地域を活性化した科学技術を探す旅 ~島根県 海士町編~

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離島を巡る旅人、科学コミュニケーターの伊達です。
先日、休みを頂いて島根県の離島「海士町 (あまちょう)」に行ってきました。
場所は、ここ!20181116date_01.jpg

島根県の交通の中心、松江駅からバスで1時間かけて七類港に行き。そこから午前中に4本あるフェリーで約3時間揺られた先にある島の町です。

決してアクセスが良いとは言えない島ですが、海士町は地域活性化に成功した島として全国から注目が集まっています。2014年9月の安倍晋三首相の所信表明演説では、そのロールモデルとして取り上げられました。

人口2300人程の島民のうち約1割が島外からの移住者で、海士町に魅入られた人たちが続々と集まってきている。

こんな記事をネットで目にした離島旅好き科学コミュニケーターの伊達は「こんなに人が集まるのには何か理由がある。それには科学技術、それも最先端のものが入っているに違いない!」と考え、実際に島を旅してどんな科学技術があるのかを見てきました。

船に揺られて島に到着!早速交通手段として、科学技術の恩恵を!とレンタルしたのがこちら!

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自転車。電動アシストなし。最先端の科学技術ではありませんが、先人たちの技術力の結晶です。海士町にはレンタカー屋がないそうなので自転車を使い、自力で島内を移動することにしました。

島内の科学技術を探して回ること約3時間。見つかったのは、綺麗な海と昔ながらの街並み、そして放牧される牛。そして「ないものはない」という、ある種の覚悟を決めた前向き? なキャッチフレーズのポスターまで。。。

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暗雲が立ち込めてきた中で、ふと目にしたPOPに気になる文字が!

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「CAS」 (Cell Alive Systemの略)。科学技術の匂いがする。。。
聞くところによると、食材の鮮度を維持したまま冷凍する技術だそう。他にも島で何度か目にしたこの技術について調べてみました。

 

◆鮮度そのままに急速冷凍!CASとは?
この冷凍システムは、株式会社アビーが1998年に開発した急速冷凍技術です。海士町には2007年に導入されました。

海士町には、シロイカや岩ガキなど市場に出回れば高値で取引される漁業資源が豊富です。しかし、離島という地理的なハンディキャップがありました。海士町産の魚介類が市場に出回るころには鮮度が落ち、安く買われてしまっていたのです。

その状況を打開した科学技術が「CAS」です。その原理を下図に示しています。
魚、肉などはたくさんの細胞でできており、その細胞1つひとつの中にうまみ成分と言われるものが含まれています。これをなるべく溢れ出ないよう閉じ込めたままにしておくことが鮮度を保つ秘訣です。従来の冷凍技術だと腐敗による劣化は防げますが、このうまみが落ちてしまいます。

それでは、従来の冷凍技術の何が問題だったのでしょう? 魚や肉を冷凍すると、細胞の中にある水分も凍ります。細胞の中の水はさまざまな物質を溶かし込んでいますが、凍るときには水分子だけで塊をつくります。結果、細胞の中に大きな水の塊が生じ、これが細胞を包んでいる細胞膜を壊してしまうのです。壊れた細胞膜から、せっかくのうまみ成分もしみ出てしまい、「冷凍すると味が落ちる」ということにつながっていました。

水分子が1カ所に集まって大きな塊をつくるのが問題の根本にあるならば、それを防げば解決できそうです。CASでは、凍結させるモノに特殊な磁場と複数の弱いエネルギー (電波、音波など)をかけながら冷凍することで、凍るときに水分子が1カ所に集まるのを防ぎます。これにより細胞膜が氷の塊で壊されることもなく、味も保たれるわけです。

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マグロを凍らせた後解凍した細胞の様子を電子顕微鏡で観察した結果が下図です。CASでは、細胞の形が保存されている様子が確認できます。

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CASの導入により、海士町の岩ガキ「春香」や、シロイカなど、海士町の海産物のブランド化に成功し、漁師の方の収入の安定につながりました。実際に私も島の食堂でブランド岩ガキ春香を頂きました。濃厚で美味しかったです!

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日が暮れてきたので島内散策を夕方頃に終え、夜は「隠岐学習センター」にお邪魔しました。隠岐学習センター (以下、学習センター)は、島内にある唯一の高校、隠岐島前高校と連携した公立の塾です。古民家を改装したカフェのようなスペースで、夕方になると高校生がぞくぞくと集まってきていました。

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学習センターでは、物理、数学、英語などを指導する「教科指導」と、生徒さんのキャリア教育 「夢ゼミ」を実施しています。夢ゼミは生徒さんそれぞれの目標や興味に合わせてテーマを選び、それに合った地域課題解決を自ら実践してキャリアを考える活動です。これらに加えて、多様な視点を養うために島内外からゲストを招いての講演会も行っています。

学習センターの通路にある黒板には、下図のようなゼミの様子が垣間見える場所がありました。

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学習センター内部を特別に、隠岐島前高校3年生の生徒さん (以後、Aさん)に案内して頂きました。
Aさんは島留学という形で島外から隠岐島前高校に入学し、寮生活をしながら通っているそうです。今では約半数の生徒さんが島外からの生徒さんだとのこと。

Aさん曰く、

『海士町の畜産現場に入って「隠岐牛」のブランド価値を高める取り組みを生産者と一緒に考えたり、島への漂着ゴミのような地域の課題を解決する方法を授業として探ったりする教育は、とても勉強になります』

と話す一方で、

『島内には科学館などの施設がほとんどなく、島外の人と交流して意見交換する機会が少ない点は、都会に住む高校生と比べたときの格差として感じます』と話していました。

その格差を埋める方法の一つとして、海士町には「遠隔授業システム」があるそうです。
この遠隔授業システムについてAさんは、

『海士町では宮崎の高校の生徒さんと意見交換を行う取り組みがあったり、国を超えて日本から地球のほぼ反対側にあるウガンダの生徒さん達との交流までできたりします。情報通信技術 (ICT)により繋がることで様々な価値観を持つ人と意見を交わすことが勉強になります。遠隔授業システムで格差が埋まる、どころかウガンダの人とはここじゃないと交流できないからプラスなんじゃないかな。』
と教えてくれました。

実は夢ゼミの一環で、日本科学未来館と遠隔授業を行ったことがあり、ゲノム編集や宇宙などをテーマにした授業を科学コミュニケーターがしたことがあります(下図は同僚の科学コミュニケーター高知尾が宇宙について遠隔授業している様子)
※ 科学コミュニケーター宗像が書いた遠隔授業に関する記事はコチラ(http://blog.miraikan.jst.go.jp/talk/20180615post-811.html)

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離島などの地域で発生する都市部との格差。これを遠隔授業システムというICTの力で海士町では埋める取り組みをしていました。

地域活性化で注目されている離島を自分の足で周り、そして地元の方に聞いた話を元に考えると、海士町は最先端の科学技術が溢れた島、というわけではありませんでした。しかし海士町特有の課題をしっかり見極めた上で、必要な場所に課題解決のための科学技術を導入していました。

今回海士町を訪れて、ここを活性化させている要因は、課題をしっかり見極めてそれに合わせた解決策を実施していく「人の力」だと感じました。その解決策の一つがCASや遠隔授業システムのような「科学技術」だったのだろうと思います。

海士町に行き、改めて科学技術の使い方について考えさせられました。どんなことに、どんな科学技術を使って、どんな課題を解決したいのか。これを「島」のレベルで考えて成功したのが海士町だとすると、「家族」「1つの学校」、さらには人口約1400万人の「東京」、約1億3000万人が住む「日本」、約75億人が住む「地球全体」などそれぞれの大きさに広げるとどうなるのか。
これを考えていくことがそれぞれの大きさのコミュニティを活性化する方法に繋がるのではないか、と感じました。

このことについて、ぜひ未来館でお話ししましょう!

 

参考文献


・住み続けたい島へ - 島の人たちと考えた 海士町|SDGs
 https://www.asahi.com/special/sdgs/amacho/


・CAS技術の進化 (株式会社アビーHPより)
 https://www.abi-net.co.jp/cas/mechanism.html


・CAS機能技術の食品食材から医学医療への応用開発
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/organbio/18/1/18_71/_pdf/-char/ja


・隠岐学習センターHP
 http://www.oki-learningcenter.jp/


・海士町 遠隔授業システム
 https://sip.dis-ex.jp/news.html?id=195