改めて考える。STAP細胞とは何ぞや!?

このエントリーをはてなブックマークに追加

STAP細胞が発表されて、1週間が経ちました。

一時のお祭り騒ぎもだいぶ落ち着いたようにみえます。

STAP細胞については、以前このブログで【速報】という形でご紹介しました。

http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20140130stap.html

しかし、筆者志水、どうもその「本質」をお伝えできなかったのではないか、そんな疑念が頭をもたげました。

速報記事では、あまりに簡単な作製方法を主にお伝えしました。

ですが、作製方法が簡単になっただけで科学界がここまで大騒ぎになるとは思えません。

STAP細胞の発見には、生物学や医学を根底から覆す「本質」があるはずです。

自分のアンテナの鈍さを嘆きながら、改めて論文やプレスリリース、新聞記事とにらめっこしてみました。

知り合いの研究者にお話を伺ってもみました。

その結果、「本質」は「私たちの細胞にはなぜ元に戻る力が秘められているのか、その力はどのように制御されているのか、新たな疑問を投げかけた」点にあると感じました。

二度手間で恐縮ですが、どうぞお付き合いください。

(そして「『本質』は別のところじゃないか?」という方は是非コメント欄にご意見をお寄せください。)

20140205_shimizu_01.JPG

志水、ニンジンに学ぶ、の図

 

私たちの体は200種類以上の細胞が集まってできています。

神経の細胞、筋肉の細胞、のように場所や役割によって異なる細胞が必要です。 

ですが、これらの細胞も元をたどればたった一つの細胞です。

そう、受精卵ですね。

受精卵が胎児の形になっていく過程で、細胞が増え、その後いくつかのステップをふんで、神経の細胞や筋肉の細胞に分かれていきます。

これを「分化(ぶんか)」といいます。20140205_shimizu_02.jpg

大事なのは、「ヒトを含むほ乳類では、いったん分化した細胞は、普通は元に戻らない」ということです。

(植物では分化した細胞も元に戻ることが知られています。例えば、ニンジンの根っこ(食べる部分)は、条件を整えてあげると、いろいろな細胞になれる細胞の塊(カルス)をつくり、そこから茎や根がつくられます。)

ほ乳類の神経の細胞が前段階の細胞(この図では「いろいろな細胞になれる細胞」)になったり、筋肉の細胞になったりすることは、普通はありません。

脳みその神経細胞がいきなり筋肉の細胞に変わってしまったら大変ですよね。

そうならないように細胞には、戻らないための仕組みがあると考えられています。

しかし、研究の結果、細胞をうまく操作すると、分化した細胞も「元に戻れる」ことが分かりました。  

20140205_shimizu_03.jpg

その一つが「iPS細胞」です。

京都大学の山中伸弥先生が発見したこの技術では、分化した細胞に4つの遺伝子を加えると、いろいろな細胞になれる細胞に戻ることが分かりました。

さあここで、ようやくSTAP細胞が登場します。(お待たせしました!)

細胞の外から刺激を加えるだけで、いろいろな細胞になれる細胞に戻すことができました。

酸性の液体に限らず、ガラス管を何回も通したり、化学的な手法で細胞膜に穴を開けたりする方法でもSTAP細胞はつくられました。

「それならiPS細胞とSTAP細胞の違いは、やっぱり作製方法の違いじゃん!」

「細胞の中を変えるか、外から変えるか、の違いですよね?」

たしかに、そうとも言えるかもしれません。

実はiPS細胞とSTAP細胞の中で起こっていることも、似たようなことなのかもしれないのです。

STAP細胞とそうでない細胞を見分ける基準とした遺伝子Oct4は、iPS細胞をつくるときに加えられる遺伝子の一つです。 つまり、どちらも遺伝子Oct4がスイッチの一つとなって、いろいろな細胞になれる細胞に戻っていると考えられます。 ということは、STAP細胞になるときに、外からの刺激を受けてOct4などの遺伝子が働くようにしてしまえば(もちろんその過程は非常に興味深いですが)、iPS細胞もSTAP細胞も、細胞の中では同じメカニズムで細胞が元に戻っているのかもしれないのです。

 

しかし、この発見は「作製方法の違い」以上の示唆に富んでいます。

そこにこそ、STAP細胞の「本質」があるように思えるのです。

外からの刺激だけで細胞が戻る、ということは

「細胞は生まれながらにして、傷ついたときに前段階に戻る能力を備えている」

ということです。

でも、なぜ?

例えば、みなさんの手の平に擦り傷ができたとしましょう。

手の平の細胞は傷つけられてほとんど死んでしまうでしょう。

しかし、その傷も他の細胞が補うことでやがて無くなっていきます。

では傷ついた細胞はわざわざSTAP細胞になる必要などないですよね?

仮に、傷ついた細胞がSTAP細胞になったとしても、皮膚になるためには適切なステップを何段階もふまなければなりません。

わざわざ「万能細胞」にまで戻る必要はあるでしょうか?

前述したように、細胞はいったん分化したら、他の細胞に変わらないようにできているはずです。

では、STAP細胞にならないようにするにはどのようなメカニズムがあるのでしょうか?

あくまでここで書いたのは、「ヒトの大人」でSTAP細胞がつくられることがあるとの仮定の上です。

今回の研究では「マウスの新生児」の細胞からしかSTAP細胞はつくられませんでした。

ですから、STAP細胞ができるのは例外的なケースなのかもしれません。

しかし、STAP細胞は細胞の新たな可能性を示しているように思われます。

小保方先生らは論文の最後で

「細胞はなぜ、何のために、刺激を受けた時に元に戻る能力をもっているのか」

「その能力は普段どのようにして抑えられているのか」 とおっしゃっています。

その問いこそが、STAP細胞が示した「本質」だと感じました。

 

私たちは、新技術が見つかると「生活をどのように豊かにしてくれるか」という点に意識が行きがちです。

私もそのような視点で前回の記事を書きました。

しかし、生物の神秘に感嘆し、その可能性に考えをめぐらす良い機会なのかもしれません。

同僚も「お灸(きゅう)や鍼(はり)で体の調子がよくなるのも、STAP細胞と関係があったら面白いね」と感想を述べていました。

私も自分の手をじっと見ながら、目には見えない細胞の中で何が起きているのか、思いをはせています。

20140205_shimizu_04.JPG

 

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

この記事への2件のフィードバック

こんにちは。いつも目まぐるしく進化するサイエンスネタの執筆、ありがとうございます。
本当はもう少し文章をまとめてからお聞きしようと思ったのですが•••「科学コミュニケーターとは何だろうか」というお話です。

STAP細胞について、残念な情報が明るみになってきましたよね。報道で熱狂的なもてはやされ方をしたのちに、今度は捏造疑惑でいわゆる「炎上」の状態で各所で叩かれまくっているのですから、完全に世論が科学技術ニュースに弄ばれているように見えてなりません。このままでは科学技術界の信用低下は免れないのではないでしょうか。
そこで、ずっと気になっていたのですが、科学コミュニケーターという方々はこういう科学の非常事態にこそ必要とされる存在なのではないでしょうか。あまりサイエンスに親しくない方々から向けられるクレームを受け止め、真摯に対応できる専門家が今すぐ現れてほしい、と強く感じております。

一応、私も挫折したものの科学寄りの人間のつもりですから、科学の名誉挽回を願っております。
今回のSTAP細胞のトラブルをどう捉えるべきか、科学コミュニケーターである皆様のお力で冷静な記事を書いていただけないかと思い、コメントさせていただきました。

あさくら様

我々科学コミュニケーターの存在に
気をかけてくださる方がいらっしゃることを
有り難く思っております。

あさくら様が仰る通り、このような事態のときにこそ
何が起こっているのか、科学コミュニケーターが
分かりやすくお伝えしなければならないと思います。
また、皆様が科学・研究者に対して疑問に思う点を
伺う役割も果たせれば、とも思っています。

はっきりとした公式な情報がないときに、
どのようなことを未来館としてお伝えすべきなのか、
私自身つかみあぐねていたのが正直なところです。
現在分かっている情報に私なりの考えを加えて
新たな記事の今日・明日の公開を目指しておりますので、ご覧いただけますと幸いです。

私たち科学コミュニケーターは、事実をお伝えするだけではなく、
「科学とは何だろう?」「科学で見ると世界はどのように見えるのだろう?」
と皆様と一緒に考える存在であると考えています。
次に公開する記事を通して、そのようなことをお伝えできれば、と思います。

今後ともぜひご意見をお寄せください。

コメントを残す