原始重力波のメッセージの正体は「ノイズ」かもしれない

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(国立天文台・HSCプロジェクトより)

  

宇宙の起源に迫る「原始重力波」の痕跡を確認した−−。今年3月、好奇心をくすぐる大ニュースが世間を揺るがしました。しかし、その3カ月後の6月、「観測したのは本当に原始重力波の痕跡なのか?」実験結果に厳しい目が向けられていることを、本ブログで伝えました。今回の記事はその続編となる第3弾です。

 

つい先日の9月22日、真偽のゆくえの鍵を握る重要な論文が発表されました!

内容は「3月に発表した実験で観測した空の光は"ノイズ"が大きい」というもの。今回の論文は中間報告なので、「観測結果からノイズを取り除いて結果を再評価する必要がある」と弱い表現で書かれています。しかし、海外の科学記事では「さらに疑いが強まった」「発表は勇み足だった」と厳しい言葉で伝えています。果たして今回の論文で何がわかったのか、気になる今後の展開やいかに!?

 

 

これまでの記事はこちら!

 

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※おさらいの内容をもっと詳しく知りたい人は、過去の記事を読んでください。

※今回の記事はおさらいが多いので、知識のある方は読み飛ばしてください。

 

 

 

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まずはこれまでの流れを簡単におさらいしましょう。宇宙は生まれてすぐに、急激に膨らんだのではないかと考えられています。どのくらい急激かというと・・・

 

0.00000000000000000000000000000000001秒(0が36個)という一瞬で、100000000000000000000000000倍(0が26個)の大きさです!

 

そして、アインシュタインが予言しました。時空が急に歪められると、時空のゆらぎが波として伝わる「重力波」が生まれると。その宇宙が誕生した瞬間に生み出された重力波を「原始重力波」と呼んでいます。

 

 

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この原始重力波はまだ、直接観測することはできません。しかし、原始重力波は宇宙が誕生して38万年後の「宇宙の晴れ上がり」のときの若々しい光に、ある"痕跡"を残しました。それが、渦を巻いているような偏光パターン「Bモード」です。この特殊な偏光パターンを観測することで、間接的に原始重力波を観測したというのが、3月の発表の肝でした。

 

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もし原始重力波を間接的にでも観測できれば、生まれてすぐの宇宙は急激に膨らんだという「インフレーション理論」の裏付けになります。そして、この理論の提唱者の一人が、自然科学研究機構の佐藤勝彦機構長宇宙はどうやって誕生したのか」という問いに迫る理論の証拠のひとつになるかもしれないと、盛り上がりました。 

 

 

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先ほどの図を見ると、確かに渦を巻いているように見えます。実験結果はいったいなぜ疑われたのでしょうか? 実は「宇宙の初期の光のBモード偏光(渦巻き)を観測した」のは確かなのですが、渦巻きを作った原因があいまいなのです。宇宙の初期の光を渦巻きのように偏光させる要因は、原始重力波だけではなく、他にも少なくとも2つあると考えられています。ひとつは、天体の強い重力で光が曲げられる「重力レンズ効果」によるもの。もうひとつは、「銀河の塵の効果」によるものです。銀河の塵は磁場の影響で向きがそろっているため、反射する光の波の振動方向がそろって偏光します。そして今回は、「原始重力波の影響ではなく、銀河の塵の効果により偏光したのではないか」と疑問が投げかけられているのです。

 

 

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それでは最後のおさらいです。今回の記事に登場する、原始重力波の痕跡を探す実験装置を2つ紹介します。まずは、南極にあり地上から宇宙の光を観測する実験装置「BICEP2(バイセップ2)」。3月に原始重力波の痕跡を観測したと発表した研究チームが使っている装置です。そしてもうひとつは、打ち上げた衛星を使って宇宙から光を観測する実験装置「Planck(プランク)衛星」。銀河の塵の影響ではないかと疑問を投げかけている研究チームが使っている装置です。

 

 

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前置きが長くてすいません。ここらへんで1回深呼吸をしましょう。吸って〜・・・吐いて〜・・・。それでは長らくお待たせいたしました。ようやく今回の記事の本題に入りたいと思います。ここから読み始めた人はこんにちは。よろしくお願いします。

  

まずは「今回発表されたPlanckの研究チームの論文」を紹介します。論文のタイトルの最初には「Planck intermediate results.」と書いてあります。つまり今回の発表は中間報告。前回のブログで「真偽のゆくえは10月に持ち越し」と伝えましたが、その発表の中間報告が今回の論文です。

 

下の画像は論文の1ページ目。黄色い場所に書かれた小さい文字は、著者の名前です。数えてみたら、なんと229人! Adam氏からZonca氏まで、きれいにAからZまでの順番に並べられています。

 

 

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今回の論文で発表された実験結果の目玉は、「銀河の塵の効果がどれほどかを示した地図」です。それではさっそく見てみましょう。

 

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この図は「銀河の塵による偏光の強さ」を表しています。左側は北半球に宇宙から降り注ぐ光で、右側は南半球です。この「銀河の塵による偏光」は、本来観測したい「原始重力波による偏光」を霧に包んでしまう"ノイズ"になってしまいます。言いなれば"邪魔者"です。青いところほど塵の影響が少なく、観測に適した"きれいな"領域。一方、赤いところほど塵の影響が大きく、観測に適さない"汚い"領域です。

 

そして注目されるBICEP2が観測したところは、右側の南半球の円の左下にある黒い線で囲まれた領域です。「緑色だからまあまあいいじゃん」って思うかもしれませんが、この場所でも十分に銀河の塵の影響があると指摘しています。論文の要旨にはこう書いてあります。

 

 

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つまり、銀河の塵の影響を無視できるような"きれいな"領域はない。必ず銀河の塵の影響を取り除かないと、原始重力波による偏光は正確には観測できないと主張しています。

(文中の「宇宙マイクロ波背景放射」とは、おさらいで説明した、宇宙が誕生して38万年後の「宇宙の晴れ上がり」のときの若々しい光のことです。)

 

 

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BICEP2の観測からは、原始重力波による偏光を見つけられないのでしょうか? まだ完全に決まったわけではありません。実はPlanckとBICEP2とで、観測した光の波長が違うのです。Planckが観測した光の周波数は353GHz(ギガヘルツ)。一方BICEP2は150GHz。つまり波長に置き換えると、Planckの方がBICEP2より短い波長の光を観測しているので、そのまま単純に比較することはできません。論文ではこのように説明しています。

 

 

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次のステップとして、PlankとBICEP2の研究チームがデータを付き合わせて共同で解析し、BICEP2の観測結果から銀河の塵による偏光を取り除いたあとに残った弱いシグナルの中に、原始重力波による渦巻きの偏光パターン「Bモード」が観測できるかが注目されます。学術雑誌「nature」の記事によると、一部の研究者からは、BICEP2の観測結果から原始重力波による偏光を見つけ出すのは難しいという見方もあるようです。7月に始まった両研究チームの共同解析の結果は、11月下旬にも発表される予定です。

 

 

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結果を残念がる雰囲気もある一方で、Planckの研究チームに参加している天体物理学者François Bouchet氏は、今回観測された「銀河の塵による偏光の強さ」の地図を「treasure map (宝の地図)」だと表しています。

 

どの領域の空を観測すれば銀河の塵の影響が少ないか銀河の塵のノイズをどうやって取り除くか・・・。今回の実験結果は、原始重力波の痕跡の観測を目指す研究にとって、貴重な道しるべになるからです。原始重力波の観測に向けた研究は、着実に一歩ずつ進んでいます。いつか未来の研究者が原始重力波の痕跡という「財宝」を掘り当てる日を、楽しみに待ちましょう!


 

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