2014年ノーベル化学賞を予想する②~家族計画を可能にした男~

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 みなさん、こんにちは。寒暖の差が激しい毎日が続いていますが、風邪などひかずに過ごされていますか。今日は今年ノーベル化学賞を受賞しそうなこの方をご紹介したいと思います。20140905_goto_01.JPG

カール・ジェラッシ博士 (提供:Wikimedia Commons)

カール・ジェラッシ(Carl Djerassi)博士です。

 カール・ジェラッシ博士はオーストリア生まれの生化学者。今年、90歳です。ルイス・ミラモンテス博士(故人)とジョージ・ローゼンクランツ博士とともに世界で初めて経口避妊薬(ピル)をつくりました。1951年のことです。

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 現在ピルにはいくつもの種類がありますが、彼らがつくったのは、ノルエチステロンという成分です。図で示したように、ノルエチステロンは妊娠中に多く分泌される女性ホルモンの一種、黄体ホルモンに似ているので、飲むと黄体ホルモンのようにはたらきます。体が妊娠中だと誤解するわけです。これが、避妊薬として使える理由です。 赤ちゃんを産む時期を自分たちで決められるようになったことで、女性は社会でより活躍しやすくなりました。

 ピルのはたらきをもう少しくわしく書いておきます。女性にはおよそ1ヶ月の「卵巣周期」があります。卵子が毎月1つずつ卵巣から放出され(排卵)、卵管に入り、受精しなければ子宮内膜とともに体外に出ていくというリズムのことです。卵管内で卵子と精子が出会い、受精に成功し受精卵が無事に着床すると、赤ちゃんとしての成長が始まります。着床とその後の妊娠を維持するのに重要な役割を果たすのが黄体ホルモンです。黄体ホルモンの分泌によって体は妊娠状態だと認識します。 妊娠状態だと排卵はおこりません。だから、黄体ホルモンそっくりのノルエチステロンは避妊薬として使えるのです。卵子がなければ受精も起こらず、妊娠を避 けられるというわけです。 また、卵巣周期はいくつかのホルモンで調節されています。1つは脳の下垂体という部分から分泌される性腺刺激ホルモン。これを受けて、排卵時の卵子(この時は何重もの膜に覆われた「卵胞」という状態です)の表面からは卵胞ホルモンが、そして卵巣からは黄体ホルモンが分泌されます。これらのホルモンが適切なタイミングで分泌されることで、卵巣周期がつくられます。ピルは、このしくみを利用して、月経に伴って著しく体調を崩してしまう月経困難症の治療も行います

  ジェラッシ博士らの研究で特に優れているのは、飲み薬にできたという点。飲み薬は、注射薬などと違って誰でも簡単に服用できますが、飲んですぐにそのまま体に吸収されるわけではありません。消化管を移動しながらさまざまな代謝を受けるので吸収されるときに効き目のある構造にする工夫が必要です。ジェラッシ博士らは、それに見事に成功したのです。 その甲斐あって、ピルは今、世界中に広まっています。普及率はどんどん上がって、ドイツをはじめヨーロッパでは半数近い女性がピルを服用して家族計画に役立てています。アメリカでも30%程度の普及率です。

 さて、ここまでジェラッシ博士が生み出したピルについて書いてきましたが、実は彼には作家としての一面もあります。科学者たちを主人公にしたScience-in-Fictionと いう新しいジャンルを生み出し、物語を通して、研究者倫理や生命倫理について私たちに問いかけてきました。日本では『ノーベル賞への後ろめたい道(旧題: カンター教授のジレンマ)』や『男たちの薬』などが翻訳されています。理研でのSTAP細胞騒動をはじめ、ハーバード大学の関連医療機関でも世界的に影響力のあった論文において研究不正が発覚するなど、今年は研究者倫理も大きな話題になっています。そういう今だからこそ、ジェラッシ博士がノーベル賞を受賞したら、その意義は深いと思います。彼の文学作品にも再び脚光が集まってほしい!

 ということで、今日はピルの父、カール・ジェラッシ博士をご紹介しました。次回のノーベル賞予想ブログもお楽しみに!!

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