泥人形と人工細胞

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今回は「人工細胞がDNAと一緒に増殖!」と各紙をにぎわした、東京大学の菅原正さんの研究(9月4日付けネイチャー・ケミストリー誌発表)に注目し、人工細胞の話をします。

–昔々、おじいさんが土と水をこねて人形をつくった。とてもよくできたと喜んでいたら、人形は勝手に動き出しおじいさんとおばあさんを丸呑みにした。人形はずんずん歩いて村の人を次々と食べて巨大な泥人形となり、最後に山でトナカイを食べようとして逆に刺されると、みんなを吐き出し死んでしまった。–

これは北欧の民話(「金のつののトナカイ」)ですが、命を吹き込まれた人形や機械が波乱をまきおこす物語はたくさんありますね。私はこの話の不気味さ(いきなり船も飲んじゃうんですよ!泥人形は)、トナカイのおかげでみんな結局助かるというあっけなさが、気に入っています。

人形と生命の間にあるような不思議なもの。泥人形ならぬ人工細胞は、今、世界中の科学者がとりくむ最先端の研究です。サイズのスケールは小さいですが、私たち人間も元をただせば小さな細胞が60兆個あつまったもの、侮ってはなりません。

菅原さんらがつくった作った人工細胞は、直径10マイクロメートル(1ミリの100分の1)くらいの分子でできた袋の中に、水に溶けた単純な有機分子と酵素が入ったものです。これをジャイアントベシクルと呼びます。ベシクルは観察するには顕微鏡が必要なサイズで、水の中にできたミクロのシャボン玉をイメージしても良いでしょう。袋の中には大腸菌由来の短いDNAが詰めこんであります。

人工細胞であるベシクルは、本物の生きている細胞と比べると、とてもシンプルです。しかし、「分子の膜で内側と外側が隔てられている」「遺伝情報であるDNAが中に入っている」という細胞の基本条件をきちんとおさえてあります。

泥人形が「生きている!」と感じられるのは、泥人形が歩いたり巨大化したりするからです。ベシクルはどうでしょう。ゆっくり小さな動きですが、巨大化し、さらには分裂して、子どもをつくったりします。下の図を見て下さい。

【人工細胞「ベシクル」の動き】

[caption id="attachment_6353" align="aligncenter" width="400" caption="材料V*を追加してからベシクルが太って分裂していく様子(顕微鏡写真)  写真提供:菅原正教授(東京大学)"][/caption]

 

実験室でつくられたベシクルが分裂し増えるまで、人の手による操作が全くいらないわけではありません。大腸菌のDNAのコピーを増やすために温度を上げ下げする操作、ベシクルの材料である分子を加える操作などがおこなわれています。ここですごいポイントは、

  • ベシクルの材料を追加すると、ベシクルは勝手に材料を自分の中にとりこみ、太ってさらには分裂して新しいベシクルができた。
  • とくに内部でDNAのコピーが上手くいったベシクルだけが、元気に太って分裂した。
  • ベシクルの中でコピーされたDNAは、分裂してできた新しいベシクルの中に勝手に分配された。

 

の3つです。

バラバラのただの物質が、細胞のように秩序だって増殖する「生きている」ものへと勝手に変わり動きはじめる、そのための条件をさらにつきつめることが重要です。菅原先生は、「内部でDNAが増えたベシクルに材料を加えると、タンパク質のような複雑な分子がいなくても、何種類かの分子が協力しあって、勝手に生き物のように振舞うとところがすごい」と驚いています。

うーん、面白い。こんなシンプルで幼稚な細胞でも、ベシクル内でDNAを増やすことができると、自分自身もたくさん増やせるということは、利己的遺伝子ならぬ利己的細胞説なのかしらん?と妄想もふくらみます。人工細胞研究の続報に期待!!

 

おまけ

人工生命とアートの話も未来館の別の記事にまとめていますので、興味ある方はこちらの記事(science book cafe 「先端バイオロジーが加速する、科学とアートのゆくえ」 2009年)もどうぞ。

前回のブログで次回にかきます!と言っていた「ゲノムインプリンティング」ですが、すみません。次の次くらいにまた書きます…。

 

もっと詳しく知りたい方への関連リンク

菅原正先生の研究室HP(東京大学)

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