「いのち」について話し合おう~出生前検査と遺伝カウンセリング

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「いのち」や「遺伝」について、一緒に考え、語り合いませんか?

こんにちは。
科学技術の進歩とともに変化する家族の形をさまざまな角度から考える、「みらいのかぞくプロジェクト」、かぞく科学コミュニケーター(自称)の浜口です。


5階常設展示ゾーンで実施している、参加型ミニトーク「おなかの赤ちゃんのこと、どこまで知りたい?~2025年こうのとり相談室」。遺伝のしくみや遺伝子が関わる病気、現在病院で受けられる出生前検査についてのサイエンス・ミニトークの後、参加者の方と未来の出生前検査について考えるディスカッションを行っています。
多くの方にご参加いただき、多様な意見と出会って、実施している私たちも毎回新たな気づきをもらっています。


お腹の赤ちゃんの遺伝情報を調べる技術が発達した将来、どんなことを事前に知りたいか、あるいは知りたくないか。性別は?性格の傾向は?容姿は?さらに、病気については?検査によって、お腹の赤ちゃんに長く生きられない、あるいは長期的なケアが必要な病気があるとわかるかもしれない。検査結果はこれから赤ちゃんを迎える家族に何をもたらすのだろう?自分や家族の心にはどんな影響があるのだろう?...
ディスカッションの中で投げかけられる問いは、かなりシビアです。真剣に考えれば考えるほど、自分、家族、赤ちゃんにとって何が最善なのかわからなくなることもしばしばです。実際、「正解」はありません。


もしこれが未来館のアクティビティではなく、自分の身に起こった現実だとしたら、誰にこの複雑な想いを相談できるでしょうか?家族、友人、定期検診に行っている産婦人科の医師など、信頼できる身近な人に話してみるのもいいでしょう。


そしてもう一つ、遺伝の専門知識を持つ人(臨床遺伝専門医・遺伝カウンセラー)が、心理的なサポートも含めて相談に乗ってくれる「遺伝カウンセリング」という場があることも、あわせて知っておいていただきたいと思います。

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上はディスカッションで使用している問診票。話し合いの前後で意見の変化を記録できるようになっています。

心の悩みを相談できる「心理カウンセリング」は知っているけれど、「遺伝カウンセリング」は初耳で、何をしてくれるのか具体的にイメージできない、という方も多いと思います。
遺伝カウンセリングの定義はいろいろなところから出ていますが、日本産科婦人科学会や日本人類遺伝学会など、遺伝関連の10学会が2003年に発表したガイドラインでは、遺伝カウンセリングを以下のように定義しています。


"遺伝カウンセリングとは、遺伝性疾患の患者・家族またはその可能性のある人(クライエント)に対して、生活設計上の選択を自らの意思で決定して行動できるよう臨床遺伝学的診断を行い、遺伝医学的判断に基づき遺伝予後などの適切な情報を提供し、支援する医療行為である。"


遺伝性疾患と診断されていなくても、その疑いがある人や、遺伝について心配なことがある人は誰でも遺伝カウンセリングを受けることができます。
出生前検査に関する相談以外にも、「家系に乳がんにかかった人が多く、自分も発症しないか心配」「いとこ同士の結婚で、子どもに遺伝的な影響がないか心配」...など、相談できる内容は多岐にわたります。


例えば、クライエントがお腹の赤ちゃんの病気を心配して出生前検査を希望している場合。
遺伝カウンセリングではまず、問診によって家族構成やそれぞれの病歴、受診の背景(どこでこの検査を知ったか、なぜ受けたいと思ったのかなど)を確認します。次に、出生前検査の内容や、検査で分かることと分からないこと、検査自体のリスク、結果の解釈の仕方などについて詳しく説明します。遺伝子や染色体、遺伝の仕組みについての説明が加わることもあります。検査がクライエントやその家族にとって本当に必要なのかを見極め、決断をするための手助けをするのです。
また、検査の結果、赤ちゃんに病気があるとわかった場合には、病気のより詳細な情報や、次の赤ちゃんを産むときに、その子も同じ病気を持つ可能性はあるのかなどの医学的な説明を行い、今後どうしていくのかを一緒に考えます。


先ほど紹介した学会のガイドラインには、次のようなことも明記されています。


"遺伝カウンセリングにおいてはクライエントと遺伝カウンセリング担当者との良好な信頼関係に基づき、さまざまなコミュニケーションが行われ、この過程で心理精神的援助がなされる。
遺伝カウンセリングは決して一方的な遺伝医学的情報提供だけではないことに留意すべきである。"


検査や病気についての一方的な説明で終わってしまうなら、それは「カウンセリング」ではありません。
出生前検査を受ける人は、検査の前後で様々な不安や、葛藤を感じます。さらに、検査の結果、赤ちゃんに病気があるとわかった場合、それを聞いた時の衝撃は相当なものです。
臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーは、クライエントの話を聞いてその想いに寄り添い、その時々で適切な心理的ケアをしつつ、クライエントにとって最善の選択ができるようサポートします。
ですから、クライエントもただ受け身のままでは遺伝カウンセリングは成立しません。考え、決めるのはあくまで自分自身。臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーは、「ああしろ、こうしろ」という指示はくれません。
しかし、遺伝医学の専門知識と相互のコミュニケーションによって、クライエントが自分で自分の意思を決定し、行動する過程を後押ししてくれます。
皆さんが現実に出生前検査について悩んで、誰かに相談したいと思ったときも、きっと力強い味方になってくれるはずです。


私たちが未来館で実施している「こうのとり相談室」も、遺伝カウンセリングと似ているところがあると個人的に思っています。
ディスカッションでは、おなかの赤ちゃんについて知りたいと思う項目、知りたくないと思う項目、それぞれについて、なぜそう考えたのか、理由も掘り下げていきます。その過程で、私たちは参加者の方それぞれが、おなかの赤ちゃんについて何を望み、何に不安を感じ、自分の人生設計で何を変えてもよく、何を変えられないと感じるのかという、ご自身の心の奥底にある想いに気づいてもらうことを目指しています。それは、遺伝カウンセリングでも、意思決定のプロセスにおいて必ず求められることの1つです。
もちろん、オープンな空間で、他の参加者も交えて話し合う、という点は実際の遺伝カウンセリングとは違いますし、この参加型ミニトークを実施している私たち科学コミュニケーターも未来館ボランティアも、遺伝カウンセラーの資格を持っているわけではありません。ですが、「もしも...」の話をしながら、自分自身の意見を掘り下げ、同時に他の人の意見や体験談も聞ける、というのは、この参加型ミニトークならではの利点だと思います。
実施している私たちが毎回、得ているような新しい気づきを、参加者の方々も感じてくださっているようです。実際、議論が進む中で、「実は...」と、ご自身の個人的な体験をお話くださる参加者の方もいます。
その人の価値観の根源に触れられるような、深い対話ができたら、そして、参加してくださった皆さんに「参加してよかった」「話せてよかった」「聞けてよかった」と思っていただけたら、私たちにとってこれ以上嬉しいことはありません。

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3月に行われた試行会の様子。現在の会場とは異なります。


なお、8月より、「こうのとり相談室」は曜日と時間を固定して実施します。常設展示フロア5階にあるコ・スタジオの明るい雰囲気の中で、真剣に「いのち」について語り合いませんか?
このワークショップを初めて知った方も、これまで興味はあるけど参加できていなかった方も、一度参加したけどまだ話し足りなかった方も、ぜひお越し下さい。
未来館でお待ちしています!


「おなかの赤ちゃんのこと、どこまで知りたい?~2025年こうのとり相談室」
日時:毎週土曜日 15:30~ 30分程度(8月6日土曜日から開始!)
場所:5階常設展示ゾーン コ・スタジオ ※常設展チケットが必要です。
事前予約不要!どなたでもご参加いただけます。



※2016年12月26日追記

現在、「こうのとり相談室」は不定期実施となっております。実施日時については、お問い合わせください。


※関連記事もあわせてご覧下さい。

「赤ちゃんが心配―出生前診断、受けますか?」

(科学コミュニケーター:松山桃世)

http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20130503post-340.html

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