超光速ニュートリノは5月の追試が必要なわけ

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2月25日土曜日午後2時50分。開始10分前。実験工房にびっちり並べられた70席もの椅子はぎっしり埋まりました。ですが、会場はしずまりかえり、しーーーん、という音が聞こえんばかり。空気の密度がました感じさえします。

 

あぁ、みなさん、二日前の23日にあのニュースがありましたね、と私は心のなかで弱々しく問いかけます。ニュートリノが光速を超えたという実験結果に間違いの可能性が・・・というあのニュース。

 

オペラ実験日本代表・名古屋大学の中村光廣先生ご登壇のサイエンティスト・トークイベント「ニュートリノは光速を超えるか」。このスライドを完成させたのは、イベントの3日前。つまり、あのニュースの前日。

 

翌朝には、海外雑誌により、超光速ニュートリノは間違いだったという内容の記事が回り始め、午後には国内の報道機関も間違いの可能性がという記事をネットに。

「先生、5月の追試までははっきりとしたことはいえないんですよね・・・?」

少なからず動揺している林田に対し、電話の向こうの中村先生は、超光速を否定する可能性のある問題点2点について丁寧に話してくださいます。

「当日は朝10時を目指して参りますので、朝にも打ち合わせいたしましょう」

 

というわけで、早朝、はるばる名古屋からお越しいただきました。

 

本番開始10分前、一言も発しないまま、じっと開始を待つ来場者の方々の目は、しかし期待に輝いているようにも見えます。

「ニュートリノに光速を超えてほしいひと!」

 

という私からの問い掛けに、ざざざざっとたくさんの手が勢いよく上がります。みんな、あの小悪魔がお好きなんですね、と心の中でほくそ笑むファシリテーターの私。

 

はい、本番開始。カメラローリング。

 

昨年9月に世界中に一大センセーションをまきおこしたあの小悪魔ニュートリノ。コレ↓

ニュートリノが光速を超えたというニュースについてはこちら

 

そもそもオペラ実験はどうやってニュートリノをつくって、どうやって検出しているの?ニュートリノの研究をするとなにがわかるの?そして、光速を超えるとなにが問題なの?

 

ということに疑問をいだかれるみなさまは、いずれYouTubeにこのイベントのビデオがアップされますので、ぜひご覧いただければと思います。

 

ここでは、最近話題になった、超光速を覆す可能性のある2点について、先生のご説明をご紹介しましょう。

イタリアにある長基線ニュートリノ振動実験オペラは、超光速の結果が出てからというもの、実験が正しく行われているかどうかの精査のために尽力してきました。その結果、新たに浮上したのがこの2点。(詳しくは【速報】超光速ニュートリノは間違い?を)

1.オペラ検出器のあるイタリアのグランサッソにおいて、地上から地下の時計まで時報を送る光ファイバーのコネクターがゆるんでいた。

2.オペラの時計がうまく同期されていなかった。

この2点について、先生は急遽ホワイトボードを使って熱心にご説明くださいました。

まず1つ目を説明しましょう。

オペラ実験は、グランサッソ地下1400メートルのところでニュートリノを待ち構えています。

グランサッソの研究所の地上の時計は、GPSと同期されていて、さらにその時刻が地下のオペラの時計と同期されるわけです。この信号は光ファイバーで送られます。

ところが!この光ファイバーをつなぐコネクターが、ぎゅっとつながっていなくて、ゆるんでいたのです。

普通のケーブルのコネクターですと、とりあえずつながっていれば時間の遅れは生じません。しかし光ファイバーはくせもの。

光ファーバーからやってきた光の信号は太陽電池のような検出器で受け止められます。このとき、シグナルになるかならないかは、光の量によります。つまり、強い光だとすぐにシグナルになるし、弱い光だとシグナルになるまで時間がかかります。

コネクターがゆるんでいて光の量が弱いと、それだけ時報が遅くなってしまうのです。

時報が遅くなるということは、オペラの時計が遅れてしまいますので、ニュートリノがやってきた時間を実際よりも前倒しに記録してしまうということです。つまり、ニュートリノは早く到達しているように見え、ニュートリノ速度が速く計上されることになるというわけです。

つまり、コネクターをしっかり絞めると、ニュートリノの速度は遅くなる可能性があります。

このコネクターはいつゆるんだのかはわかりませんし、どれくらいゆるんでいるのかも、再試験してみなければわからないわけです。

[caption id="attachment_12695" align="aligncenter" width="430" caption="コネクターがゆるんでいて光が弱いと、シグナルになるまで時間がかかる。"][/caption]

2つ目の問題点は、反対にニュートリノの速度を速くするかもしれません。

こちらは、オペラの時計が速く進んでいた問題。

本来なら、地上の時計と地下のオペラの時計は0.001秒ごとに同期されて、オペラの時計はリセットされているはずなのです。しかし、実は0.6秒ごとにしかリセットされていないことがわかりました。

同期されていない間、オペラ時計は自らの歩幅で時を進めます。その速度が、本当の速度よりもちょっとだけ速かったのです。

このため、オペラの時計は進んでいて、ニュートリノがやってきた時刻を遅めに見積もってしまいます。つまり、ニュートリノの速度は遅くなるのです。

この同期のタイミングを修正すると、ニュートリノの速度は速くなる可能性があるというわけです。

 

検証に検証を重ねて来たオペラ実験と、オペラの検出器を担当する日本チーム。ニュートリノビームは早ければ4月に出るかもしれません。

 

ニュートリノ、波瀾万丈

この大変な時期に多大なお時間をいただき、今回のイベントを成功へと導いてくださった中村先生、そして来場者のみなさま。素粒子物理学研究最前線での研究者の葛藤と真摯な思いが、来場者の方々に直に伝わったのではないかと思います。

 

物理学は新しい発見をもとにブレークスルーしてきた学問。そういう意味で、気持ちとしては光速を超えていてほしい。でも、学生を教える先生として、光速を超えていては困るという思いはあって、物理学者として精神分裂」と、超光速ニュートリノについて、先生は自らの葛藤を語ります。そしてそんな中でも、「実験がきちんと正しく行われているかをただ確実にする」という信念。

 

超光速ニュートリノの間違いの可能性がでてきているなかで、しかしまだどう転ぶかはわかりません

 

もともとニュートリノは、素粒子標準モデルの中でも問題児。ニュートリノを研究することで、謎の多い標準モデルを超える物理が発見できるかもしれません。

期待と葛藤のなかで、これからどうなっていくのかわからない最先端ニュートリノ研究の面白さを、来場者の方々と共に感じることのできた、とても貴重な時間でした。

 

ご来場いただいた90名ものみなさま、そして本ブログを読んでくださっているみなさま、本当にありがとうございます。5月を楽しみに待ちましょう!

 

(当日配布したワークシートにもぜひチャレンジしてみてください↓)

 

おまけ

林田の幸せはこんな光景↓

[caption id="attachment_12709" align="aligncenter" width="430" caption="終了後、小学生の女の子が先生にくいついています"][/caption]

林田も幸せのときを過ごしました↓

[caption id="attachment_12710" align="aligncenter" width="430" caption="量子の波と粒の性質についてきかれました"][/caption]

来場者のみなさまには原子核乾板を顕微鏡でみていただいたのですよ!

[caption id="attachment_12711" align="aligncenter" width="430" caption="CCDカメラで素粒子の軌跡を会場の壁に投影"][/caption]

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この記事への7件のフィードバック

林田様

中村先生のトークイベント,参加させていただいてとても充実した楽しい時間をすごせました。ありがとうございました。

直前のニュースはちょっと心配でしたが,その解説を丁寧にしていただき,4月再実験への期待がふくらみました。

オペラ実験が日本を中心として行われていて,ニュートリノに関してはT2K実験より先んじているようにも思われました。日本の宇宙・素粒子研究への期待がまたしても高まりました。

昨日だったか,CERNのヒッグス粒子探索も再開したというニュースがあり,今年はいろいろ発見が進むといいですね。

初めまして。

 昨年、9月の超光速ニュートリノの発表以来、OPERA 実験を「おっかけ」している者です(笑)。いつものように「ニュートリノ 光速」で検索したところ、こちらのブログに行き当たりました(笑)。

 先月、2/23に報告された実験装置不具合の話も聞き及んでおります。光ファイバーコネクタの緩みが何故時刻の遅れをもたらすのか…コネクタが緩んでいれば、むしろ信号は届かないのではないか…などと疑問に思っておりましたが、こちらのブログで、その疑問は氷解しました。ありがとうございます。

 不具合の報告に対しては「やはり」という声を多く聞きます。ですが、不具合は誤差を相殺し合う2つが確認されてますよね。このブログの内容をみても、不具合による誤差の具体値の特定は難しいように見受けられました。つい先日にも、同じCERNの別の実験チームにより「ニュートリノは光速を超えていない」という検証実験の結果が報告され、更に追い風厳しい状況ですが、私自身は「やはり」というにはまだ早く、再実験待ちかな…と思っております。

 OPERAの実験結果が是か非かに関わらず、私にとってはとても興味をかきたてられ、同時にとても勉強させてもらった出来事でした。これからも、OPERA 実験を追いかけていきたいと思っております。

尚、せっかくですので(?)ブログの問題(?)を解いてみました。以下、回答です。あまり自身はないですけど…(^_^;)

1.ニュートリノはどんな粒子?

a)重い…×

とても軽い!比較的最近まで、質量がないと思われていたほどに…。

b)よくすり抜ける…○

だから、CERN→グランサッソ間の実験が可能なんですよね?

c)2タイプある…×

電子型、μ型、τ型の3種類

それぞれの反粒子を合わせると6種類

d)宇宙を満たしている…○かな?

ちょっと微妙。ニュートリノはそこら中にあり、私達も日々大量のニュートリノを浴びていると聞きました。ですので○としましたが、「満たしている」というとエーテルのような印象があるので、だとするとちょっとニュアンスが違うようにも感じました。

e)宇宙の解明に役立ついい粒子…○

ビックバン直後は全ての粒子が光速だった…と聞いたことがあります。現在では光速で走行する粒子はほとんどなく、その中でも光速を維持するニュートリノは興味深い存在のように思います。

2.光速を超える粒子があると( c)因果律 )が破綻する

選択肢からはこれしかなかったのですが…。

これは「光速を超えると過去へのタイムトラベルが可能だ」とか、「過去に情報を送れる」とかに起因するものかと思うのですが、一方で光速を超えただけでは過去へさかのぼることはできないとも聞きます。曰く、過去への映像が見えるだけで、過去に影響を及ぼすことはできない…と。だとすると「因果律を破ることにはならない」ようにも思いますが…。どうなんでしょう。

3.素粒子がぶつかると別の粒子が出てくるのは何故?

b)質量とエネルギーは等価だから…かな?

実は常々疑問に思っていたことです(^_^;)

「元の物質の中に含んでいたわけではないものが飛び出してくる」ということが、頭の固い私には受け入れ難いことなのかもしれません。

4.オペラ実験は何のためにある?

c)ニュートリノ振動をみる

初のアペアレンスモードによる観測ですよね?

5.原子核乾板はなんで観る?

b)顕微鏡

6.ニュートリノに期待すること

b)標準モデルを超えること…?

7.原子核乾板は何を検出できる?

c)素粒子…?

長文、失礼しました。

パプリカさま

◎です。でもQ7だけ、イベントビデオがアップされたらぜひもう一度トライしてみてください。

Q2の因果律ですが、相対性理論で素直に考えますと、情報を過去に送ることができてしまいます。しかし、異次元などを導入することにより、過去戻ることを禁止してしまう理論もあります。ですので、超光速粒子の存在は、因果律を破ってしまうわけではなく、さらに高次の理論を証明するものだという見方もできます。

これからのニュートリノ実験と素粒子の研究が楽しみですね。

林田

林田様

パプリカです。

採点ありがとうございます。

Q7、間違ってましたのですね。

ビデオがアップされましたら、是非拝見いたします。

因果律ですが…。

相対性理論では、過去に情報を送ることは可能ですか。不勉強でした。もう一度、出直して参ります(笑)。

「異次元などを導入することにより…」というのは、過去に情報を送ったつもりでも実はその過去は私達の世界とは異なる次元であり、故に私達の現在が変わることはなく、従って因果律を破ることもない…という理解であってますでしょうか。

「過去に戻るのを禁止」というのは、私達と同じ次元の過去に戻ることはできなくて、他の次元の過去ならば可能…?

パプリカさま

異次元での超光速粒子は、異次元に出た粒子がまた私たちの世界に戻ってくるときに、過去の世界には戻らないとする説明が可能です。バケツの中の水から出た水しぶきが、また水面に戻るときに、過去の水面には戻らないですね。

因果律と異次元についての説明は、こちらにさせていただきました。↓

http://misatopology.com/2012/03/22/causality/

ご興味があればぜひご一読いただければと思います。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

林田

林田様

パプリカです。

ご返事、ありがとうございました。

お礼が遅くなり申し訳ありません。

リンク先も拝見いたしました。

異次元…云々については、私が想像していたものとは違うのですね。

が…。

目下のところ咀嚼中です(笑)

理解してからお礼させて頂きたかったのですが、そうするといつになるかわからないので(苦笑)、取り急ぎお礼だけでも言いたくてコメントさせていただきました。

改めて、ありがとうございました。

頑張って勉強します。

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