いま、私たちが遺伝子から知れること

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みなさん、こんにちは。後藤です!寒い日が続いて、インフルエンザも流行しているようですが、みなさんは体調をくずしたりしていませんか?

ところで、みなさんは病気にかかったとき、どうしますか?ドラッグストアで薬を買ってくる方もいらっしゃるかもしれません。あるいは、病院に行って診察を受ける方もいらっしゃるかもしれません。...いずれにしても、ずっと健康だったら支払う必要のなかった、薬代や診察料などが生じます。苦しい思いをした上に、お金まで支払わなければならない。病気になんて、だれもかかりたくないはずです。

病気にかかる前に、将来かかるかもしれない病気のリスクを知って予防できたらいいのに・・・。

そんな願いをかたちにする技術のひとつに、遺伝子検査があります。「遺伝子検査」はテレビの情報番組でも取り上げられるほど、少しずつ知名度が上がってきました。今回は、その遺伝子検査でいま現在、わかることについて書きたいと思います。

一言で「遺伝子検査」と言っても実は大きく分けると2種類あります。1つは、病院などの専門機関で受ける遺伝子検査。そしてもう1つは、インター ネットなどで申し込む自宅で簡単に受けられる遺伝子検査。こちらは、特に「遺伝子解析サービス」と呼ぶことにします。遺伝子検査は、たとえば、医療現場 で、ある抗がん剤を使うかどうかを決める時に行われています。もっている遺伝子によって、副作用が強く出たり、薬の効果が出なかったりするためです。医療 行為に伴う検査なので、医師による診断が伴います。また、遺伝子検査のひとつである親子鑑定などでは、検査結果が法的な証拠として扱われます。しかし、遺 伝子解析サービスは会社が行っている「サービス」であり、得られる遺伝子情報についての結果は、診断ではありません。 遺伝子検査と遺伝子解析サービスでは調べている遺伝子も調べ方も違います。さらに言えば、遺伝子解析サービスを行っている会社ごとに、調べている遺伝子が 違うこともあります。診断ではないけれど、自分の遺伝子に関する情報が知れる、というのが遺伝子解析サービスです。その情報を、私たちは一体どのように受 け止めればよいのでしょうか。今回は、この遺伝子解析サービスについてご紹介します。

遺伝子解析サービスを行っている会社は、個人レベルの小さな会社も含めれば1000社にものぼるそうです。実際に、遺伝子解析サービスを行っている会社の方にお話を聞きに行きました。

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お話をうかがったのは、研究開発部の岡本暁彦さん。彼の会社で行われている遺伝子解析サービスについて教えていただきました。いくつかご紹介します。

Q. 遺伝子解析サービスを受けるとどのようなことがわかるのですか?

A. 自分がどのような遺伝子を持っているのかがわかります。こ れまでの研究の成果で、遺伝子と病気のリスクや体質の関連が少しずつわかってきました。たとえば、お酒を飲んで顔が赤くなるかどうか、いわゆるお酒の強さ については、ALDH2という遺伝子が関連していることがわかっています。ALDH2がちゃんとはたらいていると、お酒の主成分であるアルコールが肝臓内 ですばやく分解され、顔は赤くなりにくいのです。今ご紹介したアルコール分解の例は、とても単純なもので、1つの遺伝子タイプを調べるだけで、飲める体質 かどうかのおおよその判断ができます。これはむしろ例外的です。たとえば、低血圧といった身近な体質には、たくさんの遺伝子がかかわっていると考えられて います。病気に関しても、1つの遺伝子だけで判断可能な者もありますが、多くの場合、たくさんの遺伝子がかかわっていると考えられています。どの遺伝子が 関連しているのか、そしてそれらが互いにどのように働きあっているのか(足し算的なのか、かけ算的なのか、あるいは引き算なのか)については、ほとんどの 場合、まだよくわかっておらず、これらの研究は今急速に進められているところです。このような研究成果を参考に、お客さまの遺伝子情報から、病気のリスク や体質についてお知らせしています。ただし、現段階で提供できる情報は、今後新たな遺伝子の発見などにより十分変わりうるものです。当社でも研究を進め、 より精度の高い情報を提供できるようがんばっています。

Q. 遺伝子が持つ病気のリスクや体質などの情報を、私たちはどのように活用すればよいのでしょうか?

A. これから研究が進み、かつ多くの方の遺伝子情報が集まってくれば、病気の予防や体質の改善などに役立てることができると思います。私 たちが病気にかかるとき、遺伝因子と環境因子が関わっています。遺伝因子は「どのような遺伝子を持っているのか」というリスクで、環境因子は「どのような 環境で生活しているのか」というリスクを表しています。これらがともにはたらきあって、病気は発症します。このことをよく下図のような概念図で表します。 でも実際、どの程度発症に遺伝子が寄与しているのかは現段階ではよくわかっていません。遺伝子のはたらきについてもっと明らかにならないと、意味のある予 防アドバイスは提供できません。そういう意味では、現状で得られる遺伝子解析サービスの結果は「占いよりちょっと正確」という程度です。

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Q. インターネットで申し込むと届くのは、実際どのようなものなのでしょうか?

A. これです。この器具を正しく使って唾液を採ると、高精度で遺伝子を調べることができます。

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Q. DNAの何を調べているのですか?

A. 一塩基多型(SNP)というものを調べています。 DNAは4種類の塩基と呼ばれる化学物質、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の並び方で情報を記録している物質です。これら の塩基がずらっと30億個並んでいるのがヒトのDNAが持っている情報ということになります。この並びの途中が1カ所、ほかの塩基に置き換わっていること をSNP(スニップ)と呼んでいます。SNPの中には、影響がほとんどないものもありますが、その情報の"意味"ががらっと変わってしまうこともありま す。当社の遺伝子検査では、30万カ所ものSNPを調べています。 このように、遺伝子解析サービスでは、持っている遺伝子は調べられるのですが、その遺伝子の働きについては調べられません。遺伝子を持っていても、それが 実際に体内で働いているかどうかはわからないので、この点には注意が必要です。

Q. 御社では日本人に特化した遺伝子解析サービスを行っているようですが、それはなぜですか?

A. それは、日本人と外国人では、遺伝子の特徴が異なることがあるからです。た とえば、外国人では、ある部分のSNPが「GやC」であることが多くて、日本人では同じ部分のSNPが「AやT」であることが多いといったことがありま す。すると、外国人では、そのSNPが「AやT」だとある病気にかかる人の割合が高い、という研究をそのまま使うと、日本人の多くの人がその病気にかかり やすいことになります。ところが、ほとんどの人が「AやT」の集団では、「AやT」を持っていても病気にかからない人も大勢いたりします。こうなると、日 本人がそのSNPに「AやT」をもつことのリスクが外国人と変わってきます。そのSNPが関わる病気のリスクや体質については、外国人のデータとは分けて 日本人だけのデータで調べてみないと、正しい結果が出せないというわけです。ただ、日本人の遺伝子データはまだまだ足りなくて、現在も研究が進められてい るまっただ中です。

Q. 日本には全部で1000にも上る遺伝子解析サービス会社があるそうですが、何が違うのでしょうか?

A. 調べているSNPの種類も、その解析の仕方も違います。ま た、日本には遺伝子検査に関するガイドラインがいくつかあるのですが、あまりにも小さい会社だと、そのようなガイドラインをどの程度遵守しているかがあや しいです。ガイドラインには、遺伝子解析サービスではたった1つの遺伝子だけで判断できる単一遺伝子疾患などの遺伝子病の診断ができないことや、遺伝子情 報という特殊な個人情報を暗号化して厳密に扱わなければならないことなどが書かれています。それが守られていない会社のサービスは受けると危険かも知れません。

私たちはいま、お手軽に自分のもつ遺伝子を調べられる時代にいます。そして、近い将来には、その情報を元に病気の予防や体質改善をすることができるようになるかもしれません。しかし、遺伝子と病気のリスクや体質がど のように関係し合っているのか、もっと詳しいことがわからないうちは、遺伝子を調べた結果について慎重に受け止める必要があります。また、遺伝子は自分ひとりの情報ではなく、家族で共通して持っている情報です。予想外の結果や知りたくなかったことを知ってしまうこともあるかもしれません。そして、その「知 りたくなかったこと」は、きょうだいや子ども、親にも共通する性質かもしれません。その情報をみなさんはどう受け取るでしょうか。また、たくさんの遺伝子 がかかわる体質や病気なのに、たった数個の遺伝子だけでリスクを判断していることもあるかもしれません。会社に悪意はなくても、現時点でわかっているとこ ろまでしかわからないため、今後の研究の進み方次第では、結果が大きく変わることもあります。そういったリスクがあることも理解した上で、遺伝子解析サー ビスとお付き合いくださいね。

ちなみに、現在未来館の5階で行われている「サイエンスミニトーク」では、私が遺伝子解析サービスの詳しい話をしています。興味を持っていただけた方、ぜひ聞きに来てください!

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この記事への3件のフィードバック

こんにちは!
わたくし生物系はちょっとよくわからないので2つ教えていただきたいのですが、
1. SNPとは全細胞のDNAに現れるものなのですか?生まれたときからSNPがおきているのでしょうか?放射線を浴びるとか、何らかのきっかけでどこかの細胞のDNAに異常が起きたとき、それは他の細胞に移ることはないんですよね?

2. ”正しい”ATGCの配列というのはどうやって知るのですか?人はそれぞれ千差万別、AさんとBさんとはそもそも違うのだから、"正しい"配列なんてないようにおもうのですが。

こんにちは!ご質問ありがとうございます。
お答えします。
>1.について
SNPは簡単に言うと、DNA配列が持つ個人差のようなものです。DNA配列がすべて同じになるのは一卵性双生児など限られた場合のみです。私たち一人ひとりが少しずつ違っているのは、それぞれが異なるDNA配列を持っているからです。でも、親子は似ているところがよくありますよね。それは、親から子へ、その「DNA配列の違い」が引き継がれるからです。SNPはそのDNA配列の違い方の1つで、DNA配列の1文字違いのことです。ですから、SNPは親から受け継ぐものでもあります。
また、放射線をあびるなどしてDNAが変異を起こすこともありますが、それはSNPとは呼びません。そうして変異したDNAを、修復するなどして無害化するしくみが私たちの体には備わっていますが、それで除けなかった変異については、その細胞が分裂するときに変異は受け継がれます。
>2.について
「正しい」というのは、「標準的な」という意味でしょうか?
便宜的に“標準”となるDNA配列は、ヒトゲノム計画のときに解読された「ヒトゲノム」に相当するかもしれません。当時世界中で研究者たちがヒトのDNA配列を解読していました。彼らは、複数の人から集めてきたDNAサンプルを解読し、その結果を貼り合わせることでヒトのもつDNA配列の「基準」となるものを作成しました。これがゲノムマップです。ここにある配列は、多少の個人差はありますが、ヒトという種の配列と見なすことができます。また、病気に関する遺伝子の場合、便宜上、その病気ではない人の遺伝子タイプを標準的として、病気の方の遺伝子タイプを変異型としたりしています。

>吉田さん
こんにちは。簡単ですが回答させて頂きます。

1.個人のDNA配列は生まれたときから決まっており、全細胞が共通した配列をもっています。大多数部分は人間同士で共通していますが、一部で頻度が高く異なる塩基があり、SNPと呼ばれます。SNPの違いによって個人差が生まれると考えられています。
放射線を浴びるなどの理由でDNAに異常が起きた場合、通常はDNAを修復したり、異常が起きた細胞を除いたりしますが、うまくいかない場合には癌細胞になることがあります。

2.ゲノムプロジェクトによって、人間の標準的なDNA配列が決定されています。

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