定量的研究が明らかにする 新規事業をつくる人ってどんな人?

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こんにちは! 科学コミュニケーターの眞木まどかです。

きょうは現在の科学コミュニケーターの中で唯一文系の私から、いつも取り上げている科学とタイプの少し異なる科学、「社会科学」の研究を紹介します。

みなさん、「社会」を「科学」すると聞いてどんなイメージを持っていますか?ブログを読んで、「社会」を「科学」するってどのようなことなのか、少しでもわかっていただけたら嬉しいです。

このブログは、「定量的研究が明らかにする、新規事業をつくる人ってどんな人?」と「定性的研究が明らかにする 新規事業をつくった経験のある管理職の学習成果?」の2本立てでお送りします。

今回とりあげるのは、「民間の大企業で新規事業(ビジネス)をつくる人ってどんな人?を明らかにした研究」です。

大企業というある1つのタイプの社会に的を絞り、新規事業をつくる人に焦点を当てた研究です。

ここでいう新規事業とは、「今まで会社に存在している事業(既存事業)を通じて、積み重ねられた資産やマーケット、スキルを生かしつつ、既存事業とは一線を画した新しいビジネス」のことです。

この研究にとりくんだ立教大学の田中聡先生に詳しい話を伺いました。

今回の話しは、田中先生共同執筆の『「事業を創る人」の大研究』(2018)に基づいています。

田中先生は、数千人にアンケート調査を実施して、新規事業をつくる人(以下、つくる人と呼びます)に共通する特徴を調べました。

ここでいう「つくる人」とは「入社10年以内に新規事業案または新商品・サービス案が採用された経験がある人」(n=326)のことを指しています。それ以外の人は「その他」と呼ぶことにします。

■つくる人の大学時代

まず、つくる人はどのような人材かを明らかにするため、つくる人の大学時代に注目します。大学生活の主な4つの活動ともいえる授業・部活やサークル・ゼミ・アルバイトにおいて、どの程度リーダーシップを発揮していたかを本人に尋ねました。

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図1:リーダー役を果たしている人の割合

出典:田中聡, 中原淳『「事業を創る人」の大研究』クロスメディアパブリッシング. 2018.

上の結果をみてみると、例えば授業でリーダーシップを発揮した人注1の割合はつくる人で4割となり、その他では1割となりました。

つくる人は相対的に、大学時代の学生生活の中における授業や、サークル等の活動で、リーダーとして振る舞っていたり、リーダーを補佐する役割を担っていたりしたことがわかりました。

注1授業中にリーダーシップを発揮するとは、グループワークがある授業にてリーダーシップを発揮したり、クラスの雰囲気をよくするために率先して行動したりするなどを指します。

■個人の目標に対する意識の特性が、新規事業の業績に影響するのか?

この研究以前に、教育心理学の分野で議論が始まっていた概念に「目標志向性」というものがあります。

これは、ある課題を達成しなければならない状況において、個人がどのような目標を重視するか、という目標に対する個人の意識の特性をさします。

仕事に対する目標志向性は、これまでの研究から「業績目標志向性」と「学習目標志向性」の2つあることがわかっています。

業績目標志向性は、周囲から自分自身の能力を高く評価されることに重きを置き、業績を上げることに意欲を燃やします。一方の学習目標志向性は、自分の知識や能力を高めることに重きを置き、困難なことにも意欲的かつ積極的に挑戦しようとする傾向があります。

重回帰分析をもちいて、2つの目標志向性と新規事業の業績にどんな関係があるのか調べてみると、学習目標志向性は、新規事業の業績を高めることに影響があることがわかりました。一方の業績目標志向性が新規事業の業績に与える有意な影響は実証されませんでした。

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図2:目標志向性が新規事業の業績に与える影響について

田中先生は「大学時代における大学内外の活動においてリーダーシップを発揮していたこと」と、「新規事業を経験することが自己成長の絶好の機会だと思う学習目標志向性」には、何か共通点があるといえるのではないかと思う。それは『場』や『コミュニティ』の中に参加する態度が主体的であるか、能動的であるかということ」と解釈しています。

私は、なんだか一つの希望があらわれてきたー!と感じました。

一般的にわたしたちは1日24時間のうち約3分の1の時間を、仕事をして過ごしますよね。今回紹介した研究結果を受けて、自分の成長のために働くことに後ろめたさを感じる必要はないかも?!という感想をもちました。これって、なんだか「個人にもいいこと」な気がしませんか?

その「個人にもいいこと」を言語化したく、さらに田中先生にお話しを伺いました。

次回は、中堅の管理職の方が新規事業をつくる経験を通じて得た学習成果の研究を参考に、その答えの一つをみてみたいと思います。合わせて、質的な社会科学研究についても紹介します!

次回につづく