iPS細胞シンポジウムに寄せられたご質問①

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6月17日(日)に未来館で開催した「iPS細胞と私たちの未来」に、たくさんのご参加をありがとうございました。

ツイッターを通してご質問をお寄せいただきながら、山中伸弥先生、イアン・ウィルムット先生にお聞きする時間が取れずに申し訳ありませんでした。

お寄せいただいた質問のうち、いくつかは、このブログでお返事をしていきたいと思います。

なお、先生方はたいへんお忙しいために、かわって詫摩がお答えすることをお許しください。詫摩は前職から山中先生のお話を聴く機会が多くあり、また、ほかの先生方への取材などもあるので、そこから得た知識でお答えしていきます。誤りなど、お気づきになられたら、コメント欄からお知らせいただければ幸いです。

なお、たくさんあるため、何回かに分けてお返事をしていきます。

Q.iPS細胞は病気の治療以外にどんなところに役立ちそうだと思いますか?

山中先生が一般向けのご講演でよく挙げているのは、「創薬(新しい薬の開発)の分野」と「病気の解明」です。ヒトiPS細胞の作成からまもないときに、すでに「すぐにでも実用化されそうなのは創薬(新しい薬の開発)の分野」と話していました。

どのようにするのでしょう? 新薬の候補物質が深刻な副作用を引き起こさないかをチェックするのに、iPS細胞を使うのです。一部の薬は、ごくまれではありますが、命にかかわる不整脈を起こすことがあります。iPS細胞を心筋細胞に変えておき、そこに薬の候補物質を加えて、細胞の“心電図”をとるためのキットがすでに商品化されています。

この商品を扱っている、リプロセル社の横山周史社長に2009年にインタビューしたときのお話を紹介しましょう。

「ヒトiPS細胞が発表されたとき、再生医療への期待が語られたが、本当の意味で大きかったのは、ヒト細胞の安定した供給源ができたことだ」

これが、横山さんが最初に仰ったことでした。

がん細胞でないかぎり、ヒトの細胞はシャーレ(培養皿)の中ではほとんど増えません。薬の副作用を調べるには、とくに心臓と肝臓が重要になりますが、心臓の細胞を入手しようとすると、生前にお願いして、亡くなられた方の心臓をいただくしかなかったのです。いかに入手困難で、数を集めるのが難しいか、おわかりいただけるかと思います。しかも、せっかくいただいた心臓の細胞も、1回の実験にしか使えません。

ですが、iPS細胞は無限に増殖します。シンポジウムで山中先生が言われたように、数ミリの皮膚の切片からiPS細胞を作れば、「何百枚、何千枚、何万枚ものシャーレを一杯にするまで増やす」ことができます。こうして増やした細胞を、心筋細胞に変える方法もすでに確立しています。

それだけではありません。過去に薬で副作用を起こしたことのある方のiPS細胞を作ることもできますし、いらんな人種の細胞をそろえることも十分に現実的です。(一部の薬は、人種によって副作用の出方が違うことがわかっています)。

創薬の現場で使えるような肝臓の細胞はまだiPS細胞からつくることができずにいますが、これも時間の問題でしょう。

参考文献:「創薬に活躍するiPS細胞」詫摩雅子、日経サイエンス2009年8月号

 

Q.iPS細胞を作るための初期化因子のレトロウイルスの遺伝子は増殖したiPS細胞には受け継がれないのでしょうか? 初期化因子は何か悪さはしないのでしょうか?

山中先生は皮膚の細胞をiPS細胞にするために、4つの遺伝子(山中4因子)を細胞に入れました。入れるときに、レトロウイルスの力を借りています。レトロウイルスは、自分の遺伝子を細胞の染色体にはめ込むという性質があります。レトロウイルスの病気をもたらす遺伝子を取り除き、初期化のための4つの遺伝子と入れ換えておけば、これを細胞の染色体に組み込んでくれるのです。

ご質問の答えですが、初期化因子を入れるのに、レトロウイルスを運び手とした方法では、増殖したiPS細胞に、外から加えた因子は引き継がれます(レトロウイルスの遺伝子は最初から取り除いてあるので大丈夫です)。

これが、長期にわたって安全かどうかはまだわかっていません。

将来的に、悪さをする可能性はまったくないとは言い切れないのです(何せ、ヒトiPS細胞が誕生してから、まだ5年しかたっていませんし、体内に移植した人もいないので)。

この懸念点は、当初から山中先生ご自身によって指摘されています。

ただし、初期化因子が増殖した細胞にも引き継がれるのは、入れる方法として、レトロウイルスを使った場合です。世界中の研究室が、外から加えた因子が増殖したiPS細胞に引き継がれない方法を研究しています。レトロウイルスを使わずに初期化遺伝子を入れたり、そもそも遺伝子ではなく、それがつくるタンパク質を入れる方法などがありますが、効率や安定性は落ちるようです。

 

Q.なぜこのところiPSでこれが作れた!という話題が相次いでいるのか知りたい。一斉に始めて、大体同じ期間で結果が出るものなの?

えーと、横浜で日本再生医療学会と国際幹細胞学会がほぼ同時期に開かれたことが大きいと思います。世界中の研究者が横浜に集まって、成果を発表するわけですから、取材するメディアの側も学会会場に張り付いて、せっせと記事を書くわけです(詫摩は経験者だったりします)。

 

このほかにも、たくさんいただいたご質問をお答えしていきますが、今日はこの辺で!

※繰り返しになりますが、質問への回答は、これまでの取材をもとに詫摩が書いたものです。シンポジウムの前後に山中先生、ウィルマット先生に伺った内容ではありません。この点に関しては、本当に申し訳なく感じております。情報が古くなっているなど、誤りがございましたら、コメント欄にお寄せいただければ幸いです。

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