精子へと一歩前進! スゴいぞiPS細胞

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つい先日、「iPS細胞からつくった精子で子どもをつくることに成功した!」というニュースが世界中をかけめぐりました。8月5日、「Cell」という学術誌に、京都大学の斎藤通紀さんらの研究論文が発表されたのです。おおっ、ついに精子!しかも日本人!と私はひそかに興奮したのですが、まわりに聞いてみると難しそうな話ですね、とキョトン顔…。生殖(つまり子づくり)の原理原則に関わる研究ですので、丁寧に見ていきたいと思います。

iPS細胞とは、体中のほぼ全ての種類の細胞になる能力をもつ細胞のこと。人工的な操作で性質を変えた細胞です。2006年に日本人研究者がマウスの皮膚の細胞からiPS細胞をつくる技術を完成させて以来(ヒトの細胞では2007年)、これまでに心臓の細胞、神経の細胞、すい臓の細胞など、様々な種類の細胞がiPS細胞から誕生しています。お望みの細胞をiPS細胞からつくり、それを傷ついた臓器に移植して健康を回復させる動物実験が次々と行われており、網膜など一部の細胞では臨床研究の準備も進んでいます。

では今回の発表の“スゴい!ポイント”はなんでしょうか。

それは、理論的には可能であると考えられながらも、培養条件が難しく困難だった「精子」をiPS細胞からつくることに成功。さらにその精子を父親とした元気な赤ちゃんマウスが産まれた、ということです。この世界初の快挙を、絵で見てみましょう。

この絵は間違ってはいないのですが、実際はもっと複雑です。上の絵と下の絵と比べて下さい。

違いはわかりますか? 1つは、精子ができる前に「始原生殖細胞」がつくられたこと、もう1つは、「始原生殖細胞」は代理父の身体に移植されてはじめて精子になれた、ということです。

「始原生殖細胞」とは、漢字で「原始の生殖細胞」と名付けられた通り、精子と卵子という赤ちゃんをつくる細胞の元となるとても大事な細胞です。マウスでも人間でも、精子と卵子は必ず「始原生殖細胞」からつくられます。

今回は「iPS細胞」を「始原生殖細胞」に変化させる体外培養には成功していますが、「始原生殖細胞」を「精子」に変化させるステップには、代理父の精巣を借腹として利用しています。代理父は、生まれつき生殖細胞がつくれない特殊なマウスです。見た目に丸っこい「始原生殖細胞」からしっぽが生えた「精子」へと変化させるステップは、まだまだ体外で完全にコントロールするのが難しいのです。

さて、ここからは想像の世界ですが、ある男性がとても子どもを欲しがっているとします。彼は精子に異常があり夢は叶いません。もし、この男性が自分の皮膚の細胞からiPS細胞をつくり、これを元気な精子へと培養できれば、その精子は自然の精子と同じく、自分の遺伝情報をもっています。相手の女性さえ見つかれば、問題は一件落着となるでしょう。

しかし、研究者が狙っているのは、いま想像でお話したような未来の不妊治療への応用ではありません(国の方針で、iPS細胞を利用した生殖医療は禁止されています)。始原生殖細胞が精子や卵子に変化するとき、細胞の中でどんな遺伝子の変化がおきているのか、その基本のしくみを知ることが大切なのです。まさに斎藤先生の研究は、このひみつにiPS細胞から生殖細胞をつくる今回の成果を通して一歩迫るのです。ここでキーとなる「インプリンティング」という哺乳類の卵だけがもつ、これまたスゴいしくみについては、次回のブログで。

 

もっと詳しく知りたい方への関連リンク

多能性幹細胞で作製した生殖細胞に由来するマウスの産出に成功-生殖細胞形成メカニズムの解明、不妊症の原因究明などに貢献-(2011年8月5日 京都大学 科学技術振興機構(JST))

iPS細胞基本情報(iPS細胞研究所(CiRA))

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この記事への5件のフィードバック

こんにちは、こういうものに初めて投稿(?)します。

遺伝子学のプロフェッショナルということで、コメントというよりもお願いさせて頂きたいのですが、21日の日曜日に未来館で購入した遺伝子の自由研究セットを使って実験をしたいと思っています。 何かアドバイス等が有りましたら教えて頂けないでしょうか。息子は今、小学校6年生です。

勝手なお願いかとは思いますがよろしくお願いします。

最初にも言いましたが、こういうのは初めてですので、無理なようでしたらけっこうです。

自分の携帯すら使いこなせない、機械類にメチャクチャ弱い母なんです。申し訳ありません。

コメントありがとうございます。

では、アドバイスということで。

○説明書をよーく読んでから、はじめてください。実験をはじめてからも、次の手順に入る前に、ちゃんと順番通りおこなっているか、確認しながらすすめてください。

○材料は、最初は「レバー」をおすすめします。レバー、つまり肝臓ですね。

なんで肝臓かというと、肝臓には肝臓の細胞がぎっちり詰まっており、その細胞の中にあるDNAを取り出したいからです。

○レバーの場合、白っぽい脂肪はなるべく取り除き、新鮮な赤みの綺麗な部分を使ってください。

○つぶしたレバーを細胞溶解液に入れるとき、チューブがいっぱいになるほどレバーを詰め過ぎないようにしてください。混ぜるときは、ぶくぶく泡立てないように「やさしく」押しつぶして下さい。

○実験のクライマックス、DNA抽出液をエタノールに入れてチューブを上下ひっくりかえして混ぜるときは、「ゆっくり」ふってください。激しくチューブをふると、せっかく取り出したDNAが千切れてばらばらになってしまい、見えにくくなります。

○レバーがうまくいったら、ブロッコリーやバナナ(バナナは私はやったことがありませんが、元同僚の科学コミュニケーター(岡野さん)が「たくさん採れる!」とオススメしてました)、自分の口の中の粘膜細胞など、色々な試料に挑戦してください。

○もし上手くいかなくても、失敗は成功のもと! 失敗したところを直して次の実験に生かせるよう、なぜ失敗したのかを考え、頭をはたらかせてみてください。

自由研究って、親も大変ですよね。

私にも小学3生生の子どもがいるのですが、先週、自由研究を仕上げた(させた!?)ところです。

三日がかりで、野菜や野草を使って和紙づくりをしました。

はじめは言われるがままの娘でしたが、いくつか和紙が出来ると、

「ちがう野菜でもつくりたい!」とやる気を見せてくれたのが、嬉しかったです。

お母さんの方が「科学なんて難しくて嫌だな」と思わずに、「何だか面白そう、もっと知りたいな。」と楽しむことも、大切だと思いますよ!

ボランティアのあさはらです。

トンチンカンの質問になるかもしれませんが、

1.IPSの細胞は放射能に強いですか。

2.優性遺伝は適用されるのでしょうか。

3.ひまわりのセシウム吸収は何故高いの!

以上です。

ご質問ありがとうございます。

1.IPSの細胞は放射能に強いですか。

iPS細胞が他の細胞と比較して放射線に強いかどうか調べた研究は今のところありません。

そもそもiPS細胞の研究の目的は、神経や肝臓などの細胞をiPS細胞からつくって組織移植などに利用することです。移植後にiPS由来の組織がうまく機能しているか調べる時に、放射線の影響も加味する必要があったとしても、実際にそのような実験をおこなうことは難しいでしょう。

2.優性遺伝は適用されるのでしょうか。

iPS細胞の遺伝情報の中には、通常の細胞と同じように、優性遺伝子と劣性遺伝子の情報がふくまれています。iPS細胞が特定の細胞に分化したとき、1つの遺伝子に注目すれば、優性遺伝子の影響で細胞のはたらき方が決まることはあるでしょう。

ただ、注意しなければならないことがあります。研究開発中のiPS細胞は、「メチル化」という遺伝子のはたらき方に影響する目印が、通常の細胞とは違う状態で染色体についていることがわかっています。ですから、もしiPS細胞を生殖に利用した場合、通常の精子と卵子による受精と同様の「遺伝」のしかたをするかどうかは、まだはっきりとわかりません(記事にも書きましたが、今回の実験成果はマウスのことで、人の生殖にiPS細胞を利用することは禁止されています)。

3.ひまわりのセシウム吸収は何故高いの!

ひまわりの放射性セシウム吸収が高いことは、チェルノブイリ事故の研究で報告されています。土壌の栄養素と間違えて取り込んでしまうためと考えられています。こちら参照してください↓

http://case311.miraikan.jst.go.jp/home/docs/radioactivity/1105112011

昨日14日の発表ですが、日本の農林水産省がおこなった実証実験では期待されたほどの効果はなかったようです↓

http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/110914.htm

IPS細胞を皮膚から採取して
将来、痛みを全く伴わずに妊娠、出産が可能になればいいのに・
痛みが怖くて妊娠したくないという人の意見も聞いてほしいです。

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