松ぼっくりがあったとさ

みなさんにクイズです。ペットボトルの中に、松ぼっくりが入っています。この松ぼっくり、ペットボトルの口よりも大きいのです。さて、どうやって中に入れたでしょう?

...答えは、「水に濡らした」です!

松ぼっくりは、鱗片の間にある種をできるだけ遠くに飛ばすため、雨の日には鱗片を閉じて種を守り、晴れの日には鱗片を開きます。

この性質を利用して、濡らして縮んだ松ぼっくりをペットボトルに入れ、ペットボトルの中に入れたまま乾燥させたのです。

私は、サイエンス・ミニトーク「自然から学ぶ!心豊かな暮らしのヒント」を担当しています。キーワードは「ネイチャー・テクノロジー」です。

ネイチャー・テクノロジーとは、生物が進化の過程で身につけてきた様々な工夫から学び、それに人間の知恵を加えた科学技術です。使うエネルギーが少なく環境に負担の小さい、それでいて私たちの暮らしを楽しく豊かにしてくれる技術を目指しています。

ミニトークでは、それらの例として、6つの生き物をヒントにした科学技術を紹介しています。そのうちの一つが松ぼっくりです。

松ぼっくりの開閉の仕組みを解明したのは、イギリスはバース大学のジュリアン・ヴィンセントさん。松ぼっくりは種類の異なる2つの繊維でできています。

雨が降っている時は種が遠くに飛ばないので、鱗片を閉じて種を守ります。

空気が乾燥すると、外側の繊維が縮んで鱗片を引っ張り、松ぼっくりが開くのです。

この松ぼっくりの開閉の仕組みを参考にして作られたのが、汗をかくと生地の隙間が開いて風を通しやすくなる、スマートファブリックです。服を脱いだり着たりしなくても、その生地が体温調節を助けてくれるのです。

今日は、松ぼっくり編の冒頭でお客さまにお見せする、松ぼっくり入りペットボトルを用意するまでをレポートします。

珍しく、お休みの日に電車に乗りました。目指すは、多摩川台公園。多摩川駅を降りると、田園調布のハイソな街並みが広がっています。むむむ...私が住んでいる〇〇とはずいぶん趣がちがいますよ。

さっそく松ぼっくりが転がっていそうなところを、歩いてみます。でも、道という道が掃き清められていて、葉っぱ1枚落ちていません。

あっ見つけた!と思ったら、すでに腐って土になりかけた松ぼっくりでした。落ちたての松ぼっくりはないのでしょうか。

おっとっと、気が付くと入ってはいけない場所に入り込んだようです。

上を見上げると、ありました。枝と枝の間にたくさんなっているのが見えます。

それそれ、それ下さい!!

しかし、見上げていても落ちてくる気配はありません。かといって、棒で突っついたりしていたら、不審者と間違えられそうです。

めげずに歩いて行くと、多摩川が見えて来ました。人生で初めて見る多摩川です。でも今日は、松ぼっくりを拾うまでは帰りませんよ。

そして...ついに松林の下に落ちたての松ぼっくりを見つけました!

この日の収穫です。

これを水につけて、縮ませます。

未来館の私のデスクです。松ぼっくりを乾かしています。

1日後。少し乾いて開いてきました。

1周間後。ほかのは開いたのに、肝心のペットボトル入りは開きません。どうしたものでしょう?

2週間間後。ついに開きました!

大成功です!

そして今日、ミニトークでお客さまにクイズをすることができました。「どうやって入れたと思いますか?」というと、たくさんのお子さんが元気よく手を挙げてくれました。みなさん、見事正解でした。

自然界の生き物は進化の過程で、エネルギーを使いすぎず、環境を壊さないものが生き残ってきました。身近な自然にも、地球に負担が少なく豊かな生活のヒントがたくさん隠れていますね。次のネイチャー・テクノロジーを見つけるのは、みなさんお一人お一人かもしれませんよ。

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