iPS細胞から腎臓をつくる~ニュースのその後~

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みなさま、はじめまして。

2013年10月より未来館で働いています、志水正敏(しみず・まさとし)です。

どうぞ宜しくお願いします!  

20140124_shimizu_01.jpg(熊本名産・「ばんぺいゆ」と愛犬と)

さて、熊本出身の私にとって嬉しいニュースが2013年12月にとびこんできました。

iPS細胞から腎臓組織を作製、熊本大(朝日新聞、12月13日付)

 私の故郷熊本県は、人口比で透析患者が最も多い都道府県の一つです。それならば熊本出身である私が詳細をお伝えせねばならん!ということで、年末の帰省にあわせて、熊本大学まで行ってまいりました。

このニュース、新聞やテレビでご覧になった方も多いのではないでしょうか。

 

腎臓の病気を抱える方は年々増加しています。糖尿病などが原因で人工透析を受けている方は日本では30万人を超え、社会問題となっています。(ちなみに、日本は人口比で最も人工透析患者が多い国です。) もし患者さんのiPS細胞から腎臓を作ることができれば、多くの患者さんを救えるかもしれません。

 

腎臓組織の作製に成功したのは、の西中村隆一先生のグループです。

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(こちらが西中村先生。年末のお忙しい時期にインタビューに応じていただきました。 ありがとうございました!)

西中村先生は、腎臓内科医として勤務された経験もお持ちの方です。今回、ヒトのiPS細胞から腎臓の一部を培養皿の上で作成することに成功しました。

 

 

―Questionその1―

志水:今回の成果では"腎臓の一部"と聞いていますが、どういうことでしょうか?

西中村先生:腎臓は「ネフロン」という複雑な構造が100万個以上集まってできています。私たちはネフロンが数十個集まった組織をつくることに成功しました。

 

実際に医療で使うには、さらなる研究が必要なのだそうです。しかし、腎臓をここまでつくれるようになったのは、大きな進歩なんですよ! というのも、腎臓は構造が複雑で、「つくれるわけがない」とすら言われていたからです。


下の図は腎臓の模式図です。 

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右上に毛糸玉のような複雑な構造がありますね。これが「糸球体」です。糸球体は血管が複雑に絡み合ったもので、ここで血液中の不要なものがろ過されます。つづいて、ろ過されたものが向かう先が「尿細管」です。尿細管では、「ろ過されちゃったけど、本当は身体に必要なもの」が再吸収されます。

そして「糸球体」と「尿細管」を合わせたものが、西中村先生の言葉にある「ネフロン」です。「ネフロン」を通り抜けたものは「尿管」を通って、尿として膀胱(ぼうこう)に集められるというわけです。

 

・・・うーん、複雑。たしかに「腎臓は作れない」といわれるのも分かるかも。 (西中村先生はアメリカの研究者に「俺が死ぬ前に、どんなに小さくても良いから試験管の中で作った腎臓をもってこい。そしたらYou winと言ってやる」とまで言われたそうです。)

しかし西中村先生は、世界で初めて3次元構造をもった「糸球体」「尿細管」を培養皿上で作製することに成功しました。つまり腎臓の最小単位であるネフロンができたわけです。 その写真がこちら。

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  (ピンク色の部分が糸球体、黄緑色の部分が尿細管。糸球体と尿細管がつながっていないように見えますが、断面図を重ねてみると、つながっていることがわかります。)

今回作ることができた腎臓の組織は妊娠3か月の胎児と同じくらいの成熟度です。胎児の場合は、このあとネフロンの数がどんどん増え、血管や尿管とつながります。今回の組織は、残念ながら、尿を作る機能は見られなかったそうです。

 


―Questionその2―

志水:なぜ先生のグループが世界に先駆けてネフロンをつくることができたのでしょうか。

西中村先生:iPS細胞やES細胞(どちらもどんな細胞にもなれる細胞)から腎臓をつくろうとしたチームはいくつかありました。彼らは、腎臓の元といわれていた「中間中胚葉」という細胞をつくり、それを腎臓に変えようとしていました。しかし、どうもうまくいかない。私たちは逆に、「腎臓はどんな細胞から作られるのだろう」ということをまず調べました。すると「体軸幹細胞様細胞」という全く別の細胞から作られることが分かりました。中間中胚葉からできるというのは間違いだったのです。この体軸幹細胞様細胞をiPS細胞から作れたので、腎臓も作ることができたというわけです。

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西中村先生は、「腎臓は中間中胚葉から作られる」という定説を疑いました。それは同研究室の大学院生、太口敦博さんによるある発見がきっかけでした。太口さんも初めは中間中胚葉から腎臓を作ろうとしていました。しかしある時、中間中胚葉以外の細胞から腎臓の元となる細胞ができることがあることに気が付きました。この発見を足がかりに研究を進めた結果、世界で初めてネフロンを作るのに成功したそうです。

 


―Questionその3―

志水:機能のある腎臓にするには、このあと何が必要でしょうか。

西中村先生:まずは、尿を膀胱に送る尿管芽という細胞をつくることです。腎臓は尿管芽という細胞とネフロンをつくる細胞がお互いに刺激しあうことでできてきます。その刺激によってネフロンの数が増えることも期待されます。さらに血管をつくるとなると、時間がかかるでしょうね。

 

 やはり、培養皿の上で腎臓そのものを作れるようになるには、まだ時間がかかるようです。しかし、西中村先生をはじめ、多くの研究者の方が腎臓病の患者さんのために日々研究に励んでいます。ここで西中村先生から読者の皆様へのメッセージをお伝えします。

西中村先生:僕らの研究をすぐに応用するのは難しい。その点は十分にご理解いただきたい。だけど、僕自身も腎臓内科にいたこともあるので、一日たりとも(患者さんのことを)忘れたことはないです。患者さんの人生とか期待とかいうのを背負っているつもりで生きているので、一日でも早くというのは思っていて、その努力をしているので、それを覚えておいてください。

腎臓そのものをつくることはまだ難しいのですが、今回の技術を役立てられることがいくつか考えられています。次回の私のブログでご紹介します。

4月21日追記
改めて取材を進めたところ、実際に応用されるまでには、多くの研究が必要な段階であるということが分かりましたので、応用面についての記事は差し控えさせていただきます。ご興味をお持ちであった皆様に深くお詫び申し上げます。

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