楽しみを提供するもの。動物介在療法は、病院やリハビリ施設で補助療法として取り入れられるもの。動物介在教育は学校で情操教育のひとつとして取り入れられているもの、といったイメージかな。

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動物介在教育 ペットの犬との挨拶を教わる小学生

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動物介在活動 高齢者施設でベットサイドを訪問
写真提供:大塚敦子氏

増田:へー、アニマルセラピーと一言に言っても、幅広いね。3つの活動は、目的が違うということだけど、それぞれどんな効果が期待できるの?

■アニマルセラピーで期待される効果とは

西岡:うーん、「動物介在活動」は、ふれあう楽しみを提供する取り組みだから、何かができるようになるといった、明確なゴールを定めた活動ではないけど、情緒的な安定やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上には、とても貢献できる活動だよ。活動を導入している高齢者施設や小児病棟、ターミナルケア病棟では、定期的な訪問を心待ちにしている人たちに、期待の感情が生まれ、それが活力に変わっている実感はあったよ。

本田:植物の成長を楽しみ待つのと似ているかも。その実感はどんなところで感じた?

西岡:高齢者施設で、毎回おなじ猫の訪問を心待ちにしているおばあさんの姿が印象的だった。膝の上に乗せて、幸せそうな表情で、いつまでも撫でていた。その姿を写真に撮らせてもらったら、ぜひほしいというリクエストをもらったほど。後日郵送したら、お礼にお葉書をもらった思い出がある。動物を介して、私も素敵なコミュニケーションが図れた嬉しい体験だったな。ちょっと主観的になってしまうけど......。

小幡:そうか......音楽療法でも課題として紹介したけど、効果が明確じゃないと、利用してもらったり、普及したりするのにハードルがあるんじゃない?

西岡:そういう意味では、「動物介在療法」の事情は少し違うよ。

小幡:もう少し詳しく聞かせて!

西岡:治療やリハビリが目的だから、効果が求められることは当然だよね。まず、患者さんが必要とする動きを、うまく引き出せる動物を選ぶこと。ボール投げやブラシかけ、首にバンダナを巻いてあげる、といった行為と、それに適する動物を選ぶ。そして活動は記録され、専門家による評価、判定を行うという手順が必要とされているよ。

本田:効果がなければ治療にならないもんね。

小幡:でもちょっと待って! 挙げてもらった例だと、わざわざ動物を介入させる意味があまりないんじゃない? 動物がいなくても、ボールは投げられるし、ブラシもかけられると思うけど。

西岡:それ、すごくいいポイント! 動物だからできることもあるんだよ。動物は明るく楽しい気持ちを生み出して、心を活性化してくれる。そして、内在しているけれど出し切れていなかった潜在能力を引き出す名手なんだよ! っていうのは、私の恩師の言葉(笑)

本田:確かに! 人対人だけでは生み出せなかった効果を、動物が引き出してくれるってことだね。

西岡:最近は「人と動物の絆」にまつわる研究も盛んで、人と動物のふれあいによる効果が科学的にも検証されはじめてもいるよ。

増田:えー、ちょっと紹介してほしいな!

■動物とふれあうことで生じる良い効果とは

西岡:幸せホルモンって聞いたことある? オキシトシンといって、分泌されると幸福を感じる効果のあるホルモンで、犬を使った実験では、飼い主とのふれあいによって、飼い主にも、犬にもこのホルモンの数値が上がることが報告されているんだよ。その他にも、ストレスを感じると上昇するコルチゾールというホルモンの数値を使った研究なんかも。欧米では、子どもの心のケアに動物を使うということは古くから行われているし、事例報告も数多くあるよ。

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愛犬との散歩では自然と笑顔が......

増田:癒やし効果を科学的にとらえるために、ホルモンの数値が評価されたりするんだね。

小畑:今後、その研究が飼い主とペットというだけでなく、アニマルセラピーを受ける人と初対面の動物、というところまで広がるといいね。

西岡:こちらもペットと飼い主という関係にはなるけど、1980年には、心臓病で入院ケアをした患者さんが、ペットとともに過ごした時の1年後の生存率が高く維持されると報告が出た1) ほか、投薬量や病院に行く回数が減るなどの報告もあるよ。アニマルセラピーでやっているような一期一会の活動が高齢者の方や、患者さんに与える良い影響についても、どんどん明らかになるといいな、と思う。
それから、ちょっと面白いなと思ったのは、動物由来のごく微量なアレルゲンに接する機会を持つことで、病的なアレルギーやぜんそくを防ぐことも期待されるってこと。2015年には、スウェーデンの研究チームから、幼少期に犬や家畜と触れ合うと、小児喘息のリスクが減るという研究報告2) も出ているよ。

小幡:でもちょっと待って! 訪問先に小児病棟やターミナルケア病棟もあるって言ってたよね。それは少量でもアレルゲンってまずいんじゃない?

西岡:病院に動物が入るというと、まずそこが心配になるよね。どういう対応をしているか、これまでにどのくらい実績があるのかを話すね。
「アニマルセラピー 人と動物のふれあい活動」では、小児病棟を訪問する動物たちは、獣医師による年2回の健康診断、行動チェック、半年おきの口腔内細菌検査や腸内細菌検査を行うことがルール。訪問前日のシャンプーと、当日は獣医師も同行し、必ずボディーチェックも行うよ。

本田:かなり徹底しているね。それでも動物、というだけで心配する人がいるんじゃない? 植物の場合も、花粉とかずいぶん気を遣うけど......。

西岡:そうだよね。そこは実績の話になるけど、「アニマルセラピー 人と動物のふれあい活動」は30年で19000回以上の活動実績を持っているんだ。その間、事故とアレルギーによるトラブルは一度もないんだって。でも、だからと言って、ずっと安全安心が保証されるわけではなく、これまでのルールと徹底した管理を継続する必要があるということだけどね。

■どんな人に向いているの?

増田:みんなが動物好きとは限らないから、そういう意味でも注意は必要じゃないかな?

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写真提供:大塚敦子氏

西岡:そうだね。動物が苦手な人には、逆にストレスになる可能性があるから、配慮も必要。レクレーションは希望者だけが集まって参加できるようにしたり。中には、苦手だけど、遠くからは見ていたい、という人もいるから距離感を推し量りながら対応することも重要。音楽セラピーや園芸セラピーと違って、気を遣うところかな。

本田:園芸セラピーも誰にでも、というわけにはいかないけど、確かに動物よりはハードルが低いかも。

小幡:どのセラピーも、向き不向きがありそうだね。

西岡:そうだね。もう一つ印象に残っていることがあって、動物たちの訪問を心待ちにしているのは、患者さんや高齢者ご自身だけでなく、そのご家族でもあったことには感激した。病気の家族と接していると、明るい気持ちを維持することはなかなか難しかったりする。でも病気なんかお構いなし、いつもと変わらない愛くるしい態度で接してくれる動物の存在は、一瞬で場の雰囲気もなごませるんだよね。最強だ......って思うこともある(笑)。そんな経験から、セラピーを「受ける側」から、動物を連れて「訪問する側」のボランティアになられた方もいたよ。

■もっと詳しく知るために

本田:患者さんや高齢者の方が笑顔になってくれたら、訪問する側の飼い主も、嬉しいしやり甲斐を感じられるよね。

西岡:飼い主や施設のスタッフも含めた、「セラピーする側」も生き生き活動しているよ。

増田:へー興味がわいてきた!                    

西岡:参加したい人も、動物たちにきてほしいという人も、今回聞いてもらった活動は、日本動物病院協会のホームページで情報を見ることができるよ。https://www.jaha.or.jp/hab/来てほしい場合の注意点は、今のところ施設や学校単位で活動をしているから、個人で訪問依頼を出すことはできないというところ。アニマルセラピーは幅広い活動だから、調べると様々な形態の活動はあると思う。

本田:なるほど......。盲導犬や介助犬もそうだけど、こうやって話を聞くと、動物と人の関わり方も幅広くなってきてるな、と思う。

小幡:確かに。自分が子どもの頃は、犬は屋外でつながれていて、門番をしているイメージだったもんな。

西岡:おお!それってとても重要な気づき!

■ヒューマン・アニマル・ボンドの広がり

西岡:獣医師の間では「ヒューマン・アニマル・ボンド」というスローガンがあるの。つまり「人と動物の絆」なわけだけど、これを最大限活かして、ともに豊かで幸せな生活を目指そう!というもの。

本田:獣医さんって、動物の病気を治すイメージしかなかったんだけど、人の幸せや豊かな暮らしという視点を持っているのは面白いね。

西岡:ペットたちは、人間と生きる道しかない動物だという点も、忘れないで欲しいところ。野生には帰れない動物たち......時にお互いのいい効果を利用しながら、良好な関係を保っていくというのが、ひとつの共生のかたちなんだよね。獣医師としては、アニマルセラピーとともに、こういう側面にも関心を持ってもらえたら嬉しいな。最近は、人の健康を維持するためには、人、動物、自然の健全性を担保することが必要という「One World, One Health(ワン・ワールド ワン・ヘルス)」という理念も重要視されてる。動物と人の関わり方、これからもみんなで一緒に考えていきたいな。

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増田:何か生き生きしてるね!(笑)

西岡:つい語ってしまったよー! 私は生きもの同士でも全然違う? 植物を使ったセラピーのことを聞きたい!

小幡:お、盛り上がって来たね~

参考文献:
都会で犬と猫と暮らす なぜいま動物との関係が大切なのか 柴内裕子・大塚敦子(岩波ブックレット)
子どもの共感力を育む 動物との絆をめぐる実践教育 柴内裕子・大塚敦子(岩波ブックレット)

1) E Friedmann, A H Katcher, J J Lynch, and S A Thomas. Animal companions and one-year survival of patients after discharge from a coronary care unit. Public Hearth Report, 1980 Jul-Aug; 95(4): 307-312.
2) Fall T, Lundholm C, Örtqvist AK, Fall K, Fang F, Hedhammar Å, Kämpe O, Ingelsson E, Almqvist C. Early Exposure to Dogs and Farm Animals and the Risk of Childhood Asthma. JAMA Pediatr. 2015 Nov; 169(11):e 153219. doi: 10.1001/jamapediatrics.2015.3219. Epub 2015 Nov 2.