いざ参らん!ノーベル賞のその先へ(化学賞編)

このエントリーをはてなブックマークに追加

「ノーベル賞のその先へ」。 受賞研究の行方を知りたくて、そんなタイトルをつけてみたものの、 研究者に伺ってみると、 思いもしない答えが返ってきたわけで。

こんにちは。志水です。

今年のノーベル賞について研究者にお話を伺うシリーズの第2弾です。

20141025_shimizu_01.jpg

前回は、ノーベル生理学・医学賞について理化学研究所の山口陽子先生にお話を伺いました(記事はこちらからどうぞ)。

今回は、ノーベル化学賞について伺うために、同じく理化学研究所の宮脇敦史先生の研究室を訪ねました。

宮脇先生は、「蛍光タンパク質」の第一人者です。蛍光タンパク質は、いわば細胞を照らす小さなライト。細胞の中の見たい部分だけを光らせます。今年のノーベル化学賞の受賞内容である「超高解像度の蛍光顕微鏡」には欠かせないものなのです。

そんな宮脇先生に今後の蛍光顕微鏡について伺うと意外な言葉が返ってきました。

 

「ノーベル賞を受賞した蛍光顕微鏡である『PALM』や『STED』には、まだまだ課題がいっぱいあります」

 

えーっ、ノーベル賞をとった研究でも、完成にはほど遠いの!?

 

ほら、物理学賞の青色LEDは私たちの身の回りですでに使われているじゃないですか! 「ノーベル賞」イコール「ほとんどゴール」と、この日の取材まで勘違いしていた志水は、ノーベル賞は新たな研究のスタートでもあることを思い知らされました。ノーベル賞のその先へ、もっと先へと挑み続ける研究者の姿をご覧ください。

 

==================================

ノーベル化学賞について宮脇敦史先生に聞きました!

(今年の化学賞について知りたい方は、高橋の記事もご覧ください。)  

20141025_shimizu_02.jpg

宮脇敦史先生が、私のためだけに講義をしてくださいました!

板書はSTED顕微鏡に関するもの。

今年の化学賞は「とても小さな世界を見られる蛍光顕微鏡」を開発した3人の研究者に贈られました。

蛍光顕微鏡は、細胞の構造を観察するときによく使われる顕微鏡。 見たい部分だけを光らせることで、細胞の構造を見ることができます。 同じく細胞の構造を見るのに使われる電子顕微鏡に比べ、生きた状態により近い構造を見ることができるという長所があります。

しかし短所は、光がぼやけてしまうと詳しい構造が分からなくなってしまうこと。 そこで、今回の受賞の対象となった2種類の顕微鏡「STED(ステッド)」と「PALM(パーム)」では、「蛍光を発する分子が、光ったり消えたりする性質」をうまく利用しています。特にPALMとよばれる手法では、「光を当てて、蛍光をオンにしたりオフにしたりすること」つまり「光スイッチ」が重要な鍵を握るのです。

 

「光を浴びると、オンになる」。おしとやかな女性がスポットライトを浴びて、歌手としての才能を花開かすのと、なんだか似ていますね。

 

この「光スイッチ」の研究で宮脇先生は世界的に知られています。 宮脇先生が開発された有名な「光スイッチ」が「Kaede(カエデ)」です。 Kaedeは、サンゴの一種「ヒユサンゴ」から2002年に見つかった蛍光分子。 紫外線を当てると、紅葉するがごとく、放つ色が緑色から赤色に変わります。(ちなみに、大学時代サンゴを研究していた高橋は、担当した化学賞とサンゴが関わりがあることを大変喜んでおりました(笑)。)

20141025_shimizu_03.jpg

  カエデ・シンデレラストーリー

このKaedeを、観察したいタンパク質に、携帯ストラップのようにくっつけておくと、タンパク質が細胞のどこにあるかが一目瞭然というわけです。

 

ん?Kaedeって、そもそも緑色に光るんですよね?じゃあ、わざわざ赤く光らせる必要はないんじゃないですか?

 

そこに気づいた読者のみなさん、鋭いですねえ。 でも、細胞の細かい構造を観察するためには、光スイッチを使って緑色から赤色に切り替えなければならないのです。

蛍光顕微鏡の一種「PALM」を例にしてご説明しましょう。下の図をごらんください。

20141025_shimizu_04.jpg

細胞の中には、同じタンパク質(図では青い円柱。これにKaedeをくっつけています)がたくさんあります。近くにあるタンパク質がいっぺんに光ってしまうと、タンパク質がどのように配置されているか、よく分かりません。

そこで、Kaedeの出番です。この細胞にものすごくよわーーく紫外線を当てます。すると、ほとんどのKaedeは緑のままなのですが、赤い光を出すKaedeがポツリポツリと1個ずつ現れてきます。

20141025_shimizu_05.jpg

1つのKaedeから出ている光をさらによーく見ると、中心ほど強い光を発しています。つまり、赤い光の円の中心にタンパク質の場所を絞り込むことができます。このような作業を何回も繰り返して、最後に1枚の写真になるように重ね合わせると、それぞれのタンパク質がどこにあるか分かるのです。

 

ね?光スイッチって大事でしょ?

 

宮脇先生は、この働きを「聖徳太子」に例えています。

 

「聖徳太子は10人の言葉を同時に聞き取れたそうだが、常人には無理。普通は、『ちょっと待て』と言って、1人ずつ話を聞く」

 

なるほど、言い得て妙、ですね。1人ずつを10回繰り返せば、結果的に10人の言葉を聞き取れます。PALMもこの原理です。

ちなみに、今回のノーベル化学賞を紹介するノーベル財団の資料にも、Kaedeを使って細胞の中の「リソソーム」という器官の構造を撮影した写真が紹介されていたんですよ。

20141025_shimizu_06.jpg

ノーベル財団のプレスリリースを一部改変。

Kaedeを使ったPALMでは、リソソームの構造がくっきり見えますね!でも、初めの宮脇先生の言葉を思い出してください。「PALMやSTEDには課題がいっぱい」。 こんなにきれいな写真が撮れるのに、どこが問題なのでしょう?

 

「1枚の写真を撮るのにも、まだまだ時間がかかりすぎるから、生きた細胞、すなわちタンパク質が動いている細胞はなかなか観察しにくいですね」

 

例えば、PALMでは1枚の超高解像度写真を撮るのに数秒から数分かります。家族写真を撮るときには数秒くらいなら動かずに我慢できますが、細胞の写真を撮ろうとすると、観察したいタンパク質が動き回ってしまうのです。だから、通常は細胞の活動を止めてしまうそうです。でも、さまざまな生命現象を解き明かすには、生きた細胞の活発な姿、タンパク質の動きを観察しなければなりません。

宮脇先生のお話では、光スイッチの性能はまだまだ改良の余地があるとのこと。例えば、オンとオフを切り替える速度。切り替えが速くなれば、撮影にかかる時間も短縮できますよね。他にも、緑と赤あるいはオンとオフのコントラストなどに関して開発が進められているそうです。さらに、顕微鏡やソフトウエアの改良と組み合わさって、近い将来PALMの技術は確実に進展するとのこと。今後、細胞の新たな姿を見られるようになるかもしれませんね。

==================================

生理学・医学賞と化学賞、2つの分野のプロフェッショナルにお話を伺いました。お二人のお話で印象的だったのは、「まだまだ研究しなければならないことが、たくさんある」という探究心でした。ノーベル賞受賞者さえまだ見ぬ世界が明らかになるかもしれないと思うとワクワクしますね。日本の研究者の皆さまのご活躍をお祈りしております!

さてさて、物理学賞については、科学コミュニケーターの福田が取材に行ってまいりました。

 

その取材先は......

なんと、受賞者のお一人、天野浩先生!

 

もうすぐブログでもご紹介いたしますので、乞うご期待!

※コメントをする際は「ブログへのコメント投稿について」をご覧ください

※「名前」は、ハンドルネームでも構いません

コメントを残す