ヒッグス粒子発見のきざし!?


13日夜(日本時間)、ヒッグス粒子という素粒子の存在の手がかりがえられたという発表がありました。存在してもしなくても大発見となるヒッグス粒子。ついにこの世紀の大発見の時がせまってきました。

発表したのは、フランスとスイスの国境にまたがる75億ユーロ(約8000億円)の世界最大の実験機、大型ハドロン・コライダー(LHC)。地下100メートルに一周27キロメートルのリングを建設し、その中で粒子を光速近くにまで加速、衝突させる実験です。

リングの4地点で検出器をかまえ、そのうち最も大きな二大実験ATLAS(アトラス)CMSがヒッグス発見を目的につくられた検出器。

この二つの実験で、だいたい同じくらいの重さのヒッグス粒子らしき兆しが見えてきたのです。

日本のグループはアトラスに参加しています。こちらはアトラスの日本グループが担当するミューオン検出器

(2009年にLHCにおじゃましたときの写真です。)

アトラスは高さ25メートル長さ44メートルという巨大な検出器

この装置の真ん中に、陽子と陽子が両方向から猛スピードで突進してきて衝突します。この衝突のエネルギーで、新たにさまざまな粒子が生まれるのです。飛び散ってきた粒子たちを、層状に配置されたさまざまな検出器群でとらえるのです。

このように大きな検出器を4つも持ったLHCをつくったその第一の目的は、

ヒッグス粒子を見つけるため。

というのは少し間違いで、ヒッグス場を研究するため。

ヒッグス場とはなにかといいますと、素粒子に質量を与えるものです。私たちの体は素粒子でできていますから、ヒッグス場で素粒子に質量が与えられるということは、私たちに体重がある理由が説明できるというわけです。

これはとても重要なことです。というのも、重さがないと、粒子は光速で飛び続けていなければなりません。私たちも存在できなくなってしまうわけです。

素粒子とは、物質をこれ以上細かくできないところまでつきつめた、一番基本となる粒子のこと。いまは下の写真にある素粒子が知られています。

4つの力」「クォーク」「ボゾン」「弱い力」といった言葉を聞いたことのない方はまず素粒子的人生論でおさらいを。

この表は「標準模型」とよばれていて、宇宙の営みを記述しているマニュアル本みたいなものです。ヒッグスはこの中で、唯一まだ見つかっていない粒子で、物理学者はここ30年間ずっと探し求めてきたのです。

そのため、海外のメディアでは、ヒッグス粒子は「神の粒子」とも言われています。でもヒッグスを探し求めてきた研究者は、そんな仰々しい名前では呼びません。

私のヒッグス粒子のイメージは、図体が大きいのにかくれんぼが上手で、上手すぎて忘れられてしまう人。とにかく探せども探せども、全くひっかかってきません。

さあもうここの領域を探していなければ存在しないぞ、というところまで絞って、最後の最後にようやく出現のきざしをみせています。

 

 

粒子を引っぱるヒッグス場

ここで「」といっているのは「電場」とか「磁場」ででてくる「場」。たとえば磁石のまわりに磁場ができます。

こういう場は目に見えないのですが、明らかに存在していて他のものが影響をうけます。例えば磁場があると、電気をもって動いているものは力を受けますね。

ヒッグス場も目に見えない場で、宇宙を満たしています。そしてこのヒッグス場の泉の中を素粒子が駆け抜けるわけです。

質量を獲得する前、素粒子はすべて重さがゼロですから、常に光速で飛びます。光の粒「光子」も常に光速で飛んでいて、光速以上にも光速以下にもなりません。

ところが素粒子の中には、ヒッグス場にひきずられて遅くなるものがあります。この遅くなったぶんが、質量なのです。

ヒッグス場に全く影響を受けない光子は、するするとすり抜けて相変わらず光速でとんでいきます。

 

 

ヒッグス場からうまれるヒッグス粒子

素粒子の世界では、粒子とは何かを知るために、まず場とは何かを考えます。

たとえば、ヒッグス場はこんな人がたくさんひしめいている会場だとしましょう。

ふだんは、それぞれランダムにだんらんしています。

このヒッグス人たち、勉強熱心でよく集会をします。この集団が、実はヒッグス粒子

どれだけ勉強熱心かで、ヒッグス粒子の重さがきまるのです。見つかったヒッグス粒子は陽子の130倍もの重さ。かなり熱心な人たちです。

ヒッグス人たちは習ったことを他の人たちに伝えていきます。他のヒッグス人たちも集会を開きます。集会はどんどんヒッグス場を伝わっていきます。

つまり、粒子とは場の上を旅するさざ波のようなものなのです。

電場や磁場も同じです。たとえば電場。電場も宇宙を満たしています。電場がある場所でゼロでない値をとっていると、それが静電気をおこしたりします。

さて、このヒッグス人でひしめいた会場に、人気者、孤高の哲学者タウ氏が登場します。

ヒッグス人はよってたかってタウ氏に教えをこいます。タウ氏なかなか前に進めない。

というわけでタウ氏は重たいのです。電子はあんまり人気がなく、それほど影響は受けませんので、軽いのです。

きつねにつままれたようだと思われる方は、次をお読みください。

 

質量が生まれる本当の理由

陽子をつくっている3つのクォークの重さを足しても、陽子の重さにならないのをご存知でしょうか。

アップは3MeV(MeVはエネルギーの単位)、ダウンは6MeV陽子はアップ2つとダウン1つでできているので、合計12MeV。でも陽子の重さは938MeVです。

つまり、クォークの重さは陽子の2パーセントにも足りないのです!

残りの98パーセントはどこからくるかというと、実は2008年にノーベル賞を受賞された南部陽一郎氏による自発的対称性の破れ」という現象によります。

これは、宇宙の真空が実はクォークと反クォークのペアで満たされていて、クォークたちがこれまた引っ張られて重くなる、というものなのですが、詳しいことはまたの機会にお話しいたしましょう。こちらのメカニズムについては、すでによく知られています

ヒッグス場は、実は陽子の2パーセントを構成しているクォークたち自身の重さを説明してくれます。さらに、クォークのみならず他の素粒子の重さも説明します。

なぜヒッグス場がそもそも粒子を引っぱることができるのか、というのも自発的対称性の破れという考え方に深いつながりがあります。

自発的対称性の破れとは、自ら対称性を崩すこと。たとえばヒッグス人たちが学校の授業でみんなで輪になるとしましょう。輪は対称ですが、それぞれが自分の右側の人に向けば方向性ができてしまい、対称性はくずれてしまいます。

もともと素粒子の理論は対称につくられています。対称的で美しすぎて粒子が質量をもてないのです。質量を持たせるためには対称性を崩す必要があります。

そこで下図のようなワインボトルの底のような形のヒッグス場を想定します。

ここにボールを真ん中に落とすと、真ん中の山に落ちますが、ここは安定でないので左右前後どちらかの方向を選びます。どっちに落ちるかはそのときどき。真ん中にいれば対称ですが、方向を選んでしまうのでこの場は対称ではなくなってしまいます。対称性を破るためにエネルギーをつぎこむ必要もなく、安定になるために勝手に対称性を破るというわけです。

上図のオレンジのボールが ヒッグス粒子。このヒッグス粒子はワインボトルの底で振動します。どれくらい壁をよじのぼれるかがヒッグス粒子の重さになります。

ヒッグス粒子粒子の重さや性質を調べれば、ヒッグス場がどんな形をしているかがわかるようになるのですね。

 

質量は宇宙のはじめに生まれました

ヒッグス場は存在していないといろいろと困ったことがおこります。

もともと物理学者ピーター・ヒッグス氏がヒッグス場を考えたのは、弱い力を運ぶWやZボゾンがとても重たい理由を説明するためでした。電磁力を運ぶ光子は質量がないのに、WやZボゾンが非常に重たいという観測がされていたのです。

ヒッグス場はみごとにWやZボゾンたちの質量を説明します。

そして後に、ヒッグス場が存在すれば、WやZボゾンだけでなく、物質をつくる素粒子クォークやレプトンたちにも質量を与えることができるということがわかったのです。

このヒッグス場はいつ生まれたかというと、宇宙が始まって10億分の1秒後。私たちの宇宙がこのヒッグス場に満たされているおかげで原子もでき、私たちも存在できるというわけです。

だからヒッグス場は存在するはずなのですが、そのヒッグス場がどのようなヒッグス粒子を作りだすのかはわかっていないのです。質量が全くわからないので、シラミつぶしに探していくしかないのですね。

 

神の粒子と呼ばれるわけ

標準模型で予言されている粒子のうち、まだ見つかっていない唯一の粒子。標準模型で予言されているヒッグス粒子が見つかれば、標準模型が完成します。

今回の結果ででてきたものが本当にヒッグス粒子だったとすると、標準模型で予言されている質量の範囲内。このヒッグス粒子が標準模型のものなのかはまだわかりません。そしてヒッグス粒子が存在しなければ、それは標準模型が崩れることになります。

標準模型で予言されるのは、本記事4番目の写真にある素粒子たち。「G」と書いてあるグラビトンは、重力を伝える粒子として書かれていますが、これは厳密にいえば標準模型の中には入りません。標準模型では重力はうまく記述できないのです。

 

標準模型をこえてほしいわけ

標準模型とは、強い力、電磁力、そして弱い力を記述する理論。そして過去数々の加速器実験によって、ことごとく裏付けられています。これはこれで美しい理論ではあるのですが、まだまだ問題もあります。

まず標準模型だけでは、この三つの力をうまく「統合」できないのです。もちろん重力もできません。これらの力の強さはなぜ違うのかなぜ素粒子は三世代あるのかなぜ素粒子の重さはこんなに違うのかなぜ粒子と反粒子は違うのか、といった疑問にも答えることはできません。

力を統合して、様々な疑問に答えるためには、標準模型を超える理論が必要になります。

三つの力をうまく統合する理論として超対称性理論というものがあります。超対称性理論が正しいとすれば超対称性粒子が存在することに。

素粒子的人生論の最後にスーパーパートナーが出てきますが、これがその超対称性粒子。LHCでも捜索中です。

素粒子物理学の目指すところは、全てを統一し謎に答えることのできる

大統一理論

標準模型を超える超対称性理論などの理論が正しいとすれば、ヒッグス粒子も一つとは限りません

来年いっぱいでヒッグス粒子発見となるかもしれません!そして今後数年にわたり、さらにデータを集めて標準模型を超える理論も検証できるのです。

これからのヒッグス探索、楽しみですね。

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この記事への2件のフィードバック

息子が素粒子関係の研究をしているため、今回のヒッグス粒子発見か!というニュースに興味を持ちましたが、現実世界では切っても切れない質量の起源と重力との関係はどうなっているのか(もともと光速で飛び交っていれば重力が始めから存在していても働けなかった? ・・・素人考え?)疑問を持ちネットで調べるうち貴殿のページにたどりつきました)。素人には理解できるか分かりませんが、わかりやすい図解などがあったので、これを参考に勉強してみます。私は大学の学部では有機化学の専攻だったので、この分野は素人です。また、息子は海外の大学で研究中で、今はゆっくり話を聞くことはできませんので。他のページよりわかりやすそうに見えましたので、つい、コメントを送ってしまいました。

新田守さま

このブログの管理人です。
コメントありがとうございました!

この記事を書いた林田美里は3月末で退職してしましたが、
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