2014年ノーベル賞生理学・医学賞を予想する② DNAの使い方を決める仕組みとは!?

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科学コミュニケーター金に引き続き、ノーベル生理学・医学賞予想第二弾。

第二弾は、樋江井が予想します!

今年のノーベル賞では、

エピジェネティクス

がくるのではないかと予想します。

わたしたちの体は約37兆個の細胞でできているといわれますが、1つ1つの細胞はほとんど同じDNAを持っています。しかし、脳の細胞と、皮膚の細胞、血液の細胞などでは形も機能も異なっています。

なぜでしょうか?

実は細胞はどういう環境下にあるかによってDNAのどの部分を使うかが違ってきます。その結果として、機能が変わってくるのです。DNAのどこが使われて、どこが使われていないかは「エピジェネティクス」という仕組みで決まり、現在、非常にホットな研究分野となっています。エピジェネティクスは生命のはじまりである発生現象や、がん治療や再生医療分野と深く関わりがあるとされ、とても注目されています。

そして、 そのエピジェネティクスの研究で偉大な貢献をしたのが、

下の写真のデビッド・アリス(C. David Allis)教授なのです!!

140910_hiei.jpg           写真:David Allis 教授(提供:ロックフェラー大学)

アリス教授は、ヒストンの化学修飾によりDNAの使われ方が変わることを1996年に明らかにした人物です。

 当時、DNAの配列を知ることができたら、私たちの体で起こっていることはすべてわかるだろうとばくぜんと考えられていた時代でした。しかし、実際はDNAの配列だけでは生命現象が説明できず、DNAがどう使われているか=エピジェネティクスの研究に注目が集まりはじめていた頃でもありました。「いったい、 どんな仕組みでDNAが使われたり、使われなくなったりするのか」と世界中の研究者が頭を悩ませている中、アリス教授がヒストンの化学修飾によりDNAの 使われ方が変わることをつきとめたのです。この発見は、エピジェネティクス研究の大きなブレークスルーとなりました。

 

ん、ヒストンの化学修飾?

専門用語がでてきましたが、大丈夫ですよ。ちゃんと説明しますからね。

まずは、ヒストンとは何か?からお話しましょう。

先ほどから何度も名前がでているDNA。ご存知の通り、生物の設計図みたいなものです。

このDNAは直径が数十μmという小ささの細胞の中の、さらに小さい直径5μm程度の核の中にあります。

このDNAをひも状にひきのばすと、どれぐらいの長さになるかご存知ですか?

なんと、おおよそ2mもあります!

こんなに長いのに、どうやって小さい核に収納できるんだ?

と疑問のわく方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、今回の主役、ヒストンの登場です。

DNAはヒストンに巻きつくことによって、コンパクトに収納されているのです。 小さい核の中に長いDNAを収納する仕組みの一端をヒストンが引き受けているのです。

140910_hiei2.jpg

この収納技術だけでもインパクトがあるのですが、 さらなる重大任務も引き受けています。

ヒストンの化学修飾により、DNAの使い方をかえることができるのです!

先ほどDNAの長さは約2mといいました。

しかし、実際に使われている部分はこの2mのほんの少しです。

なぜでしょうか?

冒頭で、私たちの体の中の細胞はどれもほとんど同一のDNAをもっていると言いました。でも細胞の種類ごとに形も機能も違います。細胞がそれぞれの機能を発揮するために、DNAの必要な部分だけを使っているのです。その使い方をわけるために重要なのが、ヒストンの化学修飾なのです。

ヒストンの化学修飾とは?

ヒストンはアセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化と様々なやり方で化学修飾されます。化学修飾とは、アセチル基やメチル基などがくっつくことをいいます。今回、ノーベル賞候補者にあげたデビット・アリス教授は、1996年にヒストンにアセチル基がくっつく(アセチル化される)ことによって、DNAが使われやすくなることを科学論文誌のCellに発表しました。なぜ使われやすくなるかというと、下の図のようにヒストンがアセチル化されると、ヒストンにまきついているDNAがゆるみ、その部分のDNAが使われやすくなるからだと考えられています。

140910_hiei3.JPG

 

アセチル化以外にも、ヒストンがメチル化されることでDNAの使われ方が変わることもわかっています。化学修飾のされ方によって、DNAの使われ具合がかわっていくのです。

ヒストンの化学修飾の研究は、

受精卵からおとなの個体に成長していく「発生」という生命現象の謎を解く鍵になります。

受精卵は1つの細胞から時間をかけていろいろな細胞にわかれていきます。いろいろな細胞になることを分化と呼びますが、分化する過程でDNAの使われ方がかわっていきます。細胞は分化しながら細胞分裂をすることによって増えていきますが、この時にDNAに書いてある情報だけでなく、DNAの使われ方まで引き継ぎます。そのようにして同一の機能をもった細胞を増やすのです。そして、また違う細胞に分化するときには、読み方をかえていきます。そうやって受精卵から、さまざまな機能を持った細胞に分化、増殖を繰り返すことにより一つの成熟した個体になっていくのです。ヒストンの化学修飾がDNAの使い方を適切に制御することにより、発生現象が起こるといわれています。ヒストンの修飾に異常があると、発生がうまくいかないことが報告がされています。

140910_hiei4.png 

         受精卵から赤ちゃんへの発生に、ヒストン修飾はとても重要

                   写真:Wikimedia commonsより転載 

そして、今をときめくiPS細胞の研究においても一役買っています。

一度、分化をして成熟した細胞になってしまうと、自然に元の状態へと戻ることはありません。そのセオリーを覆したのが、iPS細胞でした(詳しくは、科学コミュニケーター鈴木啓子の2012年のブログをご覧ください)。分化した細胞を再び体のいろんな細胞になれる状態に戻すことをリプログラミングといい、iPS細胞の作成には必要不可欠な現象です。ヒストンの化学修飾はこのリプログラミングの過程で重要な役割を担っているといわれています。

また、医療分野における展開も忘れてはいけません。

がんは遺伝子の異常が引き起こす疾患として知られていますが、ヒストンの化学修飾の異常も、発症に関与していることがわかっています。ヒストンの化学修飾に焦点をあてた医薬品の開発がすすめられています。

ヒストン修飾は基本的な生命現象に深く関わっており、その研究の先にはがん治療やiPS細胞を用いた再生医療がつながっています。先駆者として、この基本的な生命現象を解明したアリス教授はノーベル賞受賞にふさわしいのではないかと予想します。 ヒストン修飾以外でも、2013年度の予想で科学コミュニケーター西原があげていたDNAのメチル化もエピジェネティクスの仲間です。ハワード・セーダー(Howard Cedar)教授の業績もエピジェネティクスの理解に大きく貢献しました。こちらも注目ですね!

皆さんも、ぜひ自分なりの予想してみて今年のノーベル賞を楽しんでみて下さい。

参考

・Tetrahymena histone acetyltransferase A: a homolog to yeast Gcn5p linking histone acetylation to gene activation Cell 84:843-851(1996) David Allis.

・ 国際科学技術財団HP  http://www.japanprize.jp/prize_prof_2014_allis.html

・ エピジェネティクス-新しい生命像をえがく(岩波新書) 仲野徹著 

今年のノーベル賞関連イベントに関してはこちら

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