原始重力波の観測に「待った」~真偽のゆくえは10月に持ち越し


 
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宇宙の起源に迫る「原始重力波」の痕跡を確認した――。世間を揺るがした大ニュースを3カ月ほど前、「宇宙の起源に迫る! ついにとらえた「原始重力波」からのメッセージ」と題して、未来館ブログで取り上げました。
 
この発表の真偽が今、厳しい目にさらされています。6月19日に米国物理学会の学会誌「Physical Review Letters」に発表された論文には、研究成果とともに"注意書き"も記されました。今回のブログでは、この発表が検証されているポイントを解説します。検証ポイントは以下の3つです。
 
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まずは前回のブログ」を簡単におさらいしましょう。宇宙は生まれてすぐ、急激に膨らんだと考えられています。そしてアインシュタインは予言しました。時空が歪められると、時空のゆらぎが波として伝わる「重力波」が生まれると。その宇宙が誕生した瞬間に生み出された重力波を「原始重力波」と呼んでいます。

 

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そして、原始重力波は「宇宙の晴れ上がり」のころの若々しい光に、ある"痕跡"を残しました。それが、渦を巻いているような偏光パターン「Bモード」です。この特殊な偏光パターンを観測することで、原始重力波を間接的に観測したというのが、前回の発表の肝でした。(何言ってるか分からん!って方は、「前回のブログ」をご覧ください)

 

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次に、今回のブログで登場する2つの装置を紹介します。原始重力波の観測に挑む実験は、大きく2つに分けられます。ひとつは今回発表された実験で活躍した装置「BICEP2」のように、地上から光を観測するもの。そしてもうひとつは、打ち上げた衛星を使って宇宙から光を観測するものです。宇宙から観測する実験の代表的なものとして「プランク衛星」が挙げられます。より鮮明な宇宙マイクロ波背景放射の画像を送ってきた衛星として、聞き覚えがあるかもしれません。

 

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今回発表された論文は「Physical Review Letters」のサイトで見られます。(すべてのページが無料でダウンロードできる規格外の扱い!) この論文に書かれた"注意書き"とは、このようなものでした。

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今回の実験データで「宇宙マイクロ波背景放射のBモード偏光を観測した」のは確からしいです。問題は「何が原因で偏光したのか」です。実は、原始重力波だけでなく、他にも偏光させる要因が少なくとも2つあるんです!ひとつは、強い重力で光が曲げられる「重力レンズ効果」によるもの。もうひとつは、「銀河の塵の効果」によるものです。銀河の塵は磁場の影響で向きがそろっているため、反射する光の波の振動方向がそろって偏光します。

 

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そして、先ほどの"注意書き"の「塵から放出されている可能性」というのが、「銀河の塵の効果」のことです。この塵の効果ははっきり分かっておらず、不確かな部分が多いのです。だから今回の結果について「原始重力波の影響ではなく、銀河の塵の効果により偏光したのではないか」と疑問が投げかけられているのです。 

 

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プランク衛星の実験グループが昨年、原始重力波の強さについてある発表をしました。原始重力波の強さを表すものとして「r比(スカラーテンソル比)」と呼ばれる値があります。プランク衛星の実験グループは昨年、このr比が「0.12より小さい」と発表しました。しかし、今回のBICEP2の発表では、「0.2」という値を出しました。プランク衛星の予想よりも原始重力波の大きさが大きかったのです!

「発表を聞いて、まずr比が大きいことに驚きました」

こう話すのは、自然科学研究機構の佐藤勝彦機構長。
宇宙は誕生した直後に急膨張したとする「インフレーション理論」の提唱者のひとりです。このほかにも、多くの研究者がこの値の違いに注目しています。
 
 
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もうひとつ、BICEP2とプランク衛星の実験で大きく違うことがあります。それは、観測する範囲です。地上で観測するBICEP2は、ある限られた領域からの光を詳しく観測しています。一方の宇宙から観測するプランク衛星は、すべての方向からやってくる「全天」の光を観測しています。観測する範囲が広いプランク衛星のデータが出そろえば、BICEP2のデータを検証することにつながります。
 
 
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今回のブログでは、検証するポイントとして3つ挙げましたが、特に注目されているポイントは、検証①の「銀河の塵の効果が不確か」という指摘です。しかし、行き詰まったと残念がるのはまだ早い! 先ほどから名前が上がっているプランク衛星は、この銀河の塵の効果も詳しく測定しているんです! そしてなんと、プランク衛星の最新のデータが、今年10月にも発表されるんです! 目が離せませんね!
 
 
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 ここまでの文章を読んで、何を感じたでしょうか? 「BICEP2の発表は間違い!?」のような記事も見かけますが、騒ぐことではないような気がします。宇宙は急膨張しているという「仮説」をたて、実験データに基づいて「検証」し、静かに「反証」を待つ。これこそ科学が通ってきた道であり、真理を探求するための方法だと私は思います。
 
科学としてあるべき姿だと思います
 
佐藤機構長は、眼鏡の奥の目を鋭くさせて、こう語りました。いずれにせよ、プランク衛星の実験グループの発表が待ち遠しくてたまりません。「宇宙はどうやって始まったのか」。好奇心あふれる問いに迫る瞬間に立ち会えることに、幸せを感じます。
 

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この記事への4件のフィードバック

プランク衛星の重力波の観測結果はでたのですか。
10月ごろ結果が出るといっていたが、どうなったのか。
まだであれば、いつ出るのか?
教えて欲しい。

岡本さま

コメントありがとうございます!

現在ちょうど、12月1日から5日の日程で、記事で紹介している「Planck」の研究チームのプレス発表会が始まっています。
http://www.cieffeerre.it/Eventi/eventi-in-programmazione-nel-2014/planck-2014-the-microwave-sky-in-temperature-and-polarization/PLANCK-2014

ただし、今回の発表は「present(報告)」であり「release(公開)」ではないと位置づけられています。なので、発表の資料やデータはまだ正式に公開されていません。

それを踏まえた上での、ネットやTwitterで漏れ伝わる情報によるお答えになりますのでご了承ください。私の最新のブログ記事(http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20140924post-541.html)に書いてある、「PlanckとBICEP2の共同解析」の結果は、今回はまだ発表されていないようです。

ソースはこちらのnatureの記事(最後のパラグラフ)です。
http://www.nature.com/news/european-probe-shoots-down-dark-matter-claims-1.16462?WT.mc_id=TWT_NatureNews

この記事によると、Planckの完全なデータは、12月22日に分かる。BICEP2との共同解析の結果は、来年公開される見込み。天文学者たちは、この発表によりBICEP2の報告が原始重力波の証拠なのか、それとも単なる銀河の塵によるノイズなのかを確かにすることを期待している。このように書かれています。

報告会では「銀河の塵の詳しいマップ」や「銀河の塵によるCMBの偏光」などのデータが示されたようです。

福田大展様へ
ヤフーニュースでこの記事に関するイメージ図の中にある漢字表記は大変気になります。原文の宇宙の晴れ上がりとの表現は文脈から推測すれば、脹れあがりか或いは脹れ上がりという漢字のほうは妥当ではないかと考えております。恐らく文字変化の際に起きた単純ミスであるかもしれません。

>ジャクさま

コメントありがとうございます。

宇宙の「脹れ上がり」ではないかというご指摘ありがとうございます。
恐らく初期宇宙の急激な膨張(脹れ)が緩やかになったころなので
「脹れ上がり」ではないかというご指摘だと推測しました。
ジャクさまのコメントを見て、職員どうしで
「なるほど!そのような考え方もあるのか!」と感心しておりました。

「宇宙の晴れ上がり」は、ビックバンの灼熱の初期宇宙で粒子がバラバラに飛び交っていたころの話で、電子が陽子に捕らえられて水素原子ができあがった瞬間を指します。

なぜこの瞬間を「晴れ上がり」と呼んでいるかというと、
それまでは「霧がかったように見えた」からなんです。

空に浮かぶ白い雲は、太陽の光が雲の水滴や氷の粒に反射してまっすぐに進めないから白く見えています。同じように、ビッグバン直後の宇宙は電子が自由に飛び交っていたので、光は電子と衝突してまっすぐに進めませんでした。なので、白い雲に覆われたように霧がかっていたと考えられているんです。

「宇宙の晴れ上がり」については、以前に書いた記事で紹介しております。
もしお時間があれば、お読みいただければと思います。
<宇宙の起源に迫る!ついにとらえた「原始重力波」からのメッセージ>
http://blog.miraikan.jst.go.jp/topics/20140320post-474.html

この「晴れ上がり」という表現について調べたところ、
名付け親は日本人の物理学者の佐藤文隆博士だという記述を見つけました。

しかし、ある意味「脹れ上がり」もしくは「腫れ上がり」でも、膨張が緩やかになった直後の宇宙ということで、的を得ているのかもしれません。ご指摘ありがとうございました。

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