ミトコンドリアのほんとの姿は"あの形"とちょっと違う?!

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こんにちは!科学コミュニケーターの田中です。

今年のノーベル生理学・医学賞は日本人である本庶佑博士が受賞され、メディアでも大きく取り上げられましたね。会見の様子など、目にする機会もあったのではないでしょうか。本庶博士は会見の中で、研究者を目指す子どもたちへのメッセージとして「教科書に書いてあることを信じない、疑いを持って、本当はどうなっているのかと思う」ことの大切さを説いてらっしゃいました。大変重みのある言葉ですね。常にその姿勢を貫くのは並大抵のことではありませんが、改めて意識せねば!と思います。

さて、この本庶博士の言葉を聞いた筆者が、ひとつ頭に思い浮かべたことがあります。それは「ミトコンドリア」です。おそらく名前は有名なミトコンドリア。その姿も、なんとなく生物の教科書に載っているものを見たことがある、という方が多いのではないでしょうか。では、そのミトコンドリアのイメージは果たして正しいのか......?!

◇教科書に載っているミトコンドリアの姿

ミトコンドリアといえば、生物の教科書ではこのように描かれているのではないでしょうか。

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生物の教科書に載っているミトコンドリアの絵(イメージ)

あ~こんな感じ!と思いましたか?

ミトコンドリアは細胞の中で働くオルガネラ(細胞内小器官)のひとつで、細胞に必要なエネルギーを作っています。つまり、細胞の発電所のような役割を果たしています。......というところまでは知らなくても、このミトコンドリアの図にはきっと見覚えがありますよね。

筆者も、ミトコンドリアについてこんな図を見て学びました。そして、ミトコンドリアは"あの形"で細胞の中に浮かんでいるものだと、信じ切っていました。しかし、そもそもこの図は、細胞を輪切りにして断面を見たもの。ミトコンドリアについても断面を見ていました。特徴的なひだのような内側の膜(内膜)は、ミトコンドリアの表面を見ていても見えてきません。しかし、この図からはわからないミトコンドリアの特徴は、それだけではありません。筆者は大学4年生のとき、研究室でミトコンドリアの本当の姿を知り、非常に驚きました!

◇ミトコンドリアを染色してみると......

実は、ミトコンドリアというオルガネラは、細胞の中で"あの形"のままぷかぷかと浮かんでいるわけではありません!ちなみに色もついていないので、細胞をそのまま拡大して見てもミトコンドリアの姿は透明で見えません!では、ミトコンドリアの様子を見るために細胞内のミトコンドリアだけに色を付けてみるとどのように見えるのでしょうか。ミトコンドリアだけに存在するタンパク質をうまく使って、ミトコンドリアを緑(GFP)や赤(RFP)に光らせて細胞の断面を見てみると、実はこんな姿をしています。楕円形のミトコンドリアが1つ1つ別々になってぷかぷかと浮かんでいるのではなく、長くつながったような構造をしていたのです。

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細胞の中のミトコンドリアを、細胞ごとに緑(mito-GFP)と赤(mito-RFP)で染色。細胞中央の染まっておらず黒く見えているところは、核。
(画像提供:大阪大学理学研究科 石原 直忠 教授、許可を得て改変)

こんなに細胞全体にネットワーク状にミトコンドリアが存在しているなんて!聞いてないよ!と、大学生だった筆者は思いました。ネットワーク状に見えるその姿も、これだけ細胞全体にたくさんの量が存在することも、教科書の絵からイメージしていたものとかなり違うものでした。しかも、ミトコンドリアは細胞内で同じ形で存在し続けるわけではなく、融合・分裂を繰り返してその姿を変えながら働いている、ダイナミックなオルガネラなのです。

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ミトコンドリアを緑で染色した細胞と赤で染色した細胞を用意し、2つの細胞を融合させると、ミトコンドリアは黄色く見えるようになる。これは融合した細胞内で緑と赤のミトコンドリアも融合して、緑と赤の光がほぼ同じ場所で光るようになるため。
(画像提供:大阪大学理学研究科 石原 直忠 教授)


教科書に載っているミトコンドリアの"あの形"は、間違いではありません。ミトコンドリアの断面をよくよく拡大して見ると、たしかに"あの形"をしています。ですが、"あの形"はミトコンドリアの姿のほんの一部を切り取ったに過ぎなかったわけです。細胞を染色して見えてきたミトコンドリアの姿は、その見え方も、見える量も、教科書からは想像できないものだったのではないでしょうか。

◇ミトコンドリアには、ほかのオルガネラにはないおもしろい特徴がたくさん!

ミトコンドリアの本当の姿をみて、少しミトコンドリアの正体に興味をもっていただけたでしょうか?実はミトコンドリアには、みなさんに知ってほしいおもしろい特徴がまだまだあります!が、そのあたりはまた今度にするとして......

◇知れば知るほどおもしろい!

今回取り上げたミトコンドリアの姿。これに関しては、教科書に書いてあることが間違いなわけではありませんでした。ですが、本当にミトコンドリアをよく知ろうとしたら、もっともっと違う部分も見えてきました。このように、もっと知りたい!と興味を持ったものについて探っていくと、新たな発見とたくさん出会えるでしょう。そしてそれは、なんだかわくわくしませんか?教科書に書いてあることすべてを疑うのは難しいかもしれませんが、気になったところから「これはどういうこと?どうしてそうなっているの?もっと細かく見たらどうなんだろう?」と掘り下げてみると、どんどんおもしろくなっていくと、筆者は思います。

また、教科書に書いてあることが間違っていることもあります。昔はこう考えられていたけれど、今はこうだとわかった!だから教科書の内容が変わった!ということは珍しいことではありません。そして、まだまだ解明されていない未知のこともたくさんあります。それを明らかにしていくことが、研究者のとても重要で、おもしろいお仕事なのです。世界で初めてを目にする!未来の教科書に載る内容をつくる!そんな仕事をしたいと思ったあなたは、研究者に向いているかもしれませんね!



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